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第78話 エトワール教会
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「王都のエトワール教会は、誰でも入れる一般的な教会でな。
管理自体は王家と、神聖光《しんせいこう》教団が行っているんだが」
「神聖光教団?」
「神聖光教団ってのは、要するにでかい宗教団体だ。
アーロンを頂点として、王城のすぐ近くにあるセレスティア大聖堂を本部に、
王国の信仰全体を統括している組織だな。
大司祭はハリソン・ダイナ・オコナーって男だが……まぁ、今回は関係ない。
で、その教団の管轄下にある市民向けの一般教会が、エトワール教会ってわけだ。
神父はダニエル・カーン、シスターはマリン・ラミレス。
この二人が中心になって教会を切り盛りしてる。」
「へぇ。やっぱり、どこにでもあるんですね。宗教団体って」
「まぁな。それで、そのエトワール教会で幽霊騒動が起きてるってわけだ。
“気のせいだ”って何度も言ったんだが……
何十件も同じ依頼が来るもんだから、さすがにな」
「何十件……絶叫確定だ……」
ガーノスさんから、この国の宗教事情について説明を受けた。
神聖光教団が運営する教会の一つ、エトワール教会が今回の幽霊騒動の現場らしい。
歌声が聞こえるだの、礼拝中に白い影が見えるだの……
もう、テンプレそのものじゃないか。こういうの。
「まぁ、そういうわけで頼んだぞ。いつでもいいからよ」
「あー……分かりました。
じゃあ、ひとまずこれから教会の人に話を聞きに行きますか」
「それがいいな。よし、行くか」
「行こうぜー!」
こういう“怖い系”の依頼は、さっさと終わらせるに限る。
そう考えた俺は、すぐにエトワール教会へ向かうことにした。
神父とシスターの二人から直接話を聞けば、何か手がかりが掴めるかもしれない。
もしかしたら、本当に幽霊じゃない可能性だってある。
……そうだといいな。心の底から。
エトワール教会は、冒険者ギルドから少し歩いた場所に建っていた。
その隣には孤児院があり、子供たちが元気に走り回っている。
そこから出てきたのは、濃紺の修道服に、純白のベールとコーフを身にまとったシスターだった。
穏やかな笑みを浮かべる彼女を見ていると、なんだかそれだけで心が洗われる気がする。
「教会って、外から見てもステンドグラスとか、構造が綺麗ですよね」
「一般向けとはいえ王都の教会だからな。
それなりの見た目じゃないと格好がつかないって、昔アーロンが言ってたぜ」
「なるほど。まぁ、見栄ってやつですかねぇ」
「皆さま。本日はお忙しい中、お越しいただきありがとうございます。
私は神聖光教団に属するシスター、マリン・ラミレスと申します。
どうぞ、マリンとお呼びくださいね。
この度は、教会内で解決できない件でご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳ございません……
どうか、お力添えをお願いいたします」
「そんなにかしこまらなくていいって、マリン。
ヨシヒロは俺のダチだし、従魔たちもいる。何とかしてくれるだろ」
「いつもありがとうございます、ガーノスさん。
ですが……本来は、聖職者である私たちが解決すべき問題ですのに……」
「差し支えなければ、詳しくお話を伺ってもいいですか?」
「はい。では、中へどうぞ。詳しいことは神父様からご説明いただきます」
マリンさんは、申し訳なさそうに、そしてどこか悲しげな表情を浮かべていた。
霊的な問題は、本来この人たちの専門分野だ。
それを外部に頼らざるを得ない状況が、きっと歯がゆいのだろう。
そんなことを考えながら教会の中へ入ると、奥で待っていた神父がこちらを振り返った。
「これはこれは、ガーノス殿。
それに冒険者の皆さま、ようこそエトワール教会へ。
私は神聖光教団に属する、ダニエル・カーンと申します。
このエトワール教会の責任者として、長年この地で務めさせていただいております」
「はじめまして、ヨシヒロです。
そしてこちらは、私の使い魔と従魔たちです。
……怪奇現象は、いつ頃から起きているのでしょうか?」
「一ヶ月ほど前からになります……」
ダニエル神父から事情を聞き、俺は思わず顔をしかめた。
夜になると、礼拝堂から古い聖歌のような歌声が聞こえる。
調査をしても、歌の出どころは不明。
