百物語 厄災

嵐山ノキ

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第二話 水と話ができる男

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 フリーアナウンサーのH子さんはローカル番組のリポーターとして1つのコーナーを担当していた。
 『あなたの街の達人』というテーマで、凄い特技を持っている人への取材やインタビューで構成されている。
 しかし所詮はローカル番組であり、ネタもいずれ尽きる。最近はいわゆる奇人変人の類の人が登場する週もあって、コーナー自体の存続も危ぶまれていたそうだった。

 この日は『水と話ができる男』が出演してくれることになっていた。H子さんはカメラマンと共にその男性の自宅へ向かう。
 住宅街の一角にその家はあった。やや庭の植物が多いように見受けられたが、それ以外は至って普通の民家である。

「やあ、いらっしゃい」

 中へ入ると50代と思しき柔和な顔をした男性が出迎えてくれた。取材対象のCさんだ。
 すでに取材許可を取っており、事前の打ち合わせも済んでいたためにそのまま撮影に入る。まずは玄関での会話からだった。

「Cさんは水とお話ができるという特技をお持ちだとか」

「そうです。水が人間の話す言葉や感情を理解しているというのは知られていますよね」

 H子さんは全く知らなかったが、後日他のスタッフに聞いたところ、そういったことが書かれた奇書がかつて話題になったことがあるらしい。

「通常はあくまで人間から水への一方通行なのですが、私は水の側も何を言っているかを理解でき、お互いに会話ができるようになったのですよ」

「な、なるほど。それはすごい。では実際に、Cさんが水とお話されているところを見せていただけますでしょうか」

「はい。こちらへどうぞ」

 Cさんに家の中まで案内される。
 ある部屋に入ってH子さんとカメラマンは驚いた。
 棚という棚、机という机の上には凄まじい量のガラスのビン、コップ、花瓶などが置かれている。いずれも透明で、中には半分以上の水が入っていた。
 不思議なことにペットボトルの類はない。あくまでガラスで統一されているようだ。

 そして部屋の奥には水族館にでもありそうな円柱型の大きな水槽。この中も水で満たされている。
 Cさんが円柱型水槽の前に立ち、インタビューが開始される。

「ええと、まずCさんが水とお話をしてみようとなったきっかけについてですが」

「子どもの頃にお風呂の中に顔まで入っていましたところ……」

 特に内容のないインタビューが展開されるが、H子さんはときどき不思議な感覚を覚えていた。
 (今、コップの中に人影が見えたような……)
 部屋の中にあるコップの中は透明な水のみのはずだ。しかしときおり、人の影をした黒い影がその中に現れたように見えるのである。
 カメラマンがそれをビデオに収めてくれないか期待したものの、彼はCさんの顔ばかりを撮影している。H子さんは舌打ちしたい気分になった。

「なるほど、しかし水というのはその、耳や口があるわけではありませんよね。Cさんに向かって意志を伝えることなど、果たしてできるものなのでしょうか」

 H子さんがそう言うと、Cさんは少し沈黙してしまった。
 怒らせてしまったかとH子さんが少し慌てたところで、Cさんが再び口を開いた。

「……なんか、この人疑ってるよー」

 Cさんは後ろの水槽を見ながら言った。
 H子さんは目を疑う。
 Cさんの後ろにあった円中型の水槽の中に、H子さんと背丈が変わらないような人間の影が生じたのだ。
 顔も黒い。身体も黒い。その影が、水槽の中から内側のガラスを強く叩いてくる。
 ドーン、ドーンという音がする。家全体がその動きに合わせて振動しているようだった。
 机の上のコップが1つ床に落ち、割れた。

「ひ、ひええっ」

 H子さんは後ろのドアから逃げ出した。カメラマンはその場からなかなか動こうとしなかったため、裾を掴んで引っ張り、一緒に家から出た。
 しばらく走り、曲がり角を曲がる。

「あ、あれ、何なの?」

「凄いの撮れましたよ。確認、確認しましょう」

 2人は撮影された映像をその場で見返したが、肝心の円柱型水槽の中には、水以外に何も映っていなかった。ただただ、ドーンという物音と、揺れる水槽やコップが映っているのみだ。
 カメラマンが何度見返しても、謎の人影は映像には収まっていなかった。

 H子さんは謝るために家に戻りCさんに再び会うと、彼は元の柔和な表情で床で割れたコップのガラスを片付けていた。
 その後のインタビューはつつがなく終えたものの、Cさんが水と話をしている現場は撮影することができなかった。
 結局コーナー自体の打ち切りが決まり、今回のインタビュー映像はお蔵入りとなってしまった。
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