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第93話 涙の先に咲いた約束
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「ガーノス! ヨシヒロ! 朝からありがとう」
「おはようございます、アーロンさん」
「待たせちまったな。
……クリスティーナのご両親も、お久しぶりです」
「ガーノス君、久しぶりだねぇ。
ちょっと見ない間に、ずいぶん男前になっちゃって」
「ガーノスも、すっかりオヤジになっちまったな!」
「アーロンと俺も、もういい歳ですからね。
体にガタがきまくりですよ!」
アーロンさんが手を挙げて挨拶をすると、続けてクリスティーナさんのご両親も、懐かしそうに言葉を交わした。
その様子を見る限り、ご両親は彼女の死を誰かのせいにしているわけではないように感じられる。
だけど同時に、
「もし生きていたら、どんな女性に育っていたのだろう」
そんな思いを、今も胸の奥に抱えているようにも見えた。
「お父さん、お母さん。
こちらが、先ほどお話ししたヨシヒロという青年です。
今回、シキナ探索の依頼を出した冒険者になります」
「初めまして、ヨシヒロ君。
入ってきた瞬間、魔王様かと思いましたけど……
とても優しい顔をした青年ですねぇ」
「魔王ってのは、こんなに若い青年だったのか! 知らなかったな。
けど、魔王でも何でもいいさ。
今回は君のおかげで娘に会えるんだからな。
本当にありがとう、ヨシヒロ君」
「あ、あの……えっとですね……
このことは、ご内密にしていただけると……」
「もちろんだよ。
アーロン君から、しっかり話は聞いているからね。
誰にも言わない。安心しなさい」
「ありがとうございます! 助かります!」
クリスティーナさんのご両親に挨拶をすると、
「魔王がこんなにも優しい青年だったとは」と言われ、思わず驚いた。
この人たちの前では、"Face Mute"は発動しないらしい。
俺自身が、無意識のうちに“この二人は安全な存在だ”と認識しているからだろうな。
しっかりと俺の顔を覚えてくれた二人に、慌てて「内緒にしてください」とお願いすると、アーロンさんがすでに説明してくれていたようで、胸を撫で下ろした。
さて……
今日一発目の、緊張の瞬間だ。
そう思いながら献花台へと向かい、「Harvest Vault」と唱えて、シキナを一輪取り出し、そっと供えた。
「皆さん、こちらが“シキナ”という花になります。
この花に向かって、クリスティーナさんを想い、祈りを捧げてください。
その想いに応えてくれるなら――
クリスティーナさんが、ここに来てくれます」
「分かった。
それでは……やりましょう。お父さん、お母さん」
「ええ。」
「ああ……」
「やりますかな」
説明を終え、俺は一歩下がって見守ることにした。
皆、それぞれ緊張した面持ちで深く息を吸い、ゆっくりと目を閉じる。
手のひらを合わせ、指をクロスさせ、静かに祈り始めた。
その祈りの時間は、とても静かだった。
朝日に照らされたステンドグラスの色とりどりの光が、
アーロンさんたちを包み込むように差し込み、
教会の中は、神聖な空気に満ちていく。
そして――
ゆっくりと、ゆっくりとシキナが浮かび上がった。
微かに発光する花びらの光が天へと昇り、
その光が、その場にいる全員を優しく包み込む。
やがてその光の中から、
半透明の姿をした、金髪で長い髪の美しい女性が、
そっと、静かに姿を現した。
「あ……クリスティーナ……
クリスティーナなのか?」
「アーロン……君?
それに、ガーノス……
お父さん、お母さんまで……?」
「ティーナ! 私の可愛い娘!
ずっと……ずっと会いたかったわ、ティーナ!」
「本当に……お前なのかい?