さらに、礼拝中に白い服を着た女性の姿を見たという証言が相次いでいるという。
そして、その姿を見た者は決まって、夜中に何かを探すように教会内を徘徊するらしい。
……うん。
やっぱり、どう聞いても“出てる”やつだよな。
「それは……やはり、霊的なもの……なのですね」
「ええ。しかし、我々が除霊を試みても、まったく効果がありませんでした。
つまり、神聖魔法では対処できない案件と判断され、魔物の仕業である可能性も否定できない。
そう考え、ガーノス殿に依頼を出したというわけです。」
「なるほど……現時点では、どちらとも断定できませんね。
ですが、私たちにできることがあるか、調査してみます」
「ありがとうございます。
それでは早速で恐縮ですが、本日一日、こちらで様子を見ていただければと思います。
教会を訪れる方の中には、魔物や魔獣に抵抗のある方もおられますので……
日が暮れるまでは、ヨシヒロ様おひとりでお願いしたいのですが」
「分かりました。この子たちには、ギルドで待機してもらいますね」
神父様の話を聞く限り、霊的な要素もあれば、魔物の仕業と言われても不思議ではない状況だった。
ひとまず俺はガーノスさんにお願いし、ロウキたちを連れて戻ってもらい、日が暮れるまでは家で待機してもらうことにした。
そして――ルーナだけは見た目が普通の猫だ。
一緒にいても問題ないだろうと判断し、彼女と共に教会で一日を過ごすことにした。
「俺も主と一緒がいいのにー!」
「クロちゃん、何度も言うけど……君は“悪魔”だからね?
教会にあんまり長居しない方がいいの!」
「面白くないっ!」
「いいからクロ! 行くぞー!」
「チェッ!」
クロはどうしても一緒にいたかったようだけど、
悪魔が教会に長く留まるのは、やはり良くない。
そう判断した俺は、ガーノスに頼んでクロを捕まえてもらい、外へ連れ出してもらった。
その様子を見ていたルーナは、どこか優しい表情で、俺にそっと声をかけた。
「クロちゃんは、本当にヨシヒロ様のことがお好きですわね」
「まぁ……クロは、前の主と一緒に一度命を終えてるからな。
それでも一人になりたくなくて、魂だけがあの家に留まり続けてて……
俺があの家を修復した時に、一緒に魂も復活したんだ。
だから多分、主を失った時の辛さや悲しさが、そのまま蘇ってるんだろうなって。
……もう二度と、一人になりたくないんだと思う」
「やはり、そうでしたのね。
クロちゃんの魂には、復活した魂特有の輝きがありましたわ。
ヨシヒロ様と同じです」
「同じ……?」
「転生者や、一度死を経験した魂には、独特の形やオーラがあるのです」
「へぇ……魂にも、形とかオーラとかあるんだな」
クロが俺から離れたがらない理由を話すと、
ルーナは、すでにその“復活”に気づいていたらしかった。
魂に関わることができるルーナだからこそ感じ取れるもの――
転生者や、蘇った魂が放つ、特有の形とオーラ。
それはつまり、彼女にはこの世界に存在する人々が、
どんな“在り方”で生きているのかが見えているということ。
……それは、彼女にとって幸せなことなのか。
それとも、とても切ないことなのか。
俺は、少しだけ考えてしまった。
「この世界で生きる魂は、皆……炎のような形で存在していますの。
それぞれが揺れ動き、やがては消えていく――
だからこそ、私たちはそれを感じ取ることができますわ。
ですが、ヨシヒロ様やクロちゃんのような魂は違います。
二つの炎が、寄り添うように揺れているのです。
ひとつは“今を生きる炎”。
もうひとつは、“かつての記憶”の名残り。
その二つが重なり合うことで……
とても温かく、けれど儚い光を放つのですわ」
「すごっ……
そっかぁ……なんか、いいのか悪いのか分かんないけど……
どっちも、大事にしなきゃな」
「ええ。どちらが欠けても、きっと良いことはありませんから」
「だよな。命は大事にしなきゃ!
だから俺は、のんびり生活が送りたいのだよ!」
「ふふっ。
ヨシヒロ様の望む“のんびり生活”は……当分、難しそうですわね?」
「……ですよねー……」
ルーナが語ってくれた魂の形とオーラの話は、
どこか胸を締めつけるような、切ないものだった。
――炎は、いつか消える。
その言葉が、心の奥に静かに残る。
そして、二つの揺らぎを持つ自分の魂。
どちらも、大切に生きなければならない。
そう伝えると、ルーナは静かに、優しく頷いてくれた。
……もしかして、ルーナこそ教会にいるべき存在なんじゃないか?
