179 / 207
二章第二節 一流警備兵イシハラナツイ、〈続〉借金返済の旅
■番外編.ある男の記憶(きろく)② ※???視点
しおりを挟む僕は路地裏で目を覚ます、身体中が痛い。
あの後、僕は衛兵達に楯突き少年を逃がした。少年は無事に逃げれたであろう、その対価として僕が貴族様の怒りを買いーー衛兵にこっぴどく痛めつけられたのだから。
昼日中の出来事で人目もあったためか、処刑されるような事はなく鬱憤の捌け口になっただけで済んだようだ。
「……痛っ……」
狭い空を見上げながら体を少し動かすと鈍い痛みが全身に響く、打撲だけで骨折はしていないし深い傷はない。僕の持つ『技術』で致命傷を避けるくらいはできる。攻撃自体を全ては躱せないし、衛兵を退けるような力が無いのはこの技術の難点ではあるが。
僕には一部の記憶と共に、体に染み付いていた『技術』があった。
それを修得するに至った記憶は勿論ないが、それでもどう使えばいいかは体が勝手に覚えている。
(……けど、この技術が何故に僕に備わっているのかは理解できない。僕の生まれによるものなのか、それとも……僕の知らない『前職』による経験か)
表通りからは通行人が通りすぎながら倒れている僕をちらちらと見る。が、当然の事のように素通りで僕に声をかける気もないらしい。
これがいつもの日常、どこかで差別による迫害が起きても『職業』の差があればそれは仕方ないとされて見て見ぬフリをされる。
大々と職業差別の排除を掲げている国でも、裏ではこんな事が毎日のように行われているのだ。職業階級を推進しているような国ではどんな支配が行われているのか想像するだけで恐ろしい。
「……何が平等だ……」
「ほっほっ、よくやるのぅ若いの。大したもんじゃ、久々に骨のある奴に会えたわい」
僕が拳を握りしめ血を噛み締めて呟いた一人言は途中で陽気な声により掻き消される。
よく見ると路地裏の奥、暗がりに一人の老人が座っていた。
「何の得にもなりゃあせんことこそが人が気づかぬ一番大切なものじゃ、皆それを理解しとらんのぅ」
陽気な老人は呆けている僕に向かってよくわからない事を呟く。一体何者なんだろうこの老人は、と思考している間にも絶え間無く話し
かけてくる。
「仕事もそうじゃと思わんか? 皆やっとる事は取るに足らんことに過ぎん。一人が何をしとったって世界は動かんし、役にも立たん。じゃが……その一人がおらんくても世界は動かんのじゃよ。それが一番大事な事なんじゃ。かつてそれを体現した男がおった……名を【アラン・ピンカー】」
ズキッ
老人は、僕の脳が記憶していた恩人の名前を何気に呟いた。そのせいなのか再び軽い頭痛が僕を襲った。僕は老人に問う。
「【アラン・ピンカー】……その人が何者なのか知っているんですか!?」
「……ほっほっ、勿論知っておるとも。知りたいのであれば来るかの? 【アラン】が辿った道と同じ場所に」
そう言って老人は僕に手を差しのべる。
正直なところ、僕は失った記憶にあまり固執してはいなかった。それよりも今を生きることの方が大切だと思っていたからだ。
だけど、その恩人が僕にとって何であるのかだけはずっと知りたかった。
僕は迷う事なく老人の手を取る。
「ほっほっ、お主はこれからギルドマスターとなり仕事と向き合うのじゃ。【アラン】が遺した職業……【警備兵】となってな」
「……【警備兵】……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
それから僕は【カール】と名乗り、様々な協力と支援を得て警備協会を設立した。警備ギルドにはそれから様々な人間が入っては消え、僕を含め残っている同志は四人だけとなった。僕と同じように【アラン・ピンカー】に救われた亜人のエア、孤児だったビリー……そして、僕を誘った未だに謎の多いジレ爺。
警備協会の仕事はどれも奴隷のようなものだった、それでもここまでやってこれたのは……【アラン・ピンカー】への崇拝心と、あの時ジレ爺が言ったーー『得にならないものこそ一番大切なもの』という曖昧であり真理でもあるような教えが未だに心に残っていたからだ。
「………」
僕は空を見上げながら街を歩く。
人々は相も変わらず偏見と蔑視を込めた視線を自分より下の立場の人に向けるのを止めないし、差別もより一層浮き彫りとなっていた。更には異界人達が頭角を表し始めた事により今世界は混乱に満ち溢れている。
「………なにも……変わってないじゃないか……ふふ……」
ジレ爺もエアもビリーもいなくなってしまった。
仕事でもない、何の得にもならない余所の国の警備兵を救(たす)けるためだと言って飛び出して行った。
僕は、これ以上【警備兵】の名を汚さぬように教会に向かう。三人の除名と職の剥奪を申請するために。
「………残念だったね、君達が一生懸命やってきた仕事は何のかたちにも残らなかった……無駄なことばかりやっているからだよ……もう、終しまいにしよ……」
「あっ! カール君っ! いつもありがとうねっ!!」
突然、女性の声で僕の名とお礼が聞こえる。見ると料亭らしき店の前で恰幅の良いおばさんが僕に笑顔で頭を下げていた。
(……誰だっけ? もう三年近く街にいるから見かけたことくらいはあるかもしれないが……面識はない。何故僕の名前を……)
おばさんは僕の心を読んだかのように続けて言った。
「警備協会の局長さんだろ? たまに見かけたことがあってねぇ。カール君は有名だから顔は知ってるよ。いつ声をかけようか迷っちゃったけどねぇ」
