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第61話 心を護る
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ルーナの話を聞いたあと、俺はその内容を皆に伝えてもいいか、
それとも秘密にしておきたいかを確認した。
彼女にとっては、とても重くて辛い過去だ。勝手に口外するのは、違うと思ったから。
するとルーナは、穏やかに首を振って言った。
「この場にいる従魔たちなら、信用できますし……信頼していますわ」
その言葉を受けて、俺は皆を集め、
ルーナから聞いた話を、ゆっくりと、できるだけ丁寧に語った。
すべてを話し終えたときだった。
どこからか、すすり泣く声が聞こえてきて、俺は思わず辺りを見回した。
泣いていたのは――ガーネットだった。
彼女はルーナのもとへ駆け寄ると、
その柔らかな体をぴたりと寄せて、涙声で叫んだ。
「ルーナ! 生きててくれてありがとう!
私はあなたに出会えて、本当に嬉しい!
もう一人じゃないからね! 皆と、ずっと一緒だよ!」
「……ガーネット。ありがとう。
私も……とても嬉しいわ」
「ヨシヒロ様も、ここにいる皆も、絶対にルーナを護るからね!」
「ふふっ……心強いわ。私も、頑張りますわね」
女の子同士だからなのか、それとも、心の奥で通じ合う何かがあったのか。
ルーナの歩んできた足跡を聞いて、何も感じない者など、この場にはいなかった。
魔物や魔獣、悪魔という存在が、どこまで感情を持つのかは分からない。
けれど少なくとも、ここにいる皆は――
真剣に話を聞き、それぞれの形で受け止め、
「ルーナが大切だ」という気持ちを、はっきり示していた。
……これで、もう大丈夫だ。
ルーナがこれまで一人で背負ってきたものは、
きっと、少しずつ軽くなっていく。
「さてと。皆の気持ちも通じ合ったところで……
俺はこれから王都へ行ってくるよ。
留守の間、仲良く遊んでてくれる?」
「そうなのか?じゃあ、俺がついて行ってやるよ!」
「あるじさま、僕もご一緒したいところなのですが……
その前にひとつ、よろしいでしょうか?」
「ん?」
「グリフォンの名前は、もうお決まりですか?」
「……え?」
「あるじ、なまえ、とくいだよね。」
「本当だよ、主!
早く決めてあげなきゃ、可哀想だよー!」
「皆……気が早すぎないか?」
「皆の者、こやつは名前を考えるのが一番苦手なのだぞ」
「そうなのですか?
ヨシヒロ様、皆に素敵なお名前をつけているのに!」
「いや、その……
名前って、とても大事だろ?
だから安易につけられないっていうか……」
気持ちが落ち着いたところで、
王都へ向かうつもりだと伝えたんだけど――
話題は一瞬で、グリフォンの名前へと移ってしまった。
「今じゃなきゃダメ?」
「今だよー!」
「ぜひ!」
「うぅ……やっぱり今なのか……
ちょっと考えるから、待ってて……」
皆が口をそろえて「今だ」と言うので、俺は観念して、ガゼボへ一人移動した。
グリフォンだから……「グリ」とか?いや、さすがにそれは適当すぎるか。
ゲームみたいに、名前の候補がランダムで出てきてくれたらいいのに……
「あれでもない、これでもない」と考えていると、
ふと、昔読んだグリフォンの伝承を思い出した。
――確か、
「魂の番人」
「死者の魂を天へ運ぶ存在」
そんな風に語られていなかっただろうか。
それって、どこか……
ルーナの言っていた“生と死を見つめる存在”に似ている気がする。
魂。心。それを護る存在――
「よし……決めた。
グリフォン、君と契約するよ。
……我が眷属となりし者よ。
この名を与える――心護(しんご)」
「……シンゴ……?」
「ああ。これも日本語でさ、漢字では“心”を“護る”って書くんだ。
ルーナとの繋がりも意識した名前だよ。
それに、グリフォンの伝承には“魂の番人”とか
“死者の魂を天へ運ぶ存在”っていう話があるって、前に聞いたことがあってさ。
だから――“心を護る存在”として、シンゴ。君にぴったりだと思ったんだ」
頭に浮かんだ言葉は、「心を護る」だった。それが正しい意味になるのかは分からない。
でも、不思議とこの名前だけは、迷いなく胸に落ちてきた。