そんなことを考えながら、俺は彼女と並び、
教会を訪れる人々を静かに見守り続けた――
管理自体は王家と、神聖光《しんせいこう》教団が行っているんだが」
「神聖光教団?」
「神聖光教団ってのは、要するにでかい宗教団体だ。
アーロンを頂点として、王城のすぐ近くにあるセレスティア大聖堂を本部に、
王国の信仰全体を統括している組織だな。
大司祭はハリソン・ダイナ・オコナーって男だが……まぁ、今回は関係ない。
で、その教団の管轄下にある市民向けの一般教会が、エトワール教会ってわけだ。
神父はダニエル・カーン、シスターはマリン・ラミレス。
この二人が中心になって教会を切り盛りしてる。」
「へぇ。やっぱり、どこにでもあるんですね。宗教団体って」
「まぁな。それで、そのエトワール教会で幽霊騒動が起きてるってわけだ。
“気のせいだ”って何度も言ったんだが……
何十件も同じ依頼が来るもんだから、さすがにな」
「何十件……絶叫確定だ……」
ガーノスさんから、この国の宗教事情について説明を受けた。
神聖光教団が運営する教会の一つ、エトワール教会が今回の幽霊騒動の現場らしい。
歌声が聞こえるだの、礼拝中に白い影が見えるだの……
もう、テンプレそのものじゃないか。こういうの。
「まぁ、そういうわけで頼んだぞ。いつでもいいからよ」
「あー……分かりました。
じゃあ、ひとまずこれから教会の人に話を聞きに行きますか」
「それがいいな。よし、行くか」
「行こうぜー!」
こういう“怖い系”の依頼は、さっさと終わらせるに限る。
そう考えた俺は、すぐにエトワール教会へ向かうことにした。
神父とシスターの二人から直接話を聞けば、何か手がかりが掴めるかもしれない。
もしかしたら、本当に幽霊じゃない可能性だってある。
……そうだといいな。心の底から。
エトワール教会は、冒険者ギルドから少し歩いた場所に建っていた。
その隣には孤児院があり、子供たちが元気に走り回っている。
そこから出てきたのは、濃紺の修道服に、純白のベールとコーフを身にまとったシスターだった。
穏やかな笑みを浮かべる彼女を見ていると、なんだかそれだけで心が洗われる気がする。
「教会って、外から見てもステンドグラスとか、構造が綺麗ですよね」
「一般向けとはいえ王都の教会だからな。
それなりの見た目じゃないと格好がつかないって、昔アーロンが言ってたぜ」
「なるほど。まぁ、見栄ってやつですかねぇ」
「皆さま。本日はお忙しい中、お越しいただきありがとうございます。
私は神聖光教団に属するシスター、マリン・ラミレスと申します。
どうぞ、マリンとお呼びくださいね。
この度は、教会内で解決できない件でご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳ございません……
どうか、お力添えをお願いいたします」
「そんなにかしこまらなくていいって、マリン。
ヨシヒロは俺のダチだし、従魔たちもいる。何とかしてくれるだろ」
「いつもありがとうございます、ガーノスさん。
ですが……本来は、聖職者である私たちが解決すべき問題ですのに……」
「差し支えなければ、詳しくお話を伺ってもいいですか?」
「はい。では、中へどうぞ。詳しいことは神父様からご説明いただきます」
マリンさんは、申し訳なさそうに、そしてどこか悲しげな表情を浮かべていた。
霊的な問題は、本来この人たちの専門分野だ。
それを外部に頼らざるを得ない状況が、きっと歯がゆいのだろう。
そんなことを考えながら教会の中へ入ると、奥で待っていた神父がこちらを振り返った。
「これはこれは、ガーノス殿。
それに冒険者の皆さま、ようこそエトワール教会へ。
私は神聖光教団に属する、ダニエル・カーンと申します。
このエトワール教会の責任者として、長年この地で務めさせていただいております」
「はじめまして、ヨシヒロです。
そしてこちらは、私の使い魔と従魔たちです。
……怪奇現象は、いつ頃から起きているのでしょうか?」
「一ヶ月ほど前からになります……」
ダニエル神父から事情を聞き、俺は思わず顔をしかめた。
夜になると、礼拝堂から古い聖歌のような歌声が聞こえる。
調査をしても、歌の出どころは不明。
さらに、礼拝中に白い服を着た女性の姿を見たという証言が相次いでいるという。
そして、その姿を見た者は決まって、夜中に何かを探すように教会内を徘徊するらしい。
……うん。
やっぱり、どう聞いても“出てる”やつだよな。
「それは……やはり、霊的なもの……なのですね」
「ええ。しかし、我々が除霊を試みても、まったく効果がありませんでした。
つまり、神聖魔法では対処できない案件と判断され、魔物の仕業である可能性も否定できない。
そう考え、ガーノス殿に依頼を出したというわけです。」
「なるほど……現時点では、どちらとも断定できませんね。
ですが、私たちにできることがあるか、調査してみます」
「ありがとうございます。
それでは早速で恐縮ですが、本日一日、こちらで様子を見ていただければと思います。
教会を訪れる方の中には、魔物や魔獣に抵抗のある方もおられますので……
日が暮れるまでは、ヨシヒロ様おひとりでお願いしたいのですが」
「分かりました。この子たちには、ギルドで待機してもらいますね」
神父様の話を聞く限り、霊的な要素もあれば、魔物の仕業と言われても不思議ではない状況だった。
ひとまず俺はガーノスさんにお願いし、ロウキたちを連れて戻ってもらい、日が暮れるまでは家で待機してもらうことにした。
そして――ルーナだけは見た目が普通の猫だ。
一緒にいても問題ないだろうと判断し、彼女と共に教会で一日を過ごすことにした。
「俺も主と一緒がいいのにー!」
「クロちゃん、何度も言うけど……君は“悪魔”だからね?