我が娘……ティーナなのか?」
「ええ……ええ……そうよ……
お父さん……お母さん……
……どうして、私はここに?」
目の前に現れたクリスティーナさんを前に、誰もが一瞬、言葉を失った。
やがて実感が湧いてきたのだろう。
最初に声をかけたのは、アーロンさんだった。
驚いた様子のクリスティーナさんの声は、澄んでいて、透明感があり、優しい。
まるで心が浄化されるような、穏やかな響きだった。
思わず、息をのんでしまうほどに。
状況が飲み込めない様子で、
クリスティーナさんは、アーロンさん、ガーノスさん、そしてご両親を見つめ、首を傾げた。
「シキナの伝説は、本当だったんだよ!クリスティーナ。
今こうして君に会えたことが、その何よりの証拠だ」
「シキナ……
幼いころから聞いていた伝説は、本当だったのね。
アーロン君、ガーノス……
ということは、皆が……私を呼んでくれたの?」
「そうだ……私たちはずっと探していたんだ。このシキナを。
君に……クリスティーナに、もう一度会いたくてな……
今さらだと思われるだろうが、私はずっと謝りたかった。
謝ったところで、許されるとは思っていなかったが……
あの日、君に私を庇わせてしまったこと。
そのせいで、君の輝かしい未来を奪ってしまったこと。
そして、ご両親を深く悲しませてしまったこと……
本当に……本当に、すまなかった。
クリスティーナ……」
「俺もだ……
側にいながら助けてやれず……すまなかった。
俺に、もっと力があれば……
お前を死なせずに済んだというのに……」
アーロンさんは、シキナの存在を伝えながら、
胸の奥に溜め込んできた罪と謝罪の言葉を、静かに吐き出した。
それに続き、ガーノスさんも苦しい表情を浮かべながら、
深く、深く頭を下げる。
二人の言葉を最後まで聞いていたクリスティーナさんは、
少し困ったように、だけど優しく微笑んでいた。
その表情だけで、この人の人柄が伝わってくる。
きっと本当に、心根の優しい人なのだろう。
「二人とも、顔を上げてよ……
私はね、あの日アーロン君を助けられたことを、誇りに思ってる。
もちろん、死んでしまったことはとても悔しいし、
未来を迎えられなかったことで、両親を悲しませてしまった。
それは……正直、すごく辛いよ。
でも……あの日、もし私がアーロン君を護れず、
重傷を負わせたり、万が一にも亡くなってしまうようなことが起きていたら……
私は、どちらにしても自ら命を絶っていたと思う」
「クリスティーナ……」
「王族だからとか、そういう理由じゃないの。
人として、冒険者として、ヒーラーとして……
私は、自分の責務を果たせずに、
大切な仲間を目の前で失ったとしたら、もう冒険者を続けられない。
だから、あの日私がしたことを、間違った行動だったとは思っていないよ」
「……すまない。本当に……」
アーロンさんとガーノスさんの謝罪を受けて、
クリスティーナさんは、今まで誰にも打ち明けることのなかった胸の内を明かした。
死んでしまったことへの悔しさも、素直に語りながら。
それでも、自分の行動は間違っていなかったと――
優しさと、強い意志を宿した瞳で、二人をまっすぐに見つめていた。
その言葉を聞いた瞬間、
アーロンさんは両膝と両腕を地面につき、大粒の涙を流した。
ガーノスさんもまた、今まで見せたことのない表情で、静かに涙をこぼす。
この二人の中で、クリスティーナさんの死が、
どれほど重く、深く刻まれていたのか――
それが、痛いほど伝わってくる瞬間だった。
「ねぇ……ガイセル、ギコル、アルファたちは?
元気にしてる?」
「ああ、きっとな。
あのあとパーティは解散して、アイツらは王都を出ちまった。
それで、俺は今、王都の冒険者ギルドでギルド長をやってる」
「そう……解散してしまったのね……
仕方のないことだけど……少し、寂しいわね」
「そうだな。
皆、お前のことが大好きだったからな」
「ふふっ……嬉しいこと言ってくれちゃって。
でも、皆それぞれの時間を過ごしているのね……
アーロン君は立派な国王に、
ガーノスは冒険者を支える人になった。
嬉しいわ。ちゃんと、皆が前を向いて歩いていて。
ねぇ……今度、他の子たちにも会えたら、伝えてくれない?
私は大丈夫よ、って」
「ああ……分かった。伝えておくよ。約束だ」
「約束……ね?」
アーロンさんやガーノスさんだけでなく、
クリスティーナさん自身も、自分の死について、たくさん思うところがあったんだろうな。
二人ときちんと話せたあとの彼女の表情は、どこか吹っ切れたように、すっきりして見えた。
これで、この三人の絆は、今まで以上に深く結ばれ、もう二度と解けない。
そんな気がした。
新しい約束を交わせるほどに――
きっと、心が前を向けたのだと思えていた。
来年、もしまたこの機会を設けることができたなら、
その約束は果たされ、きっと賑やかな再会になるだろう。
そう思うと、少しだけ胸が温かくなった。
「お父さん……お母さん。
ずっと心配かけてごめんね?
