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第105話 全てを悔いて、謝罪の言葉を
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ケルベロスの名前を考えていた時、一番悩んだこと。
それは――個々に名前を付けてあげるかどうかだった。
総称で呼べば、それで問題はないと思う。
だけど、それぞれにははっきりとした性格がある。
だったらやっぱり、三つの頭それぞれに名前があった方が分かりやすいんじゃないかと考えた。
頭が三つなんて、まるで分身の術みたいだ。
それなら、日本寄りの名前にするのも悪くない。
そう決めた俺は、イメージでパッと浮かんだ名前をそれぞれに当てはめ、ケルベロスに声をかけた。
「決めたよー。じゃあ、従魔契約するから、ちょっと待ってね」
「承知しました」
「……我が眷属となりし者よ、この名を与える――
総称名、三影(ミカゲ)。
そして、左の君は涙(ルイ)、真ん中の君は律(リツ)、右の君は烈(レツ)だ」
「えっ……私たち全員に、名を?」
「ああ。
呼ぶ時は基本的に“ミカゲ”って呼ぶと思うけど、皆、性格が違うだろう?
だったら、それぞれ名前があった方がいいかなって思ってさ。
……嫌だった?」
「と、とんでもございません!」
従魔契約が無事に終わると、三つの頭が同時に深く頭を下げた。
その姿は、自分たち一人ひとりに名前が与えられたことを、心から喜んでいるように見えた。
「私たち……名前を……
私は、リツ……ですか……」
「僕……ルイって名前なんだ……!
なんか、僕っぽい気がする!」
「俺はレツか……
何だか、カッコいいかも?」
まさか自分たちそれぞれに名前が付くとは思っていなかったのだろう。
三つの頭は、それはもう嬉しそうだった。
その姿を見て、名付けた俺の方まで頬が緩んでしまう。
今回の名付けは、かなり日本寄りだ。
三つの頭から分身の術をイメージして「三影」。
そこから性格に合わせて漢字を選んだ。
ルイは泣き虫だから「涙」。
リツは真面目で規律を重んじるから「律」。
レツは烈火のように感情が爆発しそうだから「烈」。
……まあ、分かりやすいと言えば分かりやすい。
でも、俺は結構気に入っていた。
「主、皆の名前、カッコいいな!」
「本当? 嬉しいなぁ。
これはね、俺の国の言葉から取ったんだよ」
名付けの様子を見ていたクロたちも、ミカゲの名前を気に入ってくれたようだった。
由来を説明すると「ピッタリだね」と笑ってくれて、それがまた嬉しい。
苦手だった名付けも、少しずつだけど、前より早く決められるようになってきた気がする。
ひとまず、これでミカゲが暴走する心配はなくなった。
あとは、ダークエルフたちにきちんと報告をしなければならない。
……とはいえ、まずは朝食の準備だな!
なんて、のんきなことを考えていた――
◇
「さてと、待ち合わせ場所に戻ろうか。
ミカゲは怖がられるだろうから、小さくなってロウキの背中に乗ってる?」
「そ、そんな……ロウキ様の背中に乗るなど……」
「僕、乗りたい!」
「あ? ダメだっつってんだろうが!」
「やかましい!
さっさと小さくなって背中に乗っていろ、鬱陶しい!」
「あはは。ロウキもそう言ってるし、背中に乗ってな?
魔力操作?か何かで小さくも大きくもなれるみたいだから、やってごらん?」
「は、はいっ……」
ダークエルフとの待ち合わせ場所へ向かう途中、
さすがにこの大きさのまま連れて歩くのは、相手を怖がらせてしまうと思い、小さくなるように頼んだ。
すると、大きく首を横に振ったのはリツとレツ。
一方、ルイだけは目を輝かせて「ロウキの背中に乗りたい!」と言い出し、即座にロウキに怒られていた。
……思わず、笑ってしまう。
まだほんの少ししか時間は経っていないけれど、
それでも「ちゃんと一緒に過ごしていけそうだな」と感じられた。
ミカゲがロウキの背中に乗ったのを確認し、俺たちは再び歩き出す。
思っていたよりも道のりは短かった。
ミカゲが広場への近道を教えてくれたおかげで、あっという間に目的地が見えてくる。
ここからが本番だ。
きちんと説明して、ミカゲにも謝罪をさせて、どうにか和解の方向へ持っていかなければならない。
そう思うと、少し緊張してしまう。
……こういう時、本当に話し上手な人に憧れるなぁ。
なんて考えている間に到着してしまい、
俺たちの帰りを待っていたダークエルフたちが、すぐに出迎えてくれた。
……もしかして、ずっとここで待ってた?
