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第八十九話 ハヤトロク
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「隼人~、ご飯よ~!」
「はーい!」
階下から、母の呼ぶ声がして、隼人はノートを閉じた。テキストやペンを片付け、机に残ったそれを、取り上げる。
「うーん。全然追いつかないなあ」
長い間、お休みしていたハヤトロク。隼人は勉強の傍ら、それを書き始めた。今までよりとる時間も少ないし、開いていた期間も長い。その上、毎日書きたいことが増えていって、ちっとも今に追いつかなかった。
困ったように言いながら、隼人の心は、いっぱいに満たされていた。
「はーやーと。お母さん、怒ってるよ」
「ごめん!すぐ行く!」
月歌に促され、階下に降りる。
「根詰めすぎちゃ、だめだよ?」
「お姉ちゃんこそ」
そう言って、二人は笑いあった。
母のおいしいご飯を食べて、それから隼人はウェアに着替えた。
すっかり日課になったウォーキングに、リビングの父が慣れた様子で、「行ってらっしゃい」と言った。
「お父さんも、少しは運動しなさいよ」
「母さんが行くなら……」
「嫌なこと言うんだから!」
ふたりのやりとりに、隼人は笑って、「行ってきます」と言った。父は「隼人」と声をかけた。振り返ると、父はにっこり笑った。
「なんでもない。気をつけてな」
「うん!」
父の言葉に、隼人は大きくうなずいた。何も言わない。けれど、はっきりわかる。
ありがとう。隼人は、心の声でそう伝える。
そして、隼人はもう一度、「行ってきます」と言って、ドアを開けたのだった。
「はーい!」
階下から、母の呼ぶ声がして、隼人はノートを閉じた。テキストやペンを片付け、机に残ったそれを、取り上げる。
「うーん。全然追いつかないなあ」
長い間、お休みしていたハヤトロク。隼人は勉強の傍ら、それを書き始めた。今までよりとる時間も少ないし、開いていた期間も長い。その上、毎日書きたいことが増えていって、ちっとも今に追いつかなかった。
困ったように言いながら、隼人の心は、いっぱいに満たされていた。
「はーやーと。お母さん、怒ってるよ」
「ごめん!すぐ行く!」
月歌に促され、階下に降りる。
「根詰めすぎちゃ、だめだよ?」
「お姉ちゃんこそ」
そう言って、二人は笑いあった。
母のおいしいご飯を食べて、それから隼人はウェアに着替えた。
すっかり日課になったウォーキングに、リビングの父が慣れた様子で、「行ってらっしゃい」と言った。
「お父さんも、少しは運動しなさいよ」
「母さんが行くなら……」
「嫌なこと言うんだから!」
ふたりのやりとりに、隼人は笑って、「行ってきます」と言った。父は「隼人」と声をかけた。振り返ると、父はにっこり笑った。
「なんでもない。気をつけてな」
「うん!」
父の言葉に、隼人は大きくうなずいた。何も言わない。けれど、はっきりわかる。
ありがとう。隼人は、心の声でそう伝える。
そして、隼人はもう一度、「行ってきます」と言って、ドアを開けたのだった。
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