あの日、任務が終わって帰ったら
“キノコのクリームシチューを作ってね”って約束してたのに……
食べられなくて……ごめんね」
「ううっ……いいんだよっ!
そんなことは……!
またこうしてティーナと話せただけで、お母さんはもう……!」
「ようやく……ようやく願いが叶ったよ、ティーナ……
アーロン君とガーノスはな、
ずっとワシたちのために、シキナを探してくれていたんだ。
謝りたい気持ちもあっただろうが……
それ以上に、ワシたちのために探してくれていたことが、
本当に嬉しくてな……同時に、申し訳なくも思っていた。
今年見つからなかったら、
もう探すのはやめてもらおうかと話していたんだ……
だが今年は……
ここにいるこの青年が、見事に探してきてくれた。
そのおかげで……
やっと……やっと……
お前に会えた……!」
「お父さん……お母さん……」
「長話はできねぇらしいから、言うぞ。
ワシたちの娘に生まれてきてくれて、ありがとう、ティーナ。
Sランク冒険者になっても変わらない、
その優しい心を持ったお前を……
ワシたちは、誇りに思っている!」
「私の可愛いティーナ……!
あなたは、私たちの自慢の娘よ。
今までも、これからも……ずっと、ずーっとね!」
「……うん……
ありがとう……お父さん……お母さん……
大好きだよ……!」
アーロンさんとガーノスさんとの時間を終え、
クリスティーナさんは、そっと視線をご両親へ向けた。
最初は気丈に振る舞っていた彼女も、
ご両親の言葉と涙を受けて、ついに大粒の涙を流す。
抱きしめることはできないけど、
彼女は、二人をぎゅっと抱き寄せるような仕草を見せた。
その瞬間――
泣き顔だったご両親の表情が、
涙を浮かべながらも、ゆっくりと笑顔へと変わった。
その光景を見た瞬間、
俺も思わず胸が熱くなり、乱暴に涙を拭った。
一番、彼女に会いたかったのは、きっとご両親だ。
お腹を痛めて産み、
最大限の愛情を注いで育てた、たった一人の娘なのだから。
冒険者という道を選んだ以上、
いつかこういう最期が来るかもしれないと、
頭では分かっていたかもしれない。
それでも――
本当にその日が来るとは、思っていなかったはず。
この場にいる全員が、あの日、あの瞬間から、
暗くて長いトンネルの中を歩いてきたのだと思う。
だけど、今日という日をきっかけに、
それぞれが自分の出口へと向かい、
また前を向いて歩き出せたなら。
クリスティーナさんもきっと、そう望んでいるはずだから。
そして、今日という日は、きっと誰もが忘れない。
来年また会えるかもしれないという希望も生まれた。
明日からの人生を、
ほんの少しでも明るく照らすことができたのなら――
それだけで、俺は十分に嬉しい。
この優しい光景を胸に刻みながら、
俺は、今回シキナに関わってくれた
すべての人たちへ、静かに感謝していた――……
「おはようございます、アーロンさん」
「待たせちまったな。
……クリスティーナのご両親も、お久しぶりです」
「ガーノス君、久しぶりだねぇ。
ちょっと見ない間に、ずいぶん男前になっちゃって」
「ガーノスも、すっかりオヤジになっちまったな!」
「アーロンと俺も、もういい歳ですからね。
体にガタがきまくりですよ!」
アーロンさんが手を挙げて挨拶をすると、続けてクリスティーナさんのご両親も、懐かしそうに言葉を交わした。
その様子を見る限り、ご両親は彼女の死を誰かのせいにしているわけではないように感じられる。
だけど同時に、
「もし生きていたら、どんな女性に育っていたのだろう」
そんな思いを、今も胸の奥に抱えているようにも見えた。
「お父さん、お母さん。
こちらが、先ほどお話ししたヨシヒロという青年です。
今回、シキナ探索の依頼を出した冒険者になります」
「初めまして、ヨシヒロ君。
入ってきた瞬間、魔王様かと思いましたけど……
