従魔と異世界スローライフのはずが、魔王と噂されていく日々

ソラリアル

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第56話 収穫の時

無事に田植えが終わってから、五日が過ぎた。
毎日欠かさず田んぼを見に来ているけど、そのたびに苗が成長しているのがはっきり分かる。

普通なら、田植えから五日程度では、ほとんど変化は見られないはず。
だけど、この世界の、この場所は違った。

植えた初日は、まだ可愛らしいサイズだった苗が、
いつの間にかしっかりと地面に根を張り、力強く、まっすぐに伸びている。
すでに高さは20~30センチほど。

これが、聖水と、聖水が染み込んだ土壌の力なんだろう。
そう思うと、改めて感心せずにはいられなかった。


「いやぁ、成長が早いってすごいなー。なぁ、ルーナ?」

「にゃああんっ!」

「可愛いなぁ、ルーナ。おいでっ!」

「にゃんっ!」


クロたちは、まだ家の周りで遊んでいる。
そのため、今日は俺が一足先に田んぼへ来ていた。

すると、声をかけた途端、ルーナが駆け寄ってきてくれる。
満面の笑みと一緒に可愛らしい鳴き声を聞かせてくれて、
思わずそのまま抱き上げてしまった。

ルーナは、俺の世界で見てきた猫とは、どこか違う気がする。
だが、この世界では、こういう雰囲気が普通なのかもしれない。

見た目はメインクーンに似ているから、親近感が湧きまくりだ。
それに、ヤンチャというよりも、どこか気品があり、美しく、気高い。

……まるで女王猫みたいだ。
ルーナが女王として君臨する国とか、ちょっと見てみたいな。


「ルーナ。お昼ご飯は魚を焼くから、一緒に食べようなー」

「にゃにゃにゃーっ!」

「よーし。そうと決まれば、さっさと中干しを始めようか。
ルーナは危ないから、子供たちと一緒に、いい子にしててなー」

「にゃあん!」


ルーナと少しお喋りをしたあと、キャットタワーに乗せて、俺は田んぼへ戻った。

これから行うのは、中干し作業。
田んぼの水を抜き、土を乾燥させることで、稲の根をしっかり張らせる工程だ。
……とはいえ、抜いた水を湖へ戻すわけにもいかない。
さて、どうしたものか――

そう考えていると、背後からラピスたちの声が聞こえてきた。


「ヨシヒロ様! 今回も、僕たちの出番ですよね!」

「え?」

「エマちゃんが前に、水を抜くって言ってたから!
私たちが吸って、外に出せばいいのよね!」

「オイラたちに、お任せだよー!」

「なるほど! それは助かるなぁ。
じゃあ、よろしく頼むよ、みんな!
水を出したら、周りの木々に撒いてくれる?
捨てるには、もったいないからさ。」

「はーーーいっ!」


どうやらラピスたちは、今日が中干しの日だと分かっていて、
自分たちの出番だと張り切ってくれていたようだ。

スライムは、何でも吸収できるらしい。
田んぼの水も問題ないと言うので、さっそく任せてみることにする。

ラピスたちは、苗を踏まないように気をつけながら田んぼの端へと移動し、
体の一部を細長く伸ばしていった。
それは、手のようにも、ストローのようにも見える形だった。

その先端を水に浸けると、
みるみるうちに水が体内へ吸い込まれていき、
スライムたちの体は、風船のように膨らんでいく。

それが、20匹ほど同時に行われている光景は、
驚くというより、ただただ圧倒的だった。


「はぁ……すごいなぁ、みんな」

「僕たちみたいなスライムでも、
ヨシヒロ様のお役に立てるのが、嬉しいんです!」

「俺、ヨシヒロ様の従魔になれて、嬉しい!」

「ルド、ムーン……
君たちは、毎日俺に癒しをくれてるんだよ。
俺の方こそ、皆が俺を認めてくれて、嬉しいよ」

「ヨシヒロ様は、立派な主ですよ!
あ、もう少しで終わります!」

「このお水は、周辺の樹木に撒いてくるね!」


バキュームカーのように水を吸い上げていく姿に感嘆していると、
ルドとムーンが、胸に染みる言葉をくれた。
だから俺も、人間である俺を認めてくれてありがとうと、
改めて感謝の気持ちを伝えた。

