神嫌い聖女と溺愛騎士の攻防録~神様に欠陥チートを付与されました~

咲宮

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82.結婚を巡って

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 第二王子との結婚。

 そんなイベントは、これまで回帰してきた中で一度も存在しなかった。第二王子が教会を訪れ、それを最大限回避することは何度もあった。婚約でさえなかったのに、それを飛ばして結婚。

(…………サミュエル)

 サミュエルが何かを企んでいるのは明確だった。ただその意図まではわからず、自分がどう立ち回るべきかわからず頭を悩ませた。そんな間にも、バートンは困惑の表情を変えずに続けた。

「……突然の話だ。全くもって理解できない」
(私も何一つ納得していません)

 だが、私達がどれだけ困惑しようが、どれだけ納得しなかろうが、サミュエルにとっては関係ない。全ては大神官である彼の思い通りに動くから。

「明日、事の詳細は伝えられるそうだが……正直、私は何が起こっているかわからない。何の前触もなしに……ルミエーラの生誕祭でさえ、関連する発言は一度もなかった」
(……恐らくわざとでしょうね)

 私とサミュエルの本当の関係を知らないバートンからすれば、意味のわからない出来事。まさか大神官が、聖女に悪意があるとは普通なら考えない。

「……すまないな、私が伝えれることもないんだ。どうか明日まで待って欲しい」
(それはもちろん。……ごめんなさい、苦労をかけて)

 頷いた後に、バートンに対する申し訳なさが込み上げてきた。その理由を伝えられないもどかしさを抱えながら、今日の業務を受け取って退出した。

(……結婚。結婚か)

 二十歳の生誕祭を迎えても、婚約の解禁は発表されなかった。これはてっきり、サミュエルが奥様ーークロエさんと私の運命を変えるために、教会に閉じ込めておくからだと決めつけていた。

(思えば、運命を変えるだけであって、私の体も意識も……消えるとまでは言ってないわ)

 サミュエルの計画のほんの一部が見えてきたところで、作業部屋にたどり着いた。

(……王族との結婚なんて)

 仮に、王家と神殿の繋がりを作るための結婚だとして。神殿で過ごした時間など無いに等しい私に押し付ける事は、何一つ納得行かない。

(…………私は、人形ではないのよ)

 操り人形になどなるつもりない。そう強い意思を抱きながら、扉を開いた。

「お疲れ様です、ルミエーラ様」
(アルフォンス!)

 ディートリヒ侯爵邸から来たアルフォンスが迎えてくれた。すぐさま私に近寄ると、持っていた書類をさっと取り、机の中心へと移動させた。

(…………)

 それまで、バートンから知らされた難題を無意識的に一人で解決しようとしていたことに気が付いた。

(……そうだった。今はもう、一人ではないんだ)

 アルフォンスの姿を見ると、安堵が浮かんだ。仕事をこなそうと、いつものように向かい合って座った。だが、仕事を開始するよりも先に先程教えられた話をアルフォンスに伝えることの方が先だった。

『アルフォンス、話があるの』
「はい、何でしょうか」

 アルフォンスがペンを片手に書類に手を伸ばしたタイミングで、私がスケッチブックを見せた。

 早く書き上げることは慣れたものだが、書いているとサミュエルへの不満が文字にまで浮かび上がりそうだった。

『明日、サミュエルが来る』
「明日……何かルミエーラ様に用件があるということですか?」

 察しの良いアルフォンスのおかげで、書き込む量は大分減っていく。私はその言葉に頷くと、その用件について書き記した。

『サミュエルが私と第二王子の結婚を決めたみたい』
「………………」

 さすがのアルフォンスも、今までにない予想外の出来事に驚き固まっているーーそう思った瞬間、バキッ! という音が部屋に響いた。

「……すみません。何一つ理解も納得もできなかったもので」
(ぺ、ペンが折れた)

 珍しく感情のない笑顔を浮かべるアルフォンスだが、その裏には間違いなく怒りがこもっていた。

「明日、教会に訪問されるんですよね?」
(そう、だけど……な、何するつもりだこれ)
「なるほど。まずはそれを阻止した方が良さそうですね」
(ま、待って待って)

 笑顔で淡々と話すアルフォンスを阻止しようと、思わず立ち上がってその意思を伝えるが、笑顔が崩れることはなかった。

「ご安心くださいルミエーラ様。証拠は残しません」
(お、落ち着いて。今のサミュエルは危険だから)

 怒りに染まる雰囲気を感じとると、慌ててペンを走らせた。

『サミュエル危険』
「……わかりました」
(……良かった)
「一瞬で仕留めます」
(良くなかった!)

 第二王子との結婚が、アルフォンスの中にあるスイッチを押してしまったようで、怒りを沈めるのは中々に難しいものだった。

(……こうなったら)

 最終手段、と思いながら今度は丁寧な文字を意識しながら書き記した。

『アルフォンス、命令です。まだサミュエルに近付かないで』
「……」

 命令。この二文字が効いたのか、アルフォンスから発せられていた並々ならぬ怒りの雰囲気が、少しずつ消え去っていった。

「……わかりました」
(……良かった)

 安堵のため息をつくと、アルフォンスも冷静を取り戻したようだった。

「申し訳ありません、ルミエーラ様」
(まだなにもしてないから)
「……明日は、大神官様にお会いするおつもりですか?」
(……えぇ)

 まずは会って、サミュエルの意図をできる限り知ること。

 そのつもりで私は力強く頷くのだった。

 
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