従魔と異世界スローライフのはずが、魔王と噂されていく日々

ソラリアル

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第10話 異世界の風呂と魔物管理室

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初めて食べたオークの肉は、想像通り豚肉に近い味がした。
これならまあ、食べられるから良かった。
そう思いながらも、自分で狩りをするのは無理だな、と感じている。
肉に関しては、市場まで買いに行くのが一番賢い選択かもしれない。

そんなことを考えながら食器を洗い、キッチンを出てすぐ近くの応接間——
いや、談話室に近いか。そんな場所でくつろぎ始めた。
この部屋の灯りは柔らかいオレンジ色で、どこか温もりを感じる。
暖炉もあり、厚みのあるソファーが心地よかった。


「なぁ、この城ってどんな部屋があるんだ? 復元する前に見えたけど、よく分かんなくてさ」

「えー? いろいろあるぞ。
本がいっぱいある部屋とか、魔物を管理する部屋とか、実験の部屋とか」

「わー、異世界って感じだな」

「あとはー、あったかいお湯が出るところ!」

「え? あ、もしかしてお風呂ってこと?!
え、あんの? この世界に? お風呂?」

「お風呂ってなに? 前の主が、あったかいお湯に入るの好きで、地下にあるぞ」

「ええ? 本当? そこ行きたい! 案内して!」


城の復元時に部屋の様子は見えていたものの、
ほとんど理解できていなかった俺は、改めてクロに尋ねた。
すると、まさかのお風呂があると聞き、ソファーに預けていた体をガバッと起こす。


「主~、こっちだよー」


クロに案内され、地下へ続く扉を開けて階段を下りていく。
そこには少し広めのホールがあり、扉が3つ並んでいた。
そのうちの一つを開けると、石造りの廊下が続いている。
進むにつれて、空気が少しずつ温かくなっていくのが分かった。


「わぁ! 本当にお風呂じゃん!」

「これ、お風呂って言うのかぁ」


廊下の先に現れたのは、黒曜石のような岩で縁取られた湯船だった。
湯気が立ち上り、室内なのに露天風呂のような開放感がある。
壁には古代文字のような模様が刻まれ、神秘的な雰囲気を醸し出していた。


「ここって地下だよな? なんで窓から外の景色が見えるんだ?」

「地下にいる間も外を警戒しないといけないからって、
地上の風景が見えるように魔法をかけて作ってたよ」

「へぇ、すごいなぁ……なぁ、早速入ってみようかな」


地下にいながら外の景色が見えることに驚き尋ねると、
前の家主が警戒のために魔法を施していたのだと教えられた。
さすが異世界だな、と思う。
……が、とにかくだ。
まずは疲れを癒したい。
そう思って服に手をかけた瞬間、無機質なエマの声が響いた。


【警告:このお湯は湖の水を引いて沸かされています。
湖自体に穢れがある現在、このお湯に入るのは危険と推測します】

「あー……なるほど、そういうことか。
クロ、このお風呂のお湯、あの湖の水なんだってさ。浄化できないと入れないらしい」


せっかく至福の時間が手に入るかと思ったのに、湖の浄化が終わらないと使えないとは……
目の前にあるのに“お預け”を食らうのは、なかなか辛い。
とはいえ、仕方ない。
でも、体を綺麗にしたいときはどうするんだ?
そう思い、クロに尋ねた。


「なぁクロ、この世界の人たちはどうやって体を綺麗にするんだ?」

「え? 普通に“Purify Body(ピュリファイ・ボディ)”って言えばいいんじゃない?
主、汚れたらいつもこれ唱えてたぞ」

「ピュリファイ・ボディ……よし。じゃあ、ピュリファイ・ボディ!」


クロに教えられた通り唱えると、
光の粒のようなものが体を包み込み、汚れが落ちていく感覚があった。
こういう魔法もあるのか……前世でも使えたら、どれだけ楽だっただろう。


「んじゃ、戻りますか」

「おー!」


いつか湖をきちんと浄化できたら、思う存分お風呂を堪能してやる。
そう思いながら、浴場をあとにした。


「そういえば、地下のあと2部屋は何なんだ?」

「えっとー、一つは“魔力炉”って言って、この城の動力源だな。
そこにある魔法石の結晶に魔力を通して、城全体を動かしてるんだ」

「へぇ。じゃあ、俺が復元した時、俺の魔力が注がれたのかな?」

「そうじゃない? じゃないと灯りすらつかないし」

「なるほどね。ちょっと覗いてみよ」


地下の残りの部屋が気になり、クロに案内されて“魔力炉”の扉を開ける。
浴場の扉とは違い、重く、ゆっくりと開いた。
中に入ると、ひんやりした空気の中で、青白い光が部屋を満たしていた。
光の正体は、大きな魔法石の結晶。
魔法陣の上に鎮座し、煌々と輝いている。