やがてラピスから「吸水が完了しました」と報告があり、
スライムたちは一斉に散らばる。

今度は、放水車のように水を撒き始めた。
……万が一、火事が起きた時にも、
この子たちは大活躍するだろうな。
そんなことを1人、感心しながら眺めていた。


「ヨシヒロ様! 給水と放水、すべて完了しました!」

「仕事が早いねぇ。みんな、お疲れさま。ありがとう!」

【確認しました。
皆さん、水の吸水処理お疲れ様です。
これで中干しの準備は完了です。
この状態で五日間、土を乾燥させます。
水がなくなることで、稲の根は水分を求め、地中深くへ伸びようとします。
それにより、茎が太くなり、風雨に強い、丈夫な稲へと育つという情報があります】

「へぇ……“雨にも負けず”ってやつだな」

【五日後、この田んぼ一面は黄金色に輝くでしょう。
本来は、再度水を張る工程が必要ですが、
この土地で育った稲穂は、五日後には完成形となります。
そのため、再び水を張る必要はなく、
そのまま収穫となるわけです】

「……すごい、の一言しか出てこないな」

【この世界は、特別なのですよ。マスター】


スライムたちの働きぶりに感心していると、
エマがねぎらいの言葉と共に、今後の流れを説明してくれた。

どうやら、あと五日で、この田んぼは黄金色へと変わるらしい。

工程をほとんど省いて、たった五日で収穫――
正直、すごいを通り越して、もう意味が分からない。

そんなことを考えていると、
エマは「この世界は特別なのですよ」と言い残し、通信を切った。

相変わらずだなぁ。
そう思いながら、スライムたちを集めて体をきれいにしてやった。


「ヨシヒロ様、収穫が楽しみですね!」

「本当だね。お米って、美味しいんだよ。
早く、みんなにも食べてもらいたいな」

「ヨシヒロ様の故郷の味……とても興味があります!」

「なんて言えばいいのか難しいんだけどさ。
お米って、何にでも合うんだよ。
だからさ、収穫まで一緒に見守ろうな!」

「はーいっ!」


水の抜かれた田んぼを眺めながら、皆で収穫の話に花を咲かせる。

この世界には、「お米」という概念自体が存在しない。
それに、スライムが人間と同じものを食べるなんて、
本来ならありえないことだろう。

でも、俺と生活するようになってから、
彼らは間違いなく“グルメなスライム”へと進化している。
きっと、お米の味も気に入ってくれるはずだ。

だから、早く食べさせてやりたい――
そんな気持ちで胸をいっぱいにしながら、
俺は黄金色に染まる未来の田んぼを思い描いていた――










「おはよー!
みんな、朝ごはんできてるから集まってー!」

「主、おはよう!今日は朝からご機嫌だな!」

「あるじさま、おはようございます」

「お前は、まるで子供だな」

「あるじ、はこぶね」

「ヨシヒロ様、おはようございます!」


いつもより一時間も早く目が覚めてしまった朝。
誰もいない厨房で、せっせと皆の朝食を作り終えたところで、声を張り上げた。

上機嫌な俺を見て、皆の反応はさまざまだ。
特にロウキは、呆れたようにフンッと鼻を鳴らしている。

……でも、仕方ないだろう。

あれから無事に五日が過ぎ、今日はついに収穫の日。
テンションが上がらないわけがない。


「俺は一足先に湖へ行くから、
食事が終わったら、ぼちぼち来てくれ」

「分かったー」

「分かりました、あるじさま」


朝食を配り終えると、ルーナと子供たちの分を持って、俺は一足先に湖へ向かった。
今日は天気も良く、まさに収穫日和。朝から気分も軽い。

湖に到着すると、キャットタワーの上でくつろいでいるルーナが目に入った。


「ルーナ、おはよう!」

「にゃあん!」

「今日もいい天気で良かったなぁ。
朝ごはん、持ってきたから、みんなで食べよう」

「んにゃあ!」


頭を撫でると、ルーナは喉を鳴らしながら目を細めた。
もうすっかり懐いてくれているし、子供たちも楽しそうだ。
それが、何より嬉しい。

ルーナたちを連れてガゼボへ向かい、朝食を並べる。