グリフォンに向かって、そっと名前を呼ぶ。
「……シンゴ」
すると、シンゴは大きな瞳をぱちくりと瞬かせ、
小さな翼を一生懸命パタパタと動かした。
「ピィッ! し、ん、ご! ピィッ!」
「あはは、そうそう! 今日から君の名前はシンゴだよ。
シンちゃん、よろしくな!」
「ヨシヒロ様……
素敵なお名前をつけてくださり、ありがとうございます。
私との繋がりまで考えてくださるなんて……とても嬉しいですわ」
「ルーナは、母親代わりみたいな存在だしな。
シンゴにとっても、きっと一番近い存在だと思うからさ」
「ええ……
この子は、きっと私と何かで繋がっているのでしょう。
必ず、立派な神獣に育ててみせますわ」
「ああ、頼む――
……って、え?
グリフォンって神獣なの?!」
「え? ええ、この世界では神獣の扱いですわよ。
特に、ソウリアス王国の国旗にはグリフォンが描かれていますから、
とても大切にされてきた存在です。
……ご存じ、ありませんでした?」
「ない! 全然知らない! エマ、詳しく教えて!」
【マスターは、生き物以外に興味が皆無です。
……検索しました。説明します。
ソウリアス王国の国旗にグリフォンが描かれている理由ですが、
グリフォンは“鳥の王”と“百獣の王”が合わさった存在であり、
“天と地の覇者”を象徴する生き物とされています。
つまり、グリフォンはソウリアス王国に“永遠の王権”をもたらす存在と信じられているのです。
また、グリフォンは“宝物”や“聖域”を護る存在としても知られています。
そのため国旗にグリフォンを描くことで、
『この国はグリフォンに護られている』という意思を国内外に示しているのです】
「へぇ……そうだったのか。
俺、国旗とか本当に興味なくて、ちゃんと見たことなかったな。
今度、王城に行ったときはちゃんと見てみよう」
【アドバイスします。
……もう少し、国のことにも興味を持ちましょう】
「ははは……ごもっとも。勉強します……」
エマの説明を聞いて、この国そのものが
グリフォンという存在と、その伝承を信仰しているのだと知った。
正直、驚いた。でも、信仰の理由を聞けば、なるほどと納得もできる。
――もし、絶滅したはずのグリフォンに生き残りがいると知られたら。
一体、どうなるんだろう。
アーロンさんは、きっと素直に喜んでくれる。
でも、中には「グリフォンは国のものだ」
なんて言って、奪いに来る人間もいるかもしれない。
そんな不安が頭をよぎった、その時だった。
【補足します。
個体名シンゴとマスターは従魔契約を結んでいます。
誰であっても、シンゴを奪うことはできません。ご安心ください】
「あ、そうなのか?それなら安心だな。
シンゴを巡って争いが起きたら、さすがに笑えないから……」
「パッパ! パッパ!」
「シンゴ。ルーナの言うことをちゃんと聞いて、良い子にするんだぞ?」
「ピィッ!」
国を巻き込む大事件になったらどうしよう――
そんな不安を、エマがあっさりと拭い去ってくれた。
神獣ともなれば、争いの火種になってもおかしくない。
だからこそ、従魔契約を結んでいて本当に良かったと、心から思う。
そんな俺の心配などお構いなしに、
シンゴは呑気に鳴き声をあげて、楽しそうにしていた。
……まだ、生まれたばかりだもんな。
分からないことだらけでいい。
そのまま、素直に。
優しい心を持ったまま、育ってくれたら――
それだけで、俺は大満足だ。
そう思いながら、シンゴをそっと抱き上げ、
その小さな頭を撫でて、しばらく癒されていた――
それとも秘密にしておきたいかを確認した。
彼女にとっては、とても重くて辛い過去だ。勝手に口外するのは、違うと思ったから。
するとルーナは、穏やかに首を振って言った。
「この場にいる従魔たちなら、信用できますし……信頼していますわ」
その言葉を受けて、俺は皆を集め、
ルーナから聞いた話を、ゆっくりと、できるだけ丁寧に語った。
すべてを話し終えたときだった。
どこからか、すすり泣く声が聞こえてきて、俺は思わず辺りを見回した。
泣いていたのは――ガーネットだった。
彼女はルーナのもとへ駆け寄ると、
その柔らかな体をぴたりと寄せて、涙声で叫んだ。
「ルーナ! 生きててくれてありがとう!