真面目すぎるだろ……
「魔王様。無事にご帰還され、安心いたしました。
それで……あの……どう、でしたか?」
「ああ……皆に聞いてほしいんだけど。
ケルベロスは、俺の従魔になった」
「え?」
「従魔?!」
「なんと……」
開口一番「従魔にした」と伝えると、
ダークエルフたちは、これでもかというほど目を見開いて驚いた。
そんな彼らに、昨日あった出来事を一から説明する。
理解は、すぐには出来ないかもしれない。
でも、黙っているよりは、きちんと話しておいた方がいい。
そう思って話し終えると、予想通り、彼らは複雑な表情で俯いた。
……まあ、仕方がないよな。
「魔王様、私たちからも謝罪をさせていただきたいです」
「ああ、そうだな。こっちにおいで」
「はい」
俺が説明したあと、ロウキの背中に乗っていたミカゲが「謝りたい」と申し出たので、背中から降りてもらい、俺の側へ来てもらった。
その時のダークエルフたちの顔――
笑ってはいけないのだが、正直、思わず笑いそうになってしまった。
「え……と?
魔王様、こちらの小さな三つ頭の生き物が……ケルベロス、なのでしょうか?」
「我々が見たのは、もっとこう……
フェンリル様ほどの大きさだったのですが……」
「まさか、子がいたのですか?!」
ロウキの背中に乗れるほどのサイズになっているミカゲ。
それを目にした瞬間、彼らは「自分たちが恐怖に怯えていた存在が、こんなにも小さな姿だったのか」と、驚愕している様子だった。
「この子が、例のケルベロスだよ。
俺と従魔契約をしたことで、体の大きさを自由に変えられるようになったんだ。
……もう、怖くもなんともないだろう?」
「魔王様と契約を交わすと、そのようなことまで可能になるのですか?!」
「そうだ。さあ、ミカゲ。自分の気持ちを話してごらん」
「はい、魔王様」
従魔契約について説明すると、彼らは再び目を見開いていた。
今日は驚いた表情ばかり見ている気がするな、なんて思いながら、ミカゲに場を譲る。
上手く話せなくてもいい。
大切なのは、ちゃんと自分の気持ちを伝えることだ。
「……皆さま。
この度は、私たちが誓いの呪いに囚われ、この森で引き起こした多大なる破壊、そして多くの犠牲に対し、心よりお詫び申し上げます。
自分たちの弱さゆえに、あなた方を一年もの間、恐怖に怯えさせてしまいました。
本当に、申し訳ございません」
「俺たちの罪は、いかなる罰をもってしても償いきれるものではないと、自覚している……。本当に、申し訳なかった……」
「……僕たちのしたことは、皆さんにとって、恐怖以外の何ものでもなかったと思います……。本当にごめんなさい。
許してほしいとは言いません……
ただ、僕たちに、これから魔王様のもとで暮らし、御身をお護りすることをお許しください。必ず、護り抜いてみせますから……」
代表してリツだけが謝罪するのかと思っていたけど、レツもルイも、それぞれ自分なりの言葉で謝罪を述べ、三つの頭は揃って深く頭を下げた。
そこには、かつての凶暴な面影はない。
ただ、過去を悔い、失われた命へと向けられた懺悔の想いだけがあった。
その謝罪を、ダークエルフの三人は、誰一人として口を挟まず、黙って聞いていた。
やがて、そのうちの一人が、小さくなったミカゲへ、そっと手を差し伸べた。
「貴方が行ったことは、決して許されるものではありません。
しかし、貴方もまた、辛く悲しい過去を背負い、その孤独と絶望が、貴方を狂気へと駆り立てたことも理解できます。
貴方が行った森の生命への破壊、そして奪われた我々や人間の命の重さは、従魔契約を結んだからといって、決して帳消しになるものではありません。
ですが――
もし、本当に許しを得たいと願うのであれば。
これから先、この世界と、貴方に名を与えてくださった魔王様のために、命を懸けて償い続けなさい。
それを、私たち、そして失われた命への謝罪として受け取ります。
その忠誠を……その誓いを、決して忘れないでください」
ダークエルフの彼女は、まるでシスターや聖女のような言葉を、ミカゲに向けて紡いでくれた。
きっと、言いたいことや、責め立てたい想いも、たくさんあったはずだ。
それでも毅然とした態度で向き合ってくれたことに、俺は心から感謝した。
これで、彼女たちは安心して暮らしていけるだろう。
対処できないほどの恐怖に怯える日々は終わり、その安堵が、彼女たちの表情からはっきりと伝わってきた。
まさか、こんな結末になるとは思っていなかったけど……
結果的には、皆を救えたことになるのかもしれない。
失われた命を蘇らせてやれないことが、悔しくて仕方がない。
それでも――
あの騎士だけでも、家へ帰してやれると思うと、
俺自身も、ほんの少し救われた気がしていた――……
それは――個々に名前を付けてあげるかどうかだった。
総称で呼べば、それで問題はないと思う。
だけど、それぞれにははっきりとした性格がある。
だったらやっぱり、三つの頭それぞれに名前があった方が分かりやすいんじゃないかと考えた。
頭が三つなんて、まるで分身の術みたいだ。
それなら、日本寄りの名前にするのも悪くない。
そう決めた俺は、イメージでパッと浮かんだ名前をそれぞれに当てはめ、ケルベロスに声をかけた。
「決めたよー。じゃあ、従魔契約するから、ちょっと待ってね」
「承知しました」
「……我が眷属となりし者よ、この名を与える――
総称名、三影(ミカゲ)。
そして、左の君は涙(ルイ)、真ん中の君は律(リツ)、右の君は烈(レツ)だ」
「えっ……私たち全員に、名を?」
「ああ。
呼ぶ時は基本的に“ミカゲ”って呼ぶと思うけど、皆、性格が違うだろう?