俺も椅子に腰を下ろし、パンを手に取った。


「いただきまーす。
……静かな朝も、いいよなぁ。
ここ、絶対パワースポットだろ」


澄んだ空気の中でパンを頬張っていると、
ふいに前世の朝食風景が頭をよぎった。

朝も夜もなく働いて、朝食はいつもコンビニの紙パックの野菜ジュースとパン、もしくはおにぎり。

味わう余裕なんてなくて、無理やり流し込んでは、すぐ仕事に向かっていた。

……転職、失敗だったよな。

甘い言葉に誘われて入った先は、とんでもないスーパーブラック企業。

辞めたくても辞められず、皆、生きた屍みたいな顔をしていた。

そんな俺が、今はこうして、穏やかな朝食の時間を過ごしている。

あの頃の俺が聞いたら、きっと夢物語だと思うだろう。

そう思いながら、胸いっぱいに「幸せ」を噛みしめていた。


「ごちそうさまでした!」

「にゃにゃにゃあ、にゃにゃにゃーにゃ!」

「……え?
今、『ごちそうさまでした』って言った?」

「にゃあん!」

「異世界の猫、俺が思ってる以上にすごいのかもな……
まあ、可愛いから何でもいいけど!」


朝食を終えた俺の横で、
ルーナが猫語で「ごちそうさまでした」と言ったように聞こえ、
思わず目を見開いた。

問いかけると、返ってきたのは、いつも通りの可愛らしい鳴き声。

……でも、絶対に言った気がする。

普通の猫じゃないんだろうな、とは思うけど、可愛ければ全部よしだ。

そう結論づけて、ルーナの頭を撫でた。


「主ー! お待たせー!」

「稲を収穫しましょう、あるじさま!」

「今日は我はいらぬだろう?」

「あるじ、俺、なにすればいい?」


朝食を終えた皆が集まってくる。
ロウキ以外は、やる気満々だ。

ただの俺の思いつきで始めたお米作りなのに、
皆がこんなに真剣に向き合ってくれている。

……本当に、ありがたい。


「さて、今日はついに稲刈りだ。
これは『鎌』。稲を刈るための道具だよ。
扱えるのは、ミルとクロかな。
クロ、ちょっと使いにくくないか?」

「俺、できるよ!」

「そっか。じゃあ、小さめの鎌を使おう。
持つ時は気をつけるんだぞ。
黄金色の稲を、地面から5~10センチくらいの位置で切る。
鎌は、地面と水平に引くのがポイントだ!」

「分かったー!」

「がんばるね!」


説明をしていると、
ラピスがぐいっと前に出てきた。


「ヨシヒロ様! 僕たちも鎌、持てます!」

「え? 相変わらず、頑張り屋さんだなぁ」

「ルド! 鎌を解析したから、複製して!」

「任せて、レピス!」


ラピスは体の一部を細長く伸ばし、
クロの鎌を借りて一瞬で解析。
その情報がルドへ伝えられ、
気づけばスライム全員分の、小さな鎌が誕生していた。
前は手のような使い方は出来なかった気がするけど、日々進化してるのかな。


「よし、それじゃあ作業開始!
怪我だけは、絶対するなよー!」

「はーーーいっ!」


乾いた田んぼに足を踏み入れ、
稲穂を手に取る。

ザク、ザクッ――

鎌が稲を断つ音が、心地よく響いた。
稲刈りは、小学生の頃に体験学習でやったきりだけど、
あの時も、楽しかったんだろうか。

でも、はっきり言える。
今の方が、何倍も楽しい。

ロウキとユキは座り込んで、尻尾を揺らしながら見守り役。
クロは小さな手で鎌を器用に扱い、数株ずつ丁寧に束ねながら刈り取っていく。

ミルは怪力を活かし、豪快に、それでいて驚くほど丁寧な仕事ぶり。

スライムたちは、小さな鎌を体の一部でしっかり持ち、
一列になって一生懸命稲を刈り進めていく。

その光景は、なんとも言えないほど、愛おしかった。


「俺も、負けてられないな」


気合を入れ直し、俺も再び鎌を振るう。
このお米は、絶対に美味しい。
だって、皆で一緒に作り上げた、最高のお米なんだから。

そう思いながら、汗をぬぐい、楽しみつつ、稲刈りに没頭していた――
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