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二章第三節.イシハラナツイ、〈続〉〈続〉借金返済の旅
百三十七.こういうのじゃない
しおりを挟む「いざ、尋常に参ろうぞっ!」
お誂(あつら)え向きな広い空間に場所を移し、俺と棒侍は戦闘を開始する。
「ここぁかつてこの城に住んでた奴等が趣味で闘技場として使っていた場所だ、気にしねぇで暴れろ!」
ド=ゴーンは戦闘場を取り囲む観客席的な場所からそう言った。ムセン達やギャル達やガキ達も眼を輝かせながら勝負を見守っている。
どういった歴史で古城の地下に迷宮があって闘技場があるのか、マジで興味無かったので俺は仕方なく戦闘する事にした。
【護身術】
「痛し痛し痛し!? 何であるかこの面妖な技術による組み伏せ方は!? 堪忍堪忍! 某の負けである!」
棒侍は組み伏せられてすぐに降参した。何度目だこのやり取り、いい加減にしろ。
「ーーなどでも言うと思うたかっ!! 隙ありっ!」
終わりかと思って護身術を解くと棒侍はそう言って俺から離れて間を取った。偉そうな上に卑怯な真似をしてやる事は逃げるだけか。
距離を取った棒侍は腰の刀を手にして抜く。てっきり真剣かと思いきやーー単なる木刀だった。なんで鞘に木刀を収めてるんだこいつ。
「はぁぁぁぁっ!!」
棒侍は木刀を振り回す、だがそれは剣術を生業とする侍だとは思えない程に滅茶苦茶なものだった。単に振り回しているだけ。同じ侍繋がりで……確か昔どこかにチャラい侍がいたような気がしたけどそいつの方がまだマシなくらいだった。このレジスタンス、ロクな人材がいないな。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……一太刀も喰わんとは……貴様……はぁっ……予想よりできるようだ……」
棒侍は勝手に疲弊して息も絶え絶えだ。技術を使うまでもない相手だ。
レジスタンスだからって必ず戦闘しなきゃいけないってわけでもないが、位置的にNo.2っぽくて好戦的で戦闘専門みたいなこいつがこんな有り様で何を改革しようと言うのか。
場合によって戦闘が避けられない場面も必ず出るこの国で、ギャルもアラサーくノ一も棒侍も戦力にならないんじゃあ先が思いやられるな、と思っていた矢先に棒侍がその答え合わせをするようにニヤリと言った。
まるで心を読んでいたかのように。
「……いやお主、全てを声に出しているではないか……一体誰ぞに向け説明しておるのだ……まぁ良い。それはな某も派手オナゴや女忍者も隠された技術……【職業展開】を使えるからに他ならぬ……技術が無くとも力が無くともこれを使えれば術者は技術者と同等に渡り合えるのだ」
遂に出てきたな流行りの『領域』とか『術式』展開。術者が印を結んだりするとフィールドやら結界が創り出されるやつ。自分の力を百パーセント以上に引き出せたり相手を弱体化させたりと自分にのみ多大な恩恵を与えるものだ。
「左様……【職業展開】も同じく自分の領域を周囲に創り出す……そこでは術者の最大限の技術が発揮される上に巻き込まれた者は否応なしに弱体化する……」
「なんかマフィンフィールドみたいだな」
そういえば引きこもり魔女も同じ事やっていたな、あいつはなんでも自由に創造するとかいう規格外な領域を創ってたけど。
「元はそれの流用と聞く、だが魔女の領域の如く斯様に便利なものではない、展開される領域は術者の【職業】に依るものである上に天性の才が要求され……体力を削られ展開できる時間も限られるなど様々な制約があるものだ……」
「ふむ、だがその制約を甘んじて受け入れるだけの余りある恩恵を一時的に得られるわけか。一発逆転の死地活性(ドーピング)だな」
「左様、某らはこの隠された技術により差別を一掃せしめん。必ずや太平の世を築き皆が生きやすい国にしてみせようぞ」
成程、だが意気込みはともかくとして敵さんーーつまりこの国の奴等も同じ事ができたら結果は変わらないような気がするが。
まぁいいさ、とにかくその【職業展開】とやらを拝ませてもらうとしよう。流行りに乗るわけじゃないが、フィールドを展開するような技術は嫌いじゃない。鬼や呪いのそのジャンプ漫画では何かよくわからん難しい漢字を並べた領域を織り成す中二全開の技だった、だがそこがいい。男の子だけとも限らず女子だって中二病を避けて通る事はできないからな。
指で印を結んだりするのも男の子の憧れだし一発形勢逆転の技というのもポイントが高い、俺もそれが使えたりすればこの先とても楽が出来そうな気がする。
「くく……これは某が国の者一部のみが知る秘伝の技術故にそう簡単に真似できると思うな! しかと眼に焼き付けるが良い!」
すると、棒侍は手にした木刀を鞘に納める。そして左手を広げ前に突きだし、右手も開いたのちに頭の斜め後ろらへんに添えて、がに股になった。
どこかで見た事あるようなポーズだなぁ、と感じた。確かこれは歌舞伎などでよく見る『見得切り』だ、わからない奴は検索してみればいい。
どこからか樫の木を打つような音が聞こえるような気がする、その音に合わせるように睨むような表情をしながら棒侍は首を回す。これは明らかに歌舞伎だ。
「出(いで)よ! 『漢花道舞台』!!」
ーー【職業展開 職場(しごとば)開放】ーー
景色が変わる、幻術とかそんな類のものじゃない。明らかに現実に起こったその風景は殺風景だった闘技場からまるで【役者】の仕事場である『舞台』へと場所を一瞬で移した。
「くくく、遺憾なく力を発揮できようというもの……某が技術とくと味わうが良い!」
棒侍は自分のフィールドになったおかげで活き活きとしている。確かにこれは流行りの漫画でよく見るフィールドの展開だ。
だが、一言物申していいか?
こいつ『侍』じゃなくて【役者】だったのかよ。
そして思ってたのと何か違う、ださい。
いや、歌舞伎がじゃなくてこのフィールド展開技が。
職場開放ってそれただ単に働く場所(ところ)を見せてるだけじゃないのか?
こういうのじゃないんだよ。
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