教会にあんまり長居しない方がいいの!」
「面白くないっ!」
「いいからクロ! 行くぞー!」
「チェッ!」
クロはどうしても一緒にいたかったようだけど、
悪魔が教会に長く留まるのは、やはり良くない。
そう判断した俺は、ガーノスに頼んでクロを捕まえてもらい、外へ連れ出してもらった。
その様子を見ていたルーナは、どこか優しい表情で、俺にそっと声をかけた。
「クロちゃんは、本当にヨシヒロ様のことがお好きですわね」
「まぁ……クロは、前の主と一緒に一度命を終えてるからな。
それでも一人になりたくなくて、魂だけがあの家に留まり続けてて……
俺があの家を修復した時に、一緒に魂も復活したんだ。
だから多分、主を失った時の辛さや悲しさが、そのまま蘇ってるんだろうなって。
……もう二度と、一人になりたくないんだと思う」
「やはり、そうでしたのね。
クロちゃんの魂には、復活した魂特有の輝きがありましたわ。
ヨシヒロ様と同じです」
「同じ……?」
「転生者や、一度死を経験した魂には、独特の形やオーラがあるのです」
「へぇ……魂にも、形とかオーラとかあるんだな」
クロが俺から離れたがらない理由を話すと、
ルーナは、すでにその“復活”に気づいていたらしかった。
魂に関わることができるルーナだからこそ感じ取れるもの――
転生者や、蘇った魂が放つ、特有の形とオーラ。
それはつまり、彼女にはこの世界に存在する人々が、
どんな“在り方”で生きているのかが見えているということ。
……それは、彼女にとって幸せなことなのか。
それとも、とても切ないことなのか。
俺は、少しだけ考えてしまった。
「この世界で生きる魂は、皆……炎のような形で存在していますの。
それぞれが揺れ動き、やがては消えていく――
だからこそ、私たちはそれを感じ取ることができますわ。
ですが、ヨシヒロ様やクロちゃんのような魂は違います。
二つの炎が、寄り添うように揺れているのです。
ひとつは“今を生きる炎”。
もうひとつは、“かつての記憶”の名残り。
その二つが重なり合うことで……
とても温かく、けれど儚い光を放つのですわ」
「すごっ……
そっかぁ……なんか、いいのか悪いのか分かんないけど……
どっちも、大事にしなきゃな」
「ええ。どちらが欠けても、きっと良いことはありませんから」
「だよな。命は大事にしなきゃ!
だから俺は、のんびり生活が送りたいのだよ!」
「ふふっ。
ヨシヒロ様の望む“のんびり生活”は……当分、難しそうですわね?」
「……ですよねー……」
ルーナが語ってくれた魂の形とオーラの話は、
どこか胸を締めつけるような、切ないものだった。
――炎は、いつか消える。
その言葉が、心の奥に静かに残る。
そして、二つの揺らぎを持つ自分の魂。
どちらも、大切に生きなければならない。
そう伝えると、ルーナは静かに、優しく頷いてくれた。
……もしかして、ルーナこそ教会にいるべき存在なんじゃないか?
そんなことを考えながら、俺は彼女と並び、
教会を訪れる人々を静かに見守り続けた――
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