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36.解決の極細な糸口

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 なんとか情報を得ようと、本の題名を確認しながら図書室を歩き回る。しかし、祝福以外に惹かれる本がなく、本棚とにらめっこをしていた。

(『神官の心得』はわかるけど……『大神官への道』や『神聖力の使い方』みたいなものまであるんだ)

 神殿の書庫と呼ばれるだけあって、神殿に関するものなら本当になんでもある様子だった。

(『大神官への道』ね。もしかしたら、ルキウス・ブラウンも読んでたりして)

 そういえば自分も、前世ではああいう参考書を読んだなと、遠い記憶を並べていると、頭に痛みが走った。

(ーーっ!)

 しかし、痛みは一瞬で消えた。
 
(……? まだ疲れが取れてないだけか)

 特段気になることでもなかったので、さっと思考を片付ける。すると、そのタイミングでディートリヒ卿が何冊か本を手にしてこちらにやって来た。

「このような本はいかがでしょうか?」
(!)

 そう渡してくれたのは“聖女”の二文字が入っていた本だった。
 お礼を伝えると、ディートリヒ卿は他のものも探すと言って、再び来た方向へと戻っていった。

 私は机と椅子がある、簡易的な読書スペースで本を読むことにした。

(取り敢えず読んでみよう)

 よく考えたら、祝福の前例だけではなく聖女という自分自身の前例を調べるべきだった。

(盲点だったな……)

 さっそくページを捲って内容を確認していった。とはいえ、期待はそこまでせずに読み進めた。

 “聖女とは、神の声の代理者である。聖女は神が選定し、この世界に産み落とされる。聖女の誕生は、大神官にお告げを出すことで見つけることができる”

(大神官にお告げを出す……ということは、前の大神官はレビノレアの声を聞いてるのよね……もしかしたら、本当にもしかしたらだけど、私のこの力について、伝えていたりしないのかな?)

 少なくとも、前の大神官はレビノレアの声を聞いたはずだ。それが私の時のような神と人の交流ではなく、レビノレアからの一方的なお告げだとしても。なにかしらの手がかりがあるかもしれない。

 今まで進展しなかった私の問題に、ようやく解決の微かな極小の光が見えてきた。

(そうと決まれば、私を見つけた前大神官ーーサミュエル様に接触しないと)

 ぐっと手のひらに力を入れながら意気込んだが、すぐさまその力は消えていった。

(……でも私、サミュエル様のこと何も知らないわ)

 目標が定まったのはいいものの、次にどうすべきかまでは思い浮かばなかった。

(さすがにルキウスに聞くわけにもいかないし。というかなんなら嫌ってそうだから、聞くべきじゃない気がする……)

 それでも情報収集しかない、と漠然とした思考になった瞬間、あることに気が付いた。

(……待てよ。もしや、その情報は図書室ここにあるのでは?)

 むしろここにしかないだろう、そう思えば、急いで立ち上がって、再び本棚に向かおうと動く。その瞬間、いつの間にか戻ってきていたディートリヒ卿が、口の前に人差し指を置いて「しっ」と言った。

(……? 誰かいるの)

 ディートリヒ卿はそのまま私の腕を優しく引いて、読書スペースから離れていった。だいぶもと居た場所から遠ざかると、小声で状況を説明してくれる。

「……どうやら、私達のような、物好きで怖いもの知らずが他にもいるみたいです」
(凄い偶然だな)
「といっても、恐らく本が目当てではなく、人気のない場所での密談が目当てだったとは思いますが」
(なるほど、確かにその方があり得そう)

 今起こっていることを理解したところで、ディートリヒ卿から提案をされた。

「今は密談者がここを去るまで、端っこでおとなしくしていましょうか」
(その方が良さそうですよね)

 幸いにも、まだ読み終わってない聖女に関する本は手元にあった。提案に頷くと、再び足音に気を付けながら図書室の端まで移動した。

「私は近くの本棚を探しますね」
(あ、そうだ)

 サミュエル様のこと、ディートリヒ卿に聞いてみるのも良い気がして、本棚に向かうディートリヒ卿の腕を慌てて掴んだ。

「!」
(メモ帳……メモ帳……)

 その行動がディートリヒ卿の動揺を呼んでいたことなど露知らず、私はメモ帳を取り出して、急いで引き留めた理由を書いた。

『すみません、お尋ねしたいことが』
「……はい、なんでしょうか」
『前大神官、サミュエル様のことで何か知っていることはありますか』
「…………」 

 突拍子もない、いきなりの話題だったこともあって、ディートリヒ卿は驚き、沈黙してしまった。

(もっとちゃんと尋ねる理由を説明できればよかったのだけど、書くのは少し限度があるから……)

 突然すぎることに、申し訳なさを感じながらも、ディートリヒ卿の言葉を待った。

「サミュエル前大神官様、ですか……」

 小さく呟くと、自分の知る限りをお話ししますねと添えて話を続けた。

「まず、サミュエル様は、突如姿を消した前大神官として有名です」
(突如……)
「私はお名前しか存じ上げず、直接話したことはないのですが、物腰柔らかな人望ある素晴らしい大神官だったという話を、騎士団長から聞いたことがあります」

 その話は、自分が幼い頃に出会ったサミュエル様と少し違っていて、首を捻ることになってしまうのだった。

△▼△▼△▼

 大変申し訳ありません。体調不良のため、次回更新を月曜日とさせていただきます。
 ご理解のほど、よろしくお願いいたします。
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