私はあなたに出会えて、本当に嬉しい!
もう一人じゃないからね! 皆と、ずっと一緒だよ!」
「……ガーネット。ありがとう。
私も……とても嬉しいわ」
「ヨシヒロ様も、ここにいる皆も、絶対にルーナを護るからね!」
「ふふっ……心強いわ。私も、頑張りますわね」
女の子同士だからなのか、それとも、心の奥で通じ合う何かがあったのか。
ルーナの歩んできた足跡を聞いて、何も感じない者など、この場にはいなかった。
魔物や魔獣、悪魔という存在が、どこまで感情を持つのかは分からない。
けれど少なくとも、ここにいる皆は――
真剣に話を聞き、それぞれの形で受け止め、
「ルーナが大切だ」という気持ちを、はっきり示していた。
……これで、もう大丈夫だ。
ルーナがこれまで一人で背負ってきたものは、
きっと、少しずつ軽くなっていく。
「さてと。皆の気持ちも通じ合ったところで……
俺はこれから王都へ行ってくるよ。
留守の間、仲良く遊んでてくれる?」
「そうなのか?じゃあ、俺がついて行ってやるよ!」
「あるじさま、僕もご一緒したいところなのですが……
その前にひとつ、よろしいでしょうか?」
「ん?」
「グリフォンの名前は、もうお決まりですか?」
「……え?」
「あるじ、なまえ、とくいだよね。」
「本当だよ、主!
早く決めてあげなきゃ、可哀想だよー!」
「皆……気が早すぎないか?」
「皆の者、こやつは名前を考えるのが一番苦手なのだぞ」
「そうなのですか?
ヨシヒロ様、皆に素敵なお名前をつけているのに!」
「いや、その……
名前って、とても大事だろ?
だから安易につけられないっていうか……」
気持ちが落ち着いたところで、
王都へ向かうつもりだと伝えたんだけど――
話題は一瞬で、グリフォンの名前へと移ってしまった。
「今じゃなきゃダメ?」
「今だよー!」
「ぜひ!」
「うぅ……やっぱり今なのか……
ちょっと考えるから、待ってて……」
皆が口をそろえて「今だ」と言うので、俺は観念して、ガゼボへ一人移動した。
グリフォンだから……「グリ」とか?いや、さすがにそれは適当すぎるか。
ゲームみたいに、名前の候補がランダムで出てきてくれたらいいのに……
「あれでもない、これでもない」と考えていると、
ふと、昔読んだグリフォンの伝承を思い出した。
――確か、
「魂の番人」
「死者の魂を天へ運ぶ存在」
そんな風に語られていなかっただろうか。
それって、どこか……
ルーナの言っていた“生と死を見つめる存在”に似ている気がする。
魂。心。それを護る存在――
「よし……決めた。
グリフォン、君と契約するよ。
……我が眷属となりし者よ。
この名を与える――心護(しんご)」
「……シンゴ……?」
「ああ。これも日本語でさ、漢字では“心”を“護る”って書くんだ。
ルーナとの繋がりも意識した名前だよ。
それに、グリフォンの伝承には“魂の番人”とか
“死者の魂を天へ運ぶ存在”っていう話があるって、前に聞いたことがあってさ。
だから――“心を護る存在”として、シンゴ。君にぴったりだと思ったんだ」
頭に浮かんだ言葉は、「心を護る」だった。それが正しい意味になるのかは分からない。
でも、不思議とこの名前だけは、迷いなく胸に落ちてきた。
グリフォンに向かって、そっと名前を呼ぶ。
「……シンゴ」
すると、シンゴは大きな瞳をぱちくりと瞬かせ、
小さな翼を一生懸命パタパタと動かした。