「……何故僕に礼を?」
「そりゃあいつも助けてもらってるからさ。カール君だけじゃない、猫の子にもツッパリ君にもお爺ちゃんにもお礼を言っておいておくれよ、みんなが毎日街の掃除を引き受けてくれるからアタシ達は助かってるのさ。この時期は害虫とかも活性化して繁殖するからねぇ。今度ウチに食べにおいで! ご馳走するからさ!」
何と言っていいのかわからず、僕が思考していると……おばさんの言葉を皮切りにその場にいた通行人達が口々に僕にお礼を言ってきた。
「あぁ、君か。いつも助かるよ、ありがとう」
「みんなが嫌がるような事を進んで引き受けてくれて助かってるよ」
「君達がいなかったら害虫で溢れてただろうねぇ、大声ではいえないけど……兵士達は傲慢だからやってくれないだろうからねぇ」
「そうだな、だから警備兵達に仕事を押し付けてるんだろう。よく我慢してくれてるよ」
「それに自主的に街道で検問もしてくれてるんだろう? 兵士達だけじゃあ怠慢で変な奴が入ってこないか不安だったんだ」
「そうそう、本当に陰で色々してくれて助かる」
「「「「「ありがとう」」」」」
『何の得にもなりゃあせんことが人が気づけぬ一番大切なものなんじゃよ』
僕の頬を、何故か一粒の涙が伝う。
それが何に由来したものなのかはわからない、ただただ、嬉しかったのかもしれない。
ようやく、あの時の真意に一歩だけ近づけたことが。
(……無駄なことだと……無駄な考えを持っていたのは……僕の方だったんだ……)
この世界に無駄なことなんてないように、無駄な仕事なんて一つもない。得にならなくても、知らないうちに誰かを救っている。
(そうだ、それこそが……【アラン・ピンカー】の生き様だった)
すると、人混みの中からおずおずと申し訳なさそうに近づいてくる一人の少年がいた。
この少年には見覚えがあった、一年前……僕が衛兵から逃がした建築場で働く少年だった。
「……お兄さん、あのとき……逃げてごめんなさい……ずっとお礼が言いたくて……でも……街に近づくのが怖くて…………ありがとう、お兄さん」
「………ふふ、いいんだよ。君のおかげで……僕も大切なものを思い出すことができた、ありがとう」
僕は少年の頭に手を乗せ微笑んだ。
そして、街の外へ向かって歩き出す。得にもならない、大切なものを取り戻すために。
0
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
クラスの陰キャボッチは現代最強の陰陽師!?~長らく継承者のいなかった神器を継承出来た僕はお姉ちゃんを治すために陰陽師界の頂点を目指していたら
リヒト
ファンタジー
現代日本。人々が平和な日常を享受するその世界の裏側では、常に陰陽師と人類の敵である妖魔による激しい戦いが繰り広げられていた。
そんな世界において、クラスで友達のいない冴えない陰キャの少年である有馬優斗は、その陰陽師としての絶大な才能を持っていた。陰陽師としてのセンスはもちろん。特別な神具を振るう適性まであり、彼は現代最強の陰陽師に成れるだけの才能を有していた。
その少年が願うのはただ一つ。病気で寝たきりのお姉ちゃんを回復させること。
お姉ちゃんを病気から救うのに必要なのは陰陽師の中でも本当にトップにならなくては扱えない特別な道具を使うこと。
ならば、有馬優斗は望む。己が最強になることを。
お姉ちゃんの為に最強を目指す有馬優斗の周りには気づけば、何故か各名門の陰陽師家のご令嬢の姿があって……っ!?
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ゆう
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました
まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。
その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。
理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。
……笑えない。
人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。
だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!?
気づけば――
記憶喪失の魔王の娘
迫害された獣人一家
古代魔法を使うエルフの美少女
天然ドジな女神
理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ
などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕!
ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに……
魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。
「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」
これは、追放された“地味なおっさん”が、
異種族たちとスローライフしながら、
世界を救ってしまう(予定)のお話である。
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる