従魔と異世界スローライフのはずが、魔王と噂されていく日々

ソラリアル

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第46話 魔王、誕生

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Face Muteを唱えてからも、相変わらず周囲からの視線は集まっていた。
クロたちがいる以上、それは仕方ない。
だけど、顔は覚えられていないはずだよね。
そう願うしかなかった。

それにしても、俺が魔王だなんて、一体誰が言い始めたんだか……

家から王都へ向かう道を、何度も行き来していた。
そこで俺たちの姿を見た誰かが、噂を広めた可能性もある。

領地に結界を張る前は、立ち入り禁止エリアとはいえ、
勝手に侵入してくる人間も少なくなかった。
そんな場所で、ずっと朽ちていたはずの城が綺麗に修復されていたら、そりゃ、驚くよな。

……でも、声を大にして言いたい。
実際は、あの場所はただのモフモフ天国なんだって。


「お、ヨシヒロ!」

「あ、ガーノスさん!」


ギルドへ戻る途中、表の入口付近でガーノスさんとばったり出くわした。
俺は思わず、先ほどの出来事を一気に話してしまう。

するとガーノスさんは、「別館で話そう」と言い、裏手に移動した。
改めて事情を説明すると、いつものように大きな口を開けて笑い出した。


「わはははっ! 俺もその噂は聞いてるぞ。
最初に聞いた時は思わず噴き出したがな!」

「いや、俺も“どういうこと?”ってなりましたよ……
だから咄嗟に、俺が“大丈夫”だと思う人以外からは、
顔を認識されない魔法をかけましたよ……」

「かけましたよって……
お前それ、上級魔法、それもかなり高位の部類だろう?
ほんと、規格外だよなぁ、ヨシヒロは」

「仕方なくですよ……
俺はただ、平和にのんびり暮らしたいだけなのに……」

「無理な話だろ? あんな従魔連れてりゃな!」

「ううっ……」


愚痴をこぼす俺に、ガーノスさんは容赦なかった。
どうして俺の平穏な生活は、こうも遠いのか……
そんなことを考えながらため息をついた、その時だった。

床に、見覚えのある魔法陣が浮かび上がる。
――嫌な予感しかしない。

次の瞬間、魔法陣の中から現れたのは、
貴族冒険者の装いをしたアーロンさんと、クロノスさんだった。


「おお! ヨシヒロも来ていたのか!」

「アーロンさん!? どうしたんですか!?」

「いやなに。
最近、“魔王が出現した”という噂があると報告を受けてな。
ガーノスが何か知っていないかと思い、確認に来たのだ」

「うっ……ま、まさか、
アーロンさんの耳にまで……?」


アーロンさんの口から"魔王"の3文字。
一気に血の気が引く。
――と、思った次の瞬間。


「……おい、ちょっと待てヨシヒロ!
クロ! なんという可愛らしい服を着ておるんだ?
こっちにおいで! よく見せておくれ!
ああ……携帯さえあれば……写真を……」

「カッコいいだろー!
主が作ってくれたんだぜ!」

「ああ! とてもよく似合っておる!
いやぁ、これは良いな……
従魔にこんな可愛らしい服を着せるとは……
やりおるな、ヨシヒロ!」


一国の王がこのありさまだよ。
……この人、相変わらずだ。
魔王の噂で頭がいっぱいだった俺をよそに、
アーロンさんはすっかりクロの服に夢中になっていた。
その様子に少し肩の力が抜ける。
そんな空気の中、ガーノスさんが、にやりと笑って口を挟んだ。


「アーロンよぉ。
魔王の話なら、今ちょうどヨシヒロとしてたところだぜ?
なぁ、新しい魔王さん?」

「ちょっ!? ガーノスさん!!
酷いですよ! 俺、魔王になんてなりたくないのに!
ロウキたちを連れて歩いてるだけで魔王扱いとか、
完全にイジメだよー!
そのせいで、Face Muteまで使う羽目になったんですよ!?」