「なんか、心臓みたいだな。これが止まったら、城も終わりそうだ」

「多分そうだよ。この結晶から魔力が枯渇したら、城は機能しなくなると思う」

「やっぱそうか。まぁ、今は大丈夫だろ。俺が管理するからさ」


この魔法石は、城の“心臓部”なんだろう。
俺の無限の魔力がなければ復活しなかったのかもしれないな。
そう考えると、少しは役に立てたのかな、なんて思う。


「最後はこの扉だな。ここは?」

「魔物管理室だよ。前の主、怪我した動物とか魔物、魔獣を助けて保護してたから。
今はもう、何もいないと思うけどな」

「へぇ……動物好きだったんだな。なんか、俺と似てるかも」


最後の部屋は“魔物管理室”だった。
前の家主は生き物を分け隔てなく大切にし、怪我をした魔物や動物を保護していたらしい。
そういうところに妙な親近感を覚えながら、扉を開ける。


「おお……」


中にはいくつかの檻と、ずらりと並ぶ書物。
動物や魔物、魔獣に関するものばかりだった。
デスクの上には書きかけの観察日記があり、怪我の箇所や経緯、経過が丁寧に記されている。

本当に、大切にしていたんだな。
そう実感しながら部屋を見渡すと、さらに奥に扉があることに気づいた。
その先にあった光景に、俺は目を見開く。


「え、これ……卵? それに、このガラスの中にいるのって……」

「ここは、捨てられた卵とか、盗まれた卵、赤ちゃんを保護してた部屋だよ。
もう何もないって思ってたけど……
主が城を復元したことで、俺みたいに命が戻ったんだと思う」

「えええっ!? じゃあ、この卵……今、育ってるってこと?」

「育ってるだろうな。下の魔法陣、温めるためのやつだし」


部屋には大きな卵が2つ。
魔法陣の上で、確かに生命の気配を放っている。
さらに、透明なガラスの容器の中には、人形のように可愛らしい生き物が眠っていた。


「クロ……このガラスの子は?」

「ドラゴンの赤ちゃんだぞ。主が死ぬ少し前に保護した子でさ。
怪我がひどくて、回復魔法付きのガラスで治療してたんだ。
でも、主が死んで、機能が止まったんだろうな」

「……そういうことか」


真っ白な皮膚に、薄い青色のたてがみ。
眠るドラゴンの赤ん坊を見つめながら、複雑な気持ちになる。
命が救われたのはいいことだ。
でも……本当に大丈夫なんだろうか。


「主、見て。ちゃんと呼吸してるだろ?」

「……ほんとだ。いい子にして寝てる……って、この子たち、どうするんだ?」

「どうするって……主が育てるしかないだろ。親、もういないと思うし」

「マジか……」


クロが言った言葉が、胸に突き刺さる。
確かに、この状況では俺が育てるほか選択肢なんてものはない。
それでも——突然のことに戸惑わずにいられるわけがなかった。


【魔物の気配を感知しました。敵意はありません】

「……まぁ、そうだろうな。卵だし」

【……】


この状況に戸惑っていると、エマが魔物感知と敵の有無を教えてくれた。
その報告、絶対にいらないだろう。
なんて思いながらも、あえて口にはしなかった。
きっと、何かいるよ、危ないよと教えてくれたのだろうから。


「主ー。明日、湖の浄化に行くとき、森も探検しない?」

「いいよ。どこか行きたいとこあるのか?」

「特にないけど! 主と自堕落な生活送るって決めたからな!」

「はは。なんだそれ。まぁ、いいな。二人で探検しようか」

「決まり! 楽しみ!」


魔物管理室でだいぶ疲れた俺は、
クロとそんな会話をしながら1階の寝室に戻り、すぐにベッドに倒れ込んだ。
隣にはクロのベッドがあり、いつも一緒にいたんだなと、自然と笑みがこぼれる。

今日一日で、どれだけ魔力を使ったんだろう。
そんなことを考えていると、クロが無邪気に明日の話をしてきた。

翼を広げ、くるくると回って喜ぶ姿が、どうしようもなく可愛い。
世の中の悪魔って、みんなこんな感じなのか?
いや、多分クロが特別なんだろう。

こんな生き物たちに囲まれて暮らす生活は、前世の俺の理想そのものだ。

……とはいえ、正体不明の卵と、ドラゴンの赤ちゃん。
どうすればいいのか、正直分からない。

前世の俺なら「自分一人の生活で精一杯だ」と逃げ出していたかもしれない。
でも、温かくなったこの城と、隣で丸まって寝ているクロを見ていると、
不思議と「なんとかなるか」と思える。

まぁ、詳しいことは明日考えればいい。
今は時間が——永遠に近いほど、あるんだから。

そう思いながら、窓から吹き込む優しい風に包まれて、俺は静かに眠りについた——……
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