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第七十六話 右折妨害と死
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工場勤めのYさんはその日の仕事を終え、車で帰宅するところだった。
会社の前の道路は下道で、まっすぐ行っても帰ることはできるのだが、どこかで右に曲がって国道に合流するのが決まったルートになっていた。
Yさんはいつものようにしばらく一車線の道をまっすぐ進み、コンビニが見えたところで交差点を右折するつもりだった。
「あれ、あの車はT岡さんの」
ちょうどYさんの車の前を走るワゴン車は、同じ会社のT岡さんのだった。部署は違うが同じ工場内で働いているため、互いに顔見知りではあった。
「T岡さんも今日は残業なしで帰るんだな」
自分も定時上がりだったため少し親近感を覚えたYさんだったが、前を進むT岡さんの車の動きが妙に思えた。
何度も右折のウィンカーを出すのである。
確かに右折できる道はたくさんある。どこで曲がったとしてもそのうち国道に行き当たるので、T岡さんは国道まで行って、そこから帰りたいのだなとYさんは思った。
「曲がらないのかよ」
不可解なのは、T岡さんが右折するかのようにウィンカーを出すのに、結局右折する交差点まで差し掛かるとウィンカーを止めて直進してしまうことだった。
「まただ、また曲がらなかった」
右のウィンカーを出す、解除する、直進……これが4回も続いたのでさすがにYさんも何かおかしいぞと感じていた。
5回目にT岡さんが謎の右折未遂を行ったときにYさんは気になるものを見ていたが、まだ革新がなかった。
この先はカーブに差し掛かる。Yさんは速度を緩めてT岡さんの車と距離を取った。
「あっ」
カーブを曲がりながらT岡さんが再び右のウィンカーを出した。
しかしそこに右折できる道などない。田んぼや民家があるだけだ。
どうするつもりなのかとYさんが不安に思ったその時、T岡さんのワゴン車が勢いを緩めることなく田んぼの方へ突っ込んでいった。もちろん、右折してだ。
道路からは溝を挟んで一段低いところに田んぼはあった。その中にワゴン車が正面から落ちる。
「やっぱり、あれだ。あの男だ」
T岡さんの安否も気になったが、Yさんはその異様な動きの元凶を見た気がしていた。
T岡さんのワゴン車が右折のウィンカーを出して交差点に差し掛かるときに、向かう先の道にぼんやりとした男の影が出現する。
ワゴン車は男の存在に気づいたのか、慌てて右折をやめて直進に戻る。
しかし、最後だけは違っていた。
T岡さんの進行方向、つまり直進方向の道の上に出現したのだ。
Yさんはそれをはっきりと見た。
猫背のように背中を丸めた男。目元が髪の毛で隠れていて見えない。それを避けようとしてT岡さんは道路脇に落ちた。
T岡さんがあのまま男に向かって車を走らせていたらどうなったのだろう。わからない。
考えるのをやめてそのまま家路を急いだKさん。帰りの道中で救急車とパトカーとすれ違った。
T岡さんは助からなかった。
工場の同僚の中に事情通がおり、Yさんは事故とT岡さんの様子について聞いた。
事故そのものが死因だったわけではなく、田んぼに突っ込む前にT岡さんは脳梗塞で意識を失っていたらしい。
果たして、ウィンカーを出して田んぼ方向に右折したときは意識があったのだろうか。
「あの男が右折先の道路に現れ続けていたのでしょうか。T岡さんはそれに何度も妨害されて、おかしくなってしまったのかも」
Yさんはそう語る。
会社の前の道路は下道で、まっすぐ行っても帰ることはできるのだが、どこかで右に曲がって国道に合流するのが決まったルートになっていた。
Yさんはいつものようにしばらく一車線の道をまっすぐ進み、コンビニが見えたところで交差点を右折するつもりだった。
「あれ、あの車はT岡さんの」
ちょうどYさんの車の前を走るワゴン車は、同じ会社のT岡さんのだった。部署は違うが同じ工場内で働いているため、互いに顔見知りではあった。
「T岡さんも今日は残業なしで帰るんだな」
自分も定時上がりだったため少し親近感を覚えたYさんだったが、前を進むT岡さんの車の動きが妙に思えた。
何度も右折のウィンカーを出すのである。
確かに右折できる道はたくさんある。どこで曲がったとしてもそのうち国道に行き当たるので、T岡さんは国道まで行って、そこから帰りたいのだなとYさんは思った。
「曲がらないのかよ」
不可解なのは、T岡さんが右折するかのようにウィンカーを出すのに、結局右折する交差点まで差し掛かるとウィンカーを止めて直進してしまうことだった。
「まただ、また曲がらなかった」
右のウィンカーを出す、解除する、直進……これが4回も続いたのでさすがにYさんも何かおかしいぞと感じていた。
5回目にT岡さんが謎の右折未遂を行ったときにYさんは気になるものを見ていたが、まだ革新がなかった。
この先はカーブに差し掛かる。Yさんは速度を緩めてT岡さんの車と距離を取った。
「あっ」
カーブを曲がりながらT岡さんが再び右のウィンカーを出した。
しかしそこに右折できる道などない。田んぼや民家があるだけだ。
どうするつもりなのかとYさんが不安に思ったその時、T岡さんのワゴン車が勢いを緩めることなく田んぼの方へ突っ込んでいった。もちろん、右折してだ。
道路からは溝を挟んで一段低いところに田んぼはあった。その中にワゴン車が正面から落ちる。
「やっぱり、あれだ。あの男だ」
T岡さんの安否も気になったが、Yさんはその異様な動きの元凶を見た気がしていた。
T岡さんのワゴン車が右折のウィンカーを出して交差点に差し掛かるときに、向かう先の道にぼんやりとした男の影が出現する。
ワゴン車は男の存在に気づいたのか、慌てて右折をやめて直進に戻る。
しかし、最後だけは違っていた。
T岡さんの進行方向、つまり直進方向の道の上に出現したのだ。
Yさんはそれをはっきりと見た。
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T岡さんがあのまま男に向かって車を走らせていたらどうなったのだろう。わからない。
考えるのをやめてそのまま家路を急いだKさん。帰りの道中で救急車とパトカーとすれ違った。
T岡さんは助からなかった。
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果たして、ウィンカーを出して田んぼ方向に右折したときは意識があったのだろうか。
「あの男が右折先の道路に現れ続けていたのでしょうか。T岡さんはそれに何度も妨害されて、おかしくなってしまったのかも」
Yさんはそう語る。
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