とても優しい顔をした青年ですねぇ」
「魔王ってのは、こんなに若い青年だったのか! 知らなかったな。
けど、魔王でも何でもいいさ。
今回は君のおかげで娘に会えるんだからな。
本当にありがとう、ヨシヒロ君」
「あ、あの……えっとですね……
このことは、ご内密にしていただけると……」
「もちろんだよ。
アーロン君から、しっかり話は聞いているからね。
誰にも言わない。安心しなさい」
「ありがとうございます! 助かります!」
クリスティーナさんのご両親に挨拶をすると、
「魔王がこんなにも優しい青年だったとは」と言われ、思わず驚いた。
この人たちの前では、"Face Mute"は発動しないらしい。
俺自身が、無意識のうちに“この二人は安全な存在だ”と認識しているからだろうな。
しっかりと俺の顔を覚えてくれた二人に、慌てて「内緒にしてください」とお願いすると、アーロンさんがすでに説明してくれていたようで、胸を撫で下ろした。
さて……
今日一発目の、緊張の瞬間だ。
そう思いながら献花台へと向かい、「Harvest Vault」と唱えて、シキナを一輪取り出し、そっと供えた。
「皆さん、こちらが“シキナ”という花になります。
この花に向かって、クリスティーナさんを想い、祈りを捧げてください。
その想いに応えてくれるなら――
クリスティーナさんが、ここに来てくれます」
「分かった。
それでは……やりましょう。お父さん、お母さん」
「ええ。」
「ああ……」
「やりますかな」
説明を終え、俺は一歩下がって見守ることにした。
皆、それぞれ緊張した面持ちで深く息を吸い、ゆっくりと目を閉じる。
手のひらを合わせ、指をクロスさせ、静かに祈り始めた。
その祈りの時間は、とても静かだった。
朝日に照らされたステンドグラスの色とりどりの光が、
アーロンさんたちを包み込むように差し込み、
教会の中は、神聖な空気に満ちていく。
そして――
ゆっくりと、ゆっくりとシキナが浮かび上がった。
微かに発光する花びらの光が天へと昇り、
その光が、その場にいる全員を優しく包み込む。
やがてその光の中から、
半透明の姿をした、金髪で長い髪の美しい女性が、
そっと、静かに姿を現した。
「あ……クリスティーナ……
クリスティーナなのか?」
「アーロン……君?
それに、ガーノス……
お父さん、お母さんまで……?」
「ティーナ! 私の可愛い娘!
ずっと……ずっと会いたかったわ、ティーナ!」
「本当に……お前なのかい?
我が娘……ティーナなのか?」
「ええ……ええ……そうよ……
お父さん……お母さん……
……どうして、私はここに?」
目の前に現れたクリスティーナさんを前に、誰もが一瞬、言葉を失った。
やがて実感が湧いてきたのだろう。
最初に声をかけたのは、アーロンさんだった。
驚いた様子のクリスティーナさんの声は、澄んでいて、透明感があり、優しい。
まるで心が浄化されるような、穏やかな響きだった。
思わず、息をのんでしまうほどに。
状況が飲み込めない様子で、
クリスティーナさんは、アーロンさん、ガーノスさん、そしてご両親を見つめ、首を傾げた。
「シキナの伝説は、本当だったんだよ!クリスティーナ。
今こうして君に会えたことが、その何よりの証拠だ」
「シキナ……
幼いころから聞いていた伝説は、本当だったのね。
アーロン君、ガーノス……
ということは、皆が……私を呼んでくれたの?」
「そうだ……私たちはずっと探していたんだ。このシキナを。
君に……クリスティーナに、もう一度会いたくてな……
今さらだと思われるだろうが、私はずっと謝りたかった。
謝ったところで、許されるとは思っていなかったが……
あの日、君に私を庇わせてしまったこと。
そのせいで、君の輝かしい未来を奪ってしまったこと。
そして、ご両親を深く悲しませてしまったこと……