「……はぁ? では、あの立ち入り禁止エリアに入った者が、
復旧された城と、ロウキ殿たちと過ごすヨシヒロを見て、
魔王が誕生したと勘違いした……ということか?」

「十中八九、そうだろうな。
見張りをつける前の話だろうから、そこそこ前から噂があったんだろう。
……まぁ、気持ちは分からんでもないが」

「あー……まぁ、な。だが安心したぞ。
この地に魔王城が誕生したのかと、肝を冷やした」

「ヨシヒロなら無害だし、
王城の者たちには、そう伝えておこう。
……ただし」

「……た、だ、し…?」


ガーノスさんが俺が魔王の正体だと伝えると、
一瞬目を見開いたアーロンさん。
魔王の存在を危惧していたようだけど、それが俺だと分かり安心した様子だった。
だけど、何か企んでるような物言いをしてる。
そう思いながらアーロンさんの言葉を待った。


「ヨシヒロのことを魔王だと間違えた、ということは国民には伏せておこうかの。
王家直属の冒険者が実は魔王らしいという噂にしておくことで、
我が国にとってプラスになるだろう」

「ええっ!? なんでですか!?
逆に俺は誤解を解いてほしいんですけど!!」


アーロンさんは、とんでもないことを考えていた。
王族には真実を伝えるのは有難い。
……と思ったのも束の間。

誤解だったという事実を国民には黙っておく?
しかも、王家と親交のある魔王として噂を流す?
どうしてそんな話になるんだ……?

困惑する俺を見て、
アーロンさんは、少しだけ真剣な表情になり、口を開いた。


「魔王の存在というのはな、抑止力になる。いろんな意味でだ。」


アーロンさんは腕を組み、淡々と、だけど確信に満ちた口調で語り始めた。


「まず1つ。
魔王がこの地にいるとなれば、他国にとっては大きな脅威となる。
安易に手出しはできなくなるだろう?
しかも、冒険者として王都をうろちょろしているとなれば、犯罪率が格段に減るだろう。
さらに、魔王が住む国とあれば、物珍しさでこの地を訪れる者も増えるやもしれん。
そうなれば商人は潤い、市民の暮らしも豊かになる。
人の流れが増えたとしても、“魔王の監視下にある土地”だと分かっていれば、
この地で悪さを働こうとする者もおるまい」


アーロンさんの力説は、理屈としてあまりにも完璧すぎて、何も言えない俺。
まさかこんなふうに話が進むなんて思いもしなかった。


「アーロンそりゃあいいな!
そうなりゃ、俺たちにとってもプラスだ!
ヨシヒロ、諦めろ!
お前は今日から――魔王さまだな!」

「そんなぁ……!」


アーロンさんは、魔王という存在がいかに王国を護るかを力説し、
俺が反論する隙すら与えない提案を、次々と積み上げていく。

こんな計画を聞かされたら……
もう、何も言えないじゃんか。

ガーノスさんまで満場一致で賛成し、
その場にいる中で、顔面蒼白になっているのは俺だけだった。


「クロも、主が魔王って聞いたら嬉しいだろ?」

「主が死なないなら、なんでもいいよ!」

「魔王にしておけば、誰も手出しはせん。安心だぞ?」

「ほんとか!?
じゃあ、主が魔王になる!」

「クロを誘惑しないでくださいーーー!!」


俺の周りから誘惑していくアーロンさん。
必死に叫んだものの、勢いに押されてしまう。


「……まぁ……
俺や皆に被害がなくて、
平和に暮らせるなら……それでいいんですけど……」


何を言っても、もう無駄だと察した俺は、
弱々しくそう言うと、ガーノスさんが大きく笑った。


「大丈夫だろ!
陛下と交友関係のある魔王なんて、
誰も手出ししねぇよ!」

「心配すんなって、ヨシヒロ!」

「ううっ……
なんで、こんなことになるんですかぁ……」

「色々、諦めな! 悪いようにはしねぇからよ!」

「あーー……
これでまた一歩、遠のいた……」

「“のんびりライフ”は、存在しないのだよ。ヨシヒロ」

「……辛いです……」


ガーノスさんに「諦めろ」と言われ、
アーロンさんには「のんびりライフは存在しない」と告げられ、
俺はただ、肩を落とすしかなかった。

――ああ。
俺の意思とは関係なく、物語が進んでいく。

それは、静かだけれど、とてつもなく大きな流れで、
確実に俺を飲み込もうとしている感覚だった。

……でも、不思議なことに。
「まぁ、これも異世界あるあるか」と、
どこかで納得している自分がいる。

とにかく、“魔王”と噂されることで、
直接的な被害が出ないのであれば、
今は、この流れに身を任せて様子を見るしかないんだろうな。

そう、思うことにした――
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