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プロローグ 前世はヤンキー
しおりを挟むパーティーが開催される王城へ向かって、私は姉クリスタルと馬車に乗っていた。
「今日までよく頑張ってきたわ、アンジェ」
ふわりと微笑む姉は、淑女の鑑と言われるほど一つ一つの作法や立ち居振る舞いが洗練されている。
そんなクリスタ姉様からすれば、私は異端だったに違いない。
なぜなら私アンジェリカ・レリオーズは転生者で、前世は元ヤンだったから。
日本という国でレディースの頭を張っていた私は、地元では喧嘩最強とも言われていた。
そんな私が! まさかこんな世界に転生するとは夢にも思わなかったわけだ。
幼い頃、割と早くに前世を思い出した私は、自分がドレスを着ているのが違和感でしかなかった。大好きな特攻服はないのか、せめてズボンをはかせてくれと嘆いた日々があった。
それが許されないことで、私がドレスを着るのが当たり前のことだとわかると渋々諦めた。せめてもの救いは、アンジェリカの容姿はドレスが似合っていたということだ。
アンジェリカの赤髪は、非常に鮮明でカッコいい色味をしているので、ドレスを着ても甘くなり過ぎずむしろ様になる。何よりも少しつり目な青色の瞳に、整っている顔立ちなのがポイント高い。
前世から可愛らしいなんて言葉とは無縁だったし、今でも若干拒否反応が出るのだが、この容姿のおかげでドレスを着ても〝綺麗〟が先行されて〝可愛らしい〟にはならない。
慣れとは恐ろしいもので、今となってはパーティーにふさわしいきらびやかなドレスを着せられても何とも思わない。ズボンをはきたいという気持ちが消えたわけではないけど。
「ありがとうございます、姉様」
「アンジェには色々と教えてきたわね」
「……はい」
しんみりとする姉様に頷く。
クリスタ姉様は私と違って少し薄めの赤毛、というよりはマゼンタ色の綺麗な発色をしている。薄紫色の瞳も中々に魅力的だなと思う。
正直言って、私がヤンキーではなく貴族らしく振る舞えるようになったのはクリスタ姉様のスパルタ指導のおかげだった。
前世の私には怖いものなんてなかった。だから平気でいろんな場所や格上の相手にも特攻していた。アンジェリカとして生まれ変わっても、そのマインドは変わらない。そう思っていたのに。
姉であるクリスタルは、私でさえ怖いと思う。
前世では兄弟がいなかった私は、姉とはどういうものか知らなかったけど、まさかこんなにも恐ろしくて、愛おしくて、でもやっぱり怖いものだとは思わなかった。
幼い頃淑女教育をさぼろうとした日、クリスタ姉様に見つかって凍えるほど冷たい目線と声を向けられた時は、震えあがるほど怖かった。
正直、おしとやかな姉を舐めていた部分があったけど、クリスタ姉様は間違いなく強かった。美人って睨むと怖いんだと改めて認識させられた瞬間でもあった。
力関係が明確になってからは、私は淑女教育から逃げられなくなった。何せ指導者がクリスタ姉様だったので。おかげさまで口調は貴族らしくなったし、振る舞い方もましにはなった。
姉様が感傷に浸っている理由は、今日という日を迎えられたからだ。
アンジェリカ・レリオーズは今日、社交界デビューをする。
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