本当に……本当に、すまなかった。
クリスティーナ……」
「俺もだ……
側にいながら助けてやれず……すまなかった。
俺に、もっと力があれば……
お前を死なせずに済んだというのに……」
アーロンさんは、シキナの存在を伝えながら、
胸の奥に溜め込んできた罪と謝罪の言葉を、静かに吐き出した。
それに続き、ガーノスさんも苦しい表情を浮かべながら、
深く、深く頭を下げる。
二人の言葉を最後まで聞いていたクリスティーナさんは、
少し困ったように、だけど優しく微笑んでいた。
その表情だけで、この人の人柄が伝わってくる。
きっと本当に、心根の優しい人なのだろう。
「二人とも、顔を上げてよ……
私はね、あの日アーロン君を助けられたことを、誇りに思ってる。
もちろん、死んでしまったことはとても悔しいし、
未来を迎えられなかったことで、両親を悲しませてしまった。
それは……正直、すごく辛いよ。
でも……あの日、もし私がアーロン君を護れず、
重傷を負わせたり、万が一にも亡くなってしまうようなことが起きていたら……
私は、どちらにしても自ら命を絶っていたと思う」
「クリスティーナ……」
「王族だからとか、そういう理由じゃないの。
人として、冒険者として、ヒーラーとして……
私は、自分の責務を果たせずに、
大切な仲間を目の前で失ったとしたら、もう冒険者を続けられない。
だから、あの日私がしたことを、間違った行動だったとは思っていないよ」
「……すまない。本当に……」
アーロンさんとガーノスさんの謝罪を受けて、
クリスティーナさんは、今まで誰にも打ち明けることのなかった胸の内を明かした。
死んでしまったことへの悔しさも、素直に語りながら。
それでも、自分の行動は間違っていなかったと――
優しさと、強い意志を宿した瞳で、二人をまっすぐに見つめていた。
その言葉を聞いた瞬間、
アーロンさんは両膝と両腕を地面につき、大粒の涙を流した。
ガーノスさんもまた、今まで見せたことのない表情で、静かに涙をこぼす。
この二人の中で、クリスティーナさんの死が、
どれほど重く、深く刻まれていたのか――
それが、痛いほど伝わってくる瞬間だった。
「ねぇ……ガイセル、ギコル、アルファたちは?
元気にしてる?」
「ああ、きっとな。
あのあとパーティは解散して、アイツらは王都を出ちまった。
それで、俺は今、王都の冒険者ギルドでギルド長をやってる」
「そう……解散してしまったのね……
仕方のないことだけど……少し、寂しいわね」
「そうだな。
皆、お前のことが大好きだったからな」
「ふふっ……嬉しいこと言ってくれちゃって。
でも、皆それぞれの時間を過ごしているのね……
アーロン君は立派な国王に、
ガーノスは冒険者を支える人になった。
嬉しいわ。ちゃんと、皆が前を向いて歩いていて。
ねぇ……今度、他の子たちにも会えたら、伝えてくれない?
私は大丈夫よ、って」
「ああ……分かった。伝えておくよ。約束だ」
「約束……ね?」
アーロンさんやガーノスさんだけでなく、
クリスティーナさん自身も、自分の死について、たくさん思うところがあったんだろうな。
二人ときちんと話せたあとの彼女の表情は、どこか吹っ切れたように、すっきりして見えた。
これで、この三人の絆は、今まで以上に深く結ばれ、もう二度と解けない。
そんな気がした。
新しい約束を交わせるほどに――
きっと、心が前を向けたのだと思えていた。
来年、もしまたこの機会を設けることができたなら、
その約束は果たされ、きっと賑やかな再会になるだろう。
そう思うと、少しだけ胸が温かくなった。
「お父さん……お母さん。
ずっと心配かけてごめんね?
あの日、任務が終わって帰ったら
“キノコのクリームシチューを作ってね”って約束してたのに……
食べられなくて……ごめんね」
「ううっ……いいんだよっ!
そんなことは……!
