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序章第三節 石原鳴月維、王都警備開始
五十七.無職 イシハラナツイ
しおりを挟むさ、ライオンも魔物も倒した事だし帰るとしよう。
いや、そういえば試験の途中だった。エミリ達はどうなったかな?
考えていると俺のところに鳥がやって来た。
「ぴいっ! 御主人様御主人様! 任務は完了したぴよ!」
「エミリと母親は?」
「シューズ様がついてるぴ! 御主人様が幹部を倒したから魔物達も退き始めるっぴよ!」
「つまり?」
「試験完了! 魔王軍との戦争にも勝利! だぴ!」
「イイね」
俺はイイねを押した。
ようやく全て終わったわけだ、いや、ようやく俺の計画『異世界だらだらライフ』の始まりってわけだ。ただ就職してぐーたらしようとしてただけなのにえらい長かった。
<<<ワァァァァァアアアアアアアアアアァァアアアアアアアアアアッ!!>>>
住民達が歓声をあげた。街が無事で良かったな、俺には関係ないけど。さぁ帰ろ、飯でも食ってから帰るか。
「あっ……! お、おいアンタッ! どこ行くんだ!?」
あ? 何だ?
歓喜している住民達に声をかけられ呼び止められる。
「アンタが……あの魔物を倒したんだろ……? 俺ははっきり見たぞ……」
「そう……だよな……? 最後は完全に……あの警備兵が倒したんだよな…」
「それに……いくら足を引っ張られたとはいえ……勇者様は手も足も出てなかったし……」
「……うん、それに……さっきあの魔物……あの警備さんの事を勇者って……」
「あの警備さん……勇者様より強いの……?」
「馬鹿! そんなわけ……それに……仮にそうだとしても……」
住民達は困惑したように話し合いをしている。人を呼び止めといてなに話し合いを始めてるんだこいつら。帰っていいのか?
「(ま、マズイのん勇者!! 完全にオッサンに全部もってかれたのんっ! 何してるのんっ!)」
「(しっ……仕方ねーだろっ! あの変な棒みたいな武器であんな滅茶苦茶な技術使うなんて思わなかったんだよ! 呆気にとられちまって動けなかったんだよ!)」
「(マズイのん! もう言い訳も……通用しそうにないのんっ!)」
「(……大丈夫だよ! なんたって俺ぁ『勇者』だぞ! 『警備兵』の事なんざ誰が信用するかよっ! みてろっ!)」
するとバカ勇者が突然、住民に向かって演説し始めた。
「みんな見たかっ!? これが『勇者』の力だ!! おい、オッサン! 俺の『技術』でカバーしてやったぞ! とどめは持ってかれちまったがよくやったな! 俺の『技術』が無かったら危ねぇとこだったが!」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
勇者が無理矢理自分の手柄にもっていこうと頑張っている。しかし、さっきまでとは違って住民達は怪訝な顔どころか明らかに怪しむような顔をしていた。
「……そう見えたか……?」
「ううん……警備さんは一人で魔物と戦ってたように見えたけど……」
「……そうだよな……」
住民が話し合いを続けていると、今度は別方向から乱入者が叫び始める。
「何を言ってるでおじゃるかっ!! ワチキは見ていたでおじゃるっ! あれは全部『勇者』様の『技術』でおじゃるっ!! たかが警備兵があんな強大な技術を使っているのを見た事あるでおじゃるかっ!?」
戦いを静観していた鼻毛丸一行の騎士団だ。こいつらまだいたのかよ。鼻毛丸は続ける。
「騎士団全員が見ているでおじゃるっ!! 魔物を退けたのは勇者様の技術! あの警備兵は自分がやったように見せていただけでおじゃるよ! 素人の目は欺けても……戦闘事に関して騎士達を誤魔化せると思うなでおじゃるっ!」
「そ……そうなのか……?」
「確かに速すぎてよく見えなかったけどよ……」
「あれは全部……勇者様がやっていたのか……?」
鼻毛丸達の援護で住民達に迷いが生じたようだ。
「そんなわけないじゃないですかっ! あなた達はどこまで愚かなんですかっ!!」
聞いた事のある声が民衆の中から叫びをあげた。確認しなくても誰かわかる、面倒事に飛び込むのが大好きなムセンだ。
「全部人の言う事だけを盲信して生きていくつもりですかっ!? 一体今なにを自分の目で見てたんですかっ!! 魔物を倒したのはイシハラさんですっ!!」
「ぴいっ!そうだっぴよ! 御主人様がやったんだぴ!」
「……私も見てた、倒したのはいー君」
鳥とウテンも争論に加わった。
「騎士団! やつらを黙らせるでおじゃるっ!!」
ガチャンッ!!
