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第八十六話 「大好きだよ」
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「ほんっとによお。あそこで抱き着きに行くやつ、いるか?」
ケンの言葉に、隼人は「ごめん」と小さくなった。ケンは、湿布の貼られた手首をさする。
「めちゃくちゃ煽ってんじゃねーかよ。めっちゃ焦ったわ」
「ほんと、そーいうとこだよね~」
長いお説教を終えて、隼人たちは生徒指導室から出てきたところだった。ユーヤは、顔を打たれたということで、病院に向かっている。ここにいるのは、隼人、ケン、マオ、ヒロイさん、オージと――
「中条は何も悪くないだろ」
「龍堂くん!」
龍堂の言葉に、隼人は顔をほころばせた。龍堂は気にするなと言うように、ぽんぽんと隼人の頭をたたく。
「そーやって甘やかすし」
「お前らのその二人の世界、何とかなんねーの?」
生徒指導の先生にがちがちに絞られて、皆には、一種の連帯感が芽生えていた。龍堂は、彼らをちらりと見ると、それからまた、隼人に視線を戻す。
「ぼくは中条の友達だから」
龍堂の言葉に、ケンたちは顔をひきつらせた。ぎしぎしと、「悪かったって」と、言う。隼人は、少しぽかんと見ていたが、龍堂が、自分のために怒っているのだとわかった。龍堂に寄り添うと、そっと腰を抱かれた。
◆
カバンを取って、教室を出ると、黄色がかった日差しが、廊下に差し込んでいた。
長い一日だった。今日が、新学期の一日目だなんて、信じられない。
「中条」
「龍堂くん」
同じく、教室から出てきた龍堂と、向かいあう。隼人は笑って、龍堂にかけよった。
「帰ろう」
「ああ」
そうして、二人は歩きだした。
「龍堂くん」
「ああ」
「ありがとう」
隼人の言葉に、龍堂が、「当たり前だろ」と返す。本当に、当たり前だという声に、隼人は、まばゆいばかりの幸せが、胸にあふれるのを感じた。
「大好きだよ」
龍堂の足が止まった。見上げると、龍堂が目を見開いて固まっていた。龍堂がこんなに驚くなんて、珍しい。じっと見ていると、龍堂が突然、隼人を抱きしめた。いつもより強い抱き方に、隼人は「わっ」と声を上げる。
「りゅ、龍堂くん?」
「見るな」
何で?不思議に思い、身じろぐと、ますますぎゅっと抱きしめられた。龍堂の鼓動が聞こえる。速い鼓動を聞いていると、隼人も顔が熱くなってきた。ぎし、とぎこちなくなる体を動かして、背に手を伸ばす。龍堂は、ふ、と笑って、隼人のこめかみに顔を寄せた。
「初めて中条から言われた」
「え?」
「ぼくを好きだって」
そうだっけ?隼人の頭は、返事をしようとするけれど。
龍堂の声が、あまりに甘い響きで。息が詰まって、何も言えなくなる。
体を少し離して、龍堂は額をつける。どきどきするのに、目が離せない。心の奥まで覗かれてしまいそうな強いまなざしが、優しく細められた。
「ぼくも好き」
ぼくの中条。
そうして心に直接、吹き込まれるように。
龍堂の声が、隼人に降り注いだ。
ケンの言葉に、隼人は「ごめん」と小さくなった。ケンは、湿布の貼られた手首をさする。
「めちゃくちゃ煽ってんじゃねーかよ。めっちゃ焦ったわ」
「ほんと、そーいうとこだよね~」
長いお説教を終えて、隼人たちは生徒指導室から出てきたところだった。ユーヤは、顔を打たれたということで、病院に向かっている。ここにいるのは、隼人、ケン、マオ、ヒロイさん、オージと――
「中条は何も悪くないだろ」
「龍堂くん!」
龍堂の言葉に、隼人は顔をほころばせた。龍堂は気にするなと言うように、ぽんぽんと隼人の頭をたたく。
「そーやって甘やかすし」
「お前らのその二人の世界、何とかなんねーの?」
生徒指導の先生にがちがちに絞られて、皆には、一種の連帯感が芽生えていた。龍堂は、彼らをちらりと見ると、それからまた、隼人に視線を戻す。
「ぼくは中条の友達だから」
龍堂の言葉に、ケンたちは顔をひきつらせた。ぎしぎしと、「悪かったって」と、言う。隼人は、少しぽかんと見ていたが、龍堂が、自分のために怒っているのだとわかった。龍堂に寄り添うと、そっと腰を抱かれた。
◆
カバンを取って、教室を出ると、黄色がかった日差しが、廊下に差し込んでいた。
長い一日だった。今日が、新学期の一日目だなんて、信じられない。
「中条」
「龍堂くん」
同じく、教室から出てきた龍堂と、向かいあう。隼人は笑って、龍堂にかけよった。
「帰ろう」
「ああ」
そうして、二人は歩きだした。
「龍堂くん」
「ああ」
「ありがとう」
隼人の言葉に、龍堂が、「当たり前だろ」と返す。本当に、当たり前だという声に、隼人は、まばゆいばかりの幸せが、胸にあふれるのを感じた。
「大好きだよ」
龍堂の足が止まった。見上げると、龍堂が目を見開いて固まっていた。龍堂がこんなに驚くなんて、珍しい。じっと見ていると、龍堂が突然、隼人を抱きしめた。いつもより強い抱き方に、隼人は「わっ」と声を上げる。
「りゅ、龍堂くん?」
「見るな」
何で?不思議に思い、身じろぐと、ますますぎゅっと抱きしめられた。龍堂の鼓動が聞こえる。速い鼓動を聞いていると、隼人も顔が熱くなってきた。ぎし、とぎこちなくなる体を動かして、背に手を伸ばす。龍堂は、ふ、と笑って、隼人のこめかみに顔を寄せた。
「初めて中条から言われた」
「え?」
「ぼくを好きだって」
そうだっけ?隼人の頭は、返事をしようとするけれど。
龍堂の声が、あまりに甘い響きで。息が詰まって、何も言えなくなる。
体を少し離して、龍堂は額をつける。どきどきするのに、目が離せない。心の奥まで覗かれてしまいそうな強いまなざしが、優しく細められた。
「ぼくも好き」
ぼくの中条。
そうして心に直接、吹き込まれるように。
龍堂の声が、隼人に降り注いだ。
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