またこうしてティーナと話せただけで、お母さんはもう……!」
「ようやく……ようやく願いが叶ったよ、ティーナ……
アーロン君とガーノスはな、
ずっとワシたちのために、シキナを探してくれていたんだ。
謝りたい気持ちもあっただろうが……
それ以上に、ワシたちのために探してくれていたことが、
本当に嬉しくてな……同時に、申し訳なくも思っていた。
今年見つからなかったら、
もう探すのはやめてもらおうかと話していたんだ……
だが今年は……
ここにいるこの青年が、見事に探してきてくれた。
そのおかげで……
やっと……やっと……
お前に会えた……!」
「お父さん……お母さん……」
「長話はできねぇらしいから、言うぞ。
ワシたちの娘に生まれてきてくれて、ありがとう、ティーナ。
Sランク冒険者になっても変わらない、
その優しい心を持ったお前を……
ワシたちは、誇りに思っている!」
「私の可愛いティーナ……!
あなたは、私たちの自慢の娘よ。
今までも、これからも……ずっと、ずーっとね!」
「……うん……
ありがとう……お父さん……お母さん……
大好きだよ……!」
アーロンさんとガーノスさんとの時間を終え、
クリスティーナさんは、そっと視線をご両親へ向けた。
最初は気丈に振る舞っていた彼女も、
ご両親の言葉と涙を受けて、ついに大粒の涙を流す。
抱きしめることはできないけど、
彼女は、二人をぎゅっと抱き寄せるような仕草を見せた。
その瞬間――
泣き顔だったご両親の表情が、
涙を浮かべながらも、ゆっくりと笑顔へと変わった。
その光景を見た瞬間、
俺も思わず胸が熱くなり、乱暴に涙を拭った。
一番、彼女に会いたかったのは、きっとご両親だ。
お腹を痛めて産み、
最大限の愛情を注いで育てた、たった一人の娘なのだから。
冒険者という道を選んだ以上、
いつかこういう最期が来るかもしれないと、
頭では分かっていたかもしれない。
それでも――
本当にその日が来るとは、思っていなかったはず。
この場にいる全員が、あの日、あの瞬間から、
暗くて長いトンネルの中を歩いてきたのだと思う。
だけど、今日という日をきっかけに、
それぞれが自分の出口へと向かい、
また前を向いて歩き出せたなら。
クリスティーナさんもきっと、そう望んでいるはずだから。
そして、今日という日は、きっと誰もが忘れない。
来年また会えるかもしれないという希望も生まれた。
明日からの人生を、
ほんの少しでも明るく照らすことができたのなら――
それだけで、俺は十分に嬉しい。
この優しい光景を胸に刻みながら、
俺は、今回シキナに関わってくれた
すべての人たちへ、静かに感謝していた――……
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王城にはスキルのあらゆる可能性を模索し、スキル関係のトラブルを解消するための専門家・スキル研究家という職が存在していた。
しかしちょうど一年前、即位したばかりの国王の「そのようなもの、金がかかるばかりで意味がない」という鶴の一声で、職が消滅。
解雇されたスキル研究家のスレイ(26歳)は、ひょんな事から縁も所縁もない田舎の伯爵領に移住し、忙しく働いた王城時代の給金貯蓄でそれなりに広い庭付きの家を買い、元来からの拾い癖と大雑把な性格が相まって、拾ってきた動物たちを放し飼いにしての共同生活を送っている。
ひっそりと「スキルに関する相談を受け付けるための『スキル相談室』」を開業する傍ら、空いた時間は冒険者ギルドで、住民からの戦闘伴わない依頼――通称:非戦闘系依頼(畑仕事や牧場仕事の手伝い)を受け、スローな日々を謳歌していたスレイ。
しかしそんな穏やかな生活も、ある日拾い癖が高じてついに羊を連れた人間(小さな女の子)を拾った事で、少しずつ様変わりし始める。
スキル階級・底辺<ボトム>のありふれたスキル『召喚士』持ちの女の子・エレンと、彼女に召喚されたただの羊(か弱い非戦闘毛動物)メェ君。
何の変哲もない子たちだけど、実は「動物と会話ができる」という、スキル研究家のスレイでも初めて見る特殊な副効果持ちの少女と、『特性:沼』という、ヘンテコなステータス持ちの羊で……?
「今日は野菜の苗植えをします」
「おー!」
「めぇー!!」
友達を一千万人作る事が目標のエレンと、エレンの事が好きすぎるあまり、人前でもお構いなくつい『沼』の力を使ってしまうメェ君。
そんな一人と一匹を、スキル研究家としても保護者としても、スローライフを通して褒めて伸ばして導いていく。
子育て成長、お仕事ストーリー。
ここに爆誕!
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