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第二十二話 悪夢
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怖い。
隼人は、暗がりの中を、不安げに歩いていた。また、そんな自分を、後ろから見ていた。
不思議な状態だった。隼人の意識は二つあり、不安げに歩く隼人と、それを見つめる隼人がいる。後者の隼人は、前者の「隼人」を、じっと見ている。そして理解する。
「隼人」は今、怖いのだ。
この暗がりの中、自分以外に誰かがいて、「隼人」の後ろをついてきている。けれど、その事実が怖くて、「隼人」は認める事ができない。思い切って辺りを見回せば、いっそ発見してしまえば、楽になれるのに。それをする勇気が持てないでいるのだ。
そうだ、俺が今そうなように。「隼人」を見つめる隼人が思う。俺も今、よくない想像があって、それを確認するのを恐れている。
「隼人」は、そんな自分の不安の現れだろうか。
何を弱気になってるんだ!
隼人は自分を叱咤する。ノートが破られたくらい、何だ。これまでと何が違うって言うんだ。
そうだ。隼人は気を確かに持つ。すると、「隼人」の足取りも、強いものとなった。
大丈夫。自分は、何にでもなれるんだ。大丈夫――
ふいに、暗がりの向こうに光が見えた。白い点の向こう、見覚えのある後ろ姿が立っている。
「龍堂くん!」
「隼人」は嬉しくなって、駆け出した。
しかしここで、妙なことが起きる。「隼人」が走っても走っても、進まないのである。
「え?」
隼人は困惑する。龍堂のところへ行きたいのに、全く進めない。声さえ、届いていないみたいだった。
なんで、どうして。
隼人は焦る。焦って、「隼人」を急かした。何してるんだ、早く行くんだ――
「隼人」は隼人に返す。走ってる。走ってるんだ――
そのとき、後ろから、真っ黒な何かが、「隼人」に向かって襲いかかる。「隼人」と隼人の叫び声が重なる。
「隼人」は、暗闇の中、ずるずると引きずり込まれていった――
「うわああっ!」
飛び起きて、隼人は目が覚めた。荒い息を感じ、それの通る肉体を感じ、そしてそこが、自分の見慣れた部屋だとわかった。
「夢か……」
何だ。隼人は細く深く、息をついた。カーテンの隙間から、光がさしている。時間は朝六時、起きるにはまだ少し早い。布団に仰向けに倒れ込み、隼人は天井を見上げる。
怖い夢だった。
昨日はあれから、マリヤさんの相談を聞いて、軽く宿題をして寝たんだった。
「龍堂くんに会いたい」
ぽつりと、言葉が勝手にこぼれでた。その声があまりに弱々しくて、隼人は情けなくなる。こんな様子では、会えないような気持ちになるほど。
勇敢になりたい。龍堂くんみたいに、もっと――
隼人は布団を掴んで、目を固く閉じた。
隼人は、暗がりの中を、不安げに歩いていた。また、そんな自分を、後ろから見ていた。
不思議な状態だった。隼人の意識は二つあり、不安げに歩く隼人と、それを見つめる隼人がいる。後者の隼人は、前者の「隼人」を、じっと見ている。そして理解する。
「隼人」は今、怖いのだ。
この暗がりの中、自分以外に誰かがいて、「隼人」の後ろをついてきている。けれど、その事実が怖くて、「隼人」は認める事ができない。思い切って辺りを見回せば、いっそ発見してしまえば、楽になれるのに。それをする勇気が持てないでいるのだ。
そうだ、俺が今そうなように。「隼人」を見つめる隼人が思う。俺も今、よくない想像があって、それを確認するのを恐れている。
「隼人」は、そんな自分の不安の現れだろうか。
何を弱気になってるんだ!
隼人は自分を叱咤する。ノートが破られたくらい、何だ。これまでと何が違うって言うんだ。
そうだ。隼人は気を確かに持つ。すると、「隼人」の足取りも、強いものとなった。
大丈夫。自分は、何にでもなれるんだ。大丈夫――
ふいに、暗がりの向こうに光が見えた。白い点の向こう、見覚えのある後ろ姿が立っている。
「龍堂くん!」
「隼人」は嬉しくなって、駆け出した。
しかしここで、妙なことが起きる。「隼人」が走っても走っても、進まないのである。
「え?」
隼人は困惑する。龍堂のところへ行きたいのに、全く進めない。声さえ、届いていないみたいだった。
なんで、どうして。
隼人は焦る。焦って、「隼人」を急かした。何してるんだ、早く行くんだ――
「隼人」は隼人に返す。走ってる。走ってるんだ――
そのとき、後ろから、真っ黒な何かが、「隼人」に向かって襲いかかる。「隼人」と隼人の叫び声が重なる。
「隼人」は、暗闇の中、ずるずると引きずり込まれていった――
「うわああっ!」
飛び起きて、隼人は目が覚めた。荒い息を感じ、それの通る肉体を感じ、そしてそこが、自分の見慣れた部屋だとわかった。
「夢か……」
何だ。隼人は細く深く、息をついた。カーテンの隙間から、光がさしている。時間は朝六時、起きるにはまだ少し早い。布団に仰向けに倒れ込み、隼人は天井を見上げる。
怖い夢だった。
昨日はあれから、マリヤさんの相談を聞いて、軽く宿題をして寝たんだった。
「龍堂くんに会いたい」
ぽつりと、言葉が勝手にこぼれでた。その声があまりに弱々しくて、隼人は情けなくなる。こんな様子では、会えないような気持ちになるほど。
勇敢になりたい。龍堂くんみたいに、もっと――
隼人は布団を掴んで、目を固く閉じた。
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