見えない縄 ――恋愛拘束椅子――(冒頭試し読み)

まゆり

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見えない縄 1

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「また会ってくれるなんて思ってなかった。嬉しいな」
 莉緒りおはそう言うと、莉緒の横に座った潤也じゅんやに、一番可愛らしく見える角度の笑顔を向けた。
 そのイタリアンバルは、猥雑な雰囲気の繁華街のにぎやかな通りの一階にあった。その店を見つけたときは、ずいぶん安く見られたものだと落胆したけど、店内は明るく小綺麗で、ネットの口コミによると、マゲリータピザが絶品らしい。
 潤也とは、最近通い始めたSlayというSMバーで出会った。店に入った瞬間にカウンターで鏡香きょうかという美人のバーメイドと仲良さそうに話をしていた潤也に一目惚れして、莉緒から誘いを向けた。一緒に行った友達にも、鏡香にも潤也を取られたくなかった。
 潤也はなかなかに手癖の悪い男で、内緒話のどさくさに耳を舐めたら、カウンターの下でスカートの中を苛められ、意味ありげに化粧室の場所をきいたら、いっしょに来てくれて即決だった。
 連絡先は交換したものの、二度目はないだろうと思っていたら、次の週に会うことになった。Slayで会うものだと思っていたら、どこかで食事をしようということになり、このイタリアンバルで待ち合わせをした。いっしょにSlayに行きたがらないということは、やはりあの鏡香というバーメイドに気があるのかもしれない。
「俺も、リオちゃんに会えて嬉しいよ。今日はどういうふうに苛めてほしい?」
 潤也はそう言うと、莉緒の太腿に手を置いた。冷たい指先にぞくりとして、身体の奥が収縮し、アナルプラグの異物感が痺れるような快感に変わる。
「やだな、ジュンさん。好きなように苛めていいよ。でもトイレじゃなくてちゃんとラブホに行きたい」
 食事はなしで、すぐにラブホでもよかった。
 でも、やはり潤也は、思ったとおり育ちがいいのだろう。
 潤也の端正な顔立ちと、はにかむような笑い顔と、倦んだような雰囲気に惹かれた。人生の早い段階で、見なくてもいいものを見てしまったような、屈折した何かを抱えているような、入江と似たものを感じた。
 入江のことは好きではない。むしろ嫌いだと言っていいし、つき合っているわけではない。ただ、そういうタイプの男に慣れているというだけのことだ。
 潤也は入江よりもずっとイケメンだし、入江ほどの暗いオーラがない。育ちの良さそうなSの男が好物なので、遊ばれてみたいと思っただけだ。そして潤也にも、その程度の女だとしか思われていないことはわかっている。
 
 メニューを見ている間も、潤也に太腿をずっと撫でられていたので、それで食欲がどこかにいってしまったけど、マルゲリータピザと、ゴルゴンゾーラのパスタをシェアすることにした。普段はほとんど飲まないけど、おすすめのスパークリングワインをオーダーした。
「ねえ、ジュンさんってどんな人?」
「どんな人って言われてもなあ。どんな人だと思う?」
 メッセージのやり取りから、普段からご主人さまっぽく振る舞う男ではないことは知っている。
「早くからエリートコースに乗って、人生に飽きてる?」
「半分ぐらいは当たってるけど、エリートじゃなくて普通の勤め人だよ。でも中学から私立だから、ひねくれてるところはあるかも」
 やはり入江に似ている。でも入江が名門といわれる学校に行ったのは高校からだ。
「いくつなの?」
「当ててみな」
「二十……七?」
「大正解。今月の末に二十七になる。リオちゃんは?」
「私は二十四」
 淡黄色の液体に満たされたフルートグラスがテーブルに置かれる。
「じゃあ、ちょっと早いけどジュンさんお誕生日おめでとう」
「リオちゃん、ありがとう」
 乾杯をしながら、今日はジュンさんに聖水シャワーをしてもらいたいと思い、それだけでどうしようもなく胸が震えた。
「リオちゃんはどういう人?」
「今度はジュンさんの番だよ。当ててみて」
 潤也の視線がコルセットのすぐ上で突き出した胸の膨らみに注がれ、急に恥ずかしくなり、おっぱいがだらしなく横に流れていないか、不安になって視線を落とす。ちゃんと機能重視のブラに寄せられて、前に突き出した形を保っている。ノーブラで来い、などと言われなくて本当によかった。
 slayで会った日は、莉緒の職場である地雷系のショップ店員らしい格好をしていた。そういうのは男には受けが悪いので、今日はテイストだけを残してタイトなシルエットにまとめてきた。
「仕事はアパレル関係で、情緒不安定で淋しがり屋さんのM女」
「まあ、大体当たってる。服屋の店員だから。それから、ねえジュンさん、手を見せて。指は揃えてね」
 注文したピザとパスタが運ばれてきた。パスタは思ったほどブルーチーズ独特の匂いがしなかったので、少し安心した。
「人差し指より薬指のほうが長い人って性欲が強いんだって。だから淫乱なのかって納得しちゃった」
 潤也もそして莉緒も、人差し指より薬指のほうが長かった。低身長であるとか、初潮が早いとか、ネットに書いてある性欲が強い女の特徴、みたいなものは全て莉緒に当てはまる。早熟な子供であったことは、莉緒の思春期を呪わしく怨嗟えんさに満ちたものに変えただけではなく、捻じくれた性癖と性欲というかたちで莉緒を束縛している。
「リオちゃん、今日もプラグ挿入はいってる?」
「ヤダもう、ジュンさんってば。冷めちゃうから食べようよ」
 潤也はピザを一切れつまみ、莉緒の口許に差し出した。そうしながらもう片方の手を莉緒のスカートの奥に滑り込ませる。
「……そっちからじゃ、届かないよ」
 内腿に侵入してくる指先を挟むように、莉緒は足を組み、わずかに身体を横に倒して椅子に浅くかけ直す。ピザを一口かじると、モッツァレラが白い糸を引く。
 潤也の手が組まれた脚を越え、太腿の外側からお尻に回ってくる。
「んふぅ……だめぇ……」
 食べかけのピザを潤也から奪い、潤也の唇に押しつける。潤也はピザではなく莉緒の指を口に含んで舌先で舐め回しながら、莉緒の尻たぶを掴んで押し拡げた。ハーフバックショーツの細いクロッチがずらされ、指先がアナルプラグのラインストーンを捉える。
「やっぱり今日もプラグ挿入ってた。本当にリオちゃんは淫乱だね」
 潤也はそう言うと、ピザをかじり、もぐもぐと咀嚼しながら、指先でぐりぐりとプラグを揺さぶる。
「んああっ……やあっ……」
 粘膜を隔てた膣の奥が刺激され、熱いものが込み上げてくる。
「これ、抜いちゃっていい?」
「……ここじゃだめ」
「じゃあ、あとのお楽しみってことで」
 潤也の指がずぶりと、熱くぬかるんだところに差し込まれる。
「んんっ……」
 そのまま意地悪く搔き回され、思わず目をつぶって耐えた。

 ※続きはKindle書籍にて
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