百物語 厄災

嵐山ノキ

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第九十一話 私には見えた

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 これは、私自身の話である。

 家の洗面所の鏡は三面鏡になっている。
 仕事から帰ってくると、いつも手洗いとうがいをするのが習慣だ。
 必然的に三面鏡を見ながら行うことになる。
 三面鏡の中は歯ブラシや歯磨き粉、妻の化粧品などが収納されている。
 密閉するよりも風通しがいい方を好むため、三面鏡の扉を開けたままにしておくことが多い。

「もうパパ、また開けっぱなしにしてるよ」

 幼い娘はその意図に気づかずに、開けたら閉めるという至極当然のことをしっかりと適用して扉を閉めて回っているのだが、このときは三面鏡の扉は開いていた。
 両側の扉が開くと、互いの鏡同士を写し合う瞬間がある。そんなときは鏡に写っていた自分の顔や腕も奥行きにいくつも写り、数が無限に増えたように見えて少しだけ面白い。合わせ鏡の応用といおうか。

「パパおかえり」

「ああ、ただいま」

 出迎えてくれた娘に応えつつ手洗い、うがいの順番で終えていく。
 私には見えた。
 三面鏡の中に、明らかに私のとも娘のとも違う腕があった。
 コップを置こうとしている私の腕ではない。少し離れたところで私が終えるのを待っている娘のでもない。
 上の方から鏡の中に入ってきた毛むくじゃらの腕が、私の首元まで伸びているのが見えた。

「どうしたの?」

「いや、大丈夫」

 帰りを待っていてくれた娘が尋ねてきた。曖昧に返す。
 私は鏡を見るのを止め、無言のまま鏡の前を去った。

 親戚にお寺の住職がいる。今度相談してみようかと思う。
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