「っ!!」
騎士団がムセン達に剣を突き立てる。
「……はんっ! 何を言っても無駄なのんっ! お前らの言う事なんて誰も聞かないのんっ!」
「そーいう事だ! それが世界を救える勇者一行といてもいなくてもいい警備兵の絶対的な信用の差なんだよ! はっはっはっ! 残念だったな! お前らが何をしようが無駄なんだよ!」
「……っ!」
ムセンも鳥もあのウテンさえも勇者達を睨む。住民達はザワつきながら判断に迷っている様子だ。
「お姉ちゃんをイジメるなっ!!」
ゴツッ!
「痛っ!? なんだっ!?」
ムセンに剣を突き立てていた騎士に石が投げられた。様子を見ていた子供が投げたみたいだ。
「お姉ちゃんは僕をなおしてくれたんだっ!! こわがってた僕をだきしめてくれたんだっ!! お姉ちゃんをいじめたらっ……ゆるさない!」
「……わ、わたしもっ! お姉ちゃんがいたいのとんでけーしてくれたっ!! お姉ちゃんをイジメないでっ!」
「……………そうよ、あの警備の子は……自分よりも皆のケガを治すために尽くしてくれたっ……!! 私はあの子の事を信じるわ!」
「俺もだ! 警備兵だからとか関係ない!! 二人は街の……みんなのために戦ってくれただろ!」
住民の中からちらほらと、ムセンに味方するやつらが現れたようだ。
「皆さん………」
「おいてめえら、本気で言ってんじゃねえだろうな……? 警備兵の戯言を信じて勇者や軍師の言う事を疑うってのか……?」
騎士団の中からフラフラと肉マン騎士が現れた。足にきているようだが、住民達を睨むその眼光の鋭さと気迫はまだ健在のようだ。
「「「……っ!!!!」」」
ムセンの味方をして声をあげた数少ない住民達は肉マン騎士に圧倒され、黙りこんだ。
「わかってんのか……? 勇者や騎士を疑うってことは国家不敬罪に相当する……よくて国外追放……死罪もありうる……わかったら口を閉じてろ」
「………」
「………」
「………」
「………」
「でゅぇっ!! でゅしたりゃっ……!! 警備さん本人にしょっ!証明してもらったりゃっ! いいのではないでしょうきゃっ!!!」
ちょっと何言ってるかわからない噛みまみたレベルの発言が群衆の後ろの方から発せられた。
「警備さん本人がその技術を使えば皆さんも納得するでしょう! 先ほどの不思議な技術を警備さんが使えれば……信じるほかないでしょう! 魔物を退けたのは紛れもない……警備兵だということをっ!」
聞き覚えのある声だ、無事だったのか。良かった良かった。
「ぴいっ! あれは……キイチ様だっぴ! 隣にいるのは……奥様とお子様だっぴ!?」
「スズ・キイチ・ロウ、無事だったみたい。良かった」
「スズさん……っ!」
スズキさんには綺麗で淑(しと)やかそうな女性とよく似た子供が寄り添っている。
「シャイナ……リィナ……すみません……もしもこれで……私が不敬罪に問われたら……」
「ふふ、カッコよかったですよ、あなた。私はあなたの妻です、あなたの大事な方々を守るためでしたら……私はどこまでも連れ添いますよ」
「うん! パパかっこよかった!」
スズキさんが援護してくれたおかげでまたもや住民達に迷いが生じているようだ。
「そうだな……さっきのあの魔物達を消滅させた技術を見せてもらえれば……どっちがあの魔物を倒したのかわかるな……」
「あの警備さんがさっきの技術を使えば……間違いなく警備さんが倒したってことよね……?」
「そうだ、それか勇者様に証明してもらえばいいんだ! さっきの技術が間違いなく勇者様が使ったものだってことを!」
「……ちっ! 誰か知らねぇが余計な事をっ……!」
「マズイのん勇者……! あのオッサンが使ってた技術………できるのん!?」
「できるわけねーだろ! あんな変な技!」
「さぁ! 警備兵! さっきの技術もう一回見せてくれ! 魔物を退けたあの技術を!」
何か勝手にお膳立てが出揃ったようだ。ここにいる全員、誰が魔物を退けたか証明されるのを待っている。
誰が国を救ったか、それはこの先、誰がこの国を守っていくのかという意味合いもあるのだろう。
この国の、この世界の行く先を、誰に託せばいいのか。
「おい、アホ勇者」
俺は勇者に声をかける。
「あぁ!? 誰がアホだっ……」
「お前は魔王軍の強さを知った今でも、魔王を自分が倒すと言い張れるか?」
「……はぁ?! 意味がわからね……」
「いいから答えろ、魔王はお前が倒すのか?」
「………あたりめーだろ! 魔王を倒せるのは俺だけだ!」
ふむ、なるほど。ならばよし。
すまないな、ムセン、鳥、シューズ、スズキさん。
俺は住民達に向け、言った。
「何言ってんだお前ら、俺はまだ無職だぞ。技術なんか使えるわけないだろう、倒したのは勇者だ勇者」
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