「ピィッ! し、ん、ご! ピィッ!」
「あはは、そうそう! 今日から君の名前はシンゴだよ。
シンちゃん、よろしくな!」
「ヨシヒロ様……
素敵なお名前をつけてくださり、ありがとうございます。
私との繋がりまで考えてくださるなんて……とても嬉しいですわ」
「ルーナは、母親代わりみたいな存在だしな。
シンゴにとっても、きっと一番近い存在だと思うからさ」
「ええ……
この子は、きっと私と何かで繋がっているのでしょう。
必ず、立派な神獣に育ててみせますわ」
「ああ、頼む――
……って、え?
グリフォンって神獣なの?!」
「え? ええ、この世界では神獣の扱いですわよ。
特に、ソウリアス王国の国旗にはグリフォンが描かれていますから、
とても大切にされてきた存在です。
……ご存じ、ありませんでした?」
「ない! 全然知らない! エマ、詳しく教えて!」
【マスターは、生き物以外に興味が皆無です。
……検索しました。説明します。
ソウリアス王国の国旗にグリフォンが描かれている理由ですが、
グリフォンは“鳥の王”と“百獣の王”が合わさった存在であり、
“天と地の覇者”を象徴する生き物とされています。
つまり、グリフォンはソウリアス王国に“永遠の王権”をもたらす存在と信じられているのです。
また、グリフォンは“宝物”や“聖域”を護る存在としても知られています。
そのため国旗にグリフォンを描くことで、
『この国はグリフォンに護られている』という意思を国内外に示しているのです】
「へぇ……そうだったのか。
俺、国旗とか本当に興味なくて、ちゃんと見たことなかったな。
今度、王城に行ったときはちゃんと見てみよう」
【アドバイスします。
……もう少し、国のことにも興味を持ちましょう】
「ははは……ごもっとも。勉強します……」
エマの説明を聞いて、この国そのものが
グリフォンという存在と、その伝承を信仰しているのだと知った。
正直、驚いた。でも、信仰の理由を聞けば、なるほどと納得もできる。
――もし、絶滅したはずのグリフォンに生き残りがいると知られたら。
一体、どうなるんだろう。
アーロンさんは、きっと素直に喜んでくれる。
でも、中には「グリフォンは国のものだ」
なんて言って、奪いに来る人間もいるかもしれない。
そんな不安が頭をよぎった、その時だった。
【補足します。
個体名シンゴとマスターは従魔契約を結んでいます。
誰であっても、シンゴを奪うことはできません。ご安心ください】
「あ、そうなのか?それなら安心だな。
シンゴを巡って争いが起きたら、さすがに笑えないから……」
「パッパ! パッパ!」
「シンゴ。ルーナの言うことをちゃんと聞いて、良い子にするんだぞ?」
「ピィッ!」
国を巻き込む大事件になったらどうしよう――
そんな不安を、エマがあっさりと拭い去ってくれた。
神獣ともなれば、争いの火種になってもおかしくない。
だからこそ、従魔契約を結んでいて本当に良かったと、心から思う。
そんな俺の心配などお構いなしに、
シンゴは呑気に鳴き声をあげて、楽しそうにしていた。
……まだ、生まれたばかりだもんな。
分からないことだらけでいい。
そのまま、素直に。
優しい心を持ったまま、育ってくれたら――
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