だったら、それぞれ名前があった方がいいかなって思ってさ。
……嫌だった?」
「と、とんでもございません!」
従魔契約が無事に終わると、三つの頭が同時に深く頭を下げた。
その姿は、自分たち一人ひとりに名前が与えられたことを、心から喜んでいるように見えた。
「私たち……名前を……
私は、リツ……ですか……」
「僕……ルイって名前なんだ……!
なんか、僕っぽい気がする!」
「俺はレツか……
何だか、カッコいいかも?」
まさか自分たちそれぞれに名前が付くとは思っていなかったのだろう。
三つの頭は、それはもう嬉しそうだった。
その姿を見て、名付けた俺の方まで頬が緩んでしまう。
今回の名付けは、かなり日本寄りだ。
三つの頭から分身の術をイメージして「三影」。
そこから性格に合わせて漢字を選んだ。
ルイは泣き虫だから「涙」。
リツは真面目で規律を重んじるから「律」。
レツは烈火のように感情が爆発しそうだから「烈」。
……まあ、分かりやすいと言えば分かりやすい。
でも、俺は結構気に入っていた。
「主、皆の名前、カッコいいな!」
「本当? 嬉しいなぁ。
これはね、俺の国の言葉から取ったんだよ」
名付けの様子を見ていたクロたちも、ミカゲの名前を気に入ってくれたようだった。
由来を説明すると「ピッタリだね」と笑ってくれて、それがまた嬉しい。
苦手だった名付けも、少しずつだけど、前より早く決められるようになってきた気がする。
ひとまず、これでミカゲが暴走する心配はなくなった。
あとは、ダークエルフたちにきちんと報告をしなければならない。
……とはいえ、まずは朝食の準備だな!
なんて、のんきなことを考えていた――
◇
「さてと、待ち合わせ場所に戻ろうか。
ミカゲは怖がられるだろうから、小さくなってロウキの背中に乗ってる?」
「そ、そんな……ロウキ様の背中に乗るなど……」
「僕、乗りたい!」
「あ? ダメだっつってんだろうが!」
「やかましい!
さっさと小さくなって背中に乗っていろ、鬱陶しい!」
「あはは。ロウキもそう言ってるし、背中に乗ってな?
魔力操作?か何かで小さくも大きくもなれるみたいだから、やってごらん?」
「は、はいっ……」
ダークエルフとの待ち合わせ場所へ向かう途中、
さすがにこの大きさのまま連れて歩くのは、相手を怖がらせてしまうと思い、小さくなるように頼んだ。
すると、大きく首を横に振ったのはリツとレツ。
一方、ルイだけは目を輝かせて「ロウキの背中に乗りたい!」と言い出し、即座にロウキに怒られていた。
……思わず、笑ってしまう。
まだほんの少ししか時間は経っていないけれど、
それでも「ちゃんと一緒に過ごしていけそうだな」と感じられた。
ミカゲがロウキの背中に乗ったのを確認し、俺たちは再び歩き出す。
思っていたよりも道のりは短かった。
ミカゲが広場への近道を教えてくれたおかげで、あっという間に目的地が見えてくる。
ここからが本番だ。
きちんと説明して、ミカゲにも謝罪をさせて、どうにか和解の方向へ持っていかなければならない。
そう思うと、少し緊張してしまう。
……こういう時、本当に話し上手な人に憧れるなぁ。
なんて考えている間に到着してしまい、
俺たちの帰りを待っていたダークエルフたちが、すぐに出迎えてくれた。
……もしかして、ずっとここで待ってた?
真面目すぎるだろ……
「魔王様。無事にご帰還され、安心いたしました。
それで……あの……どう、でしたか?」
「ああ……皆に聞いてほしいんだけど。
ケルベロスは、俺の従魔になった」
「え?」
「従魔?!」
「なんと……」
開口一番「従魔にした」と伝えると、
ダークエルフたちは、これでもかというほど目を見開いて驚いた。
そんな彼らに、昨日あった出来事を一から説明する。
理解は、すぐには出来ないかもしれない。
でも、黙っているよりは、きちんと話しておいた方がいい。
そう思って話し終えると、予想通り、彼らは複雑な表情で俯いた。
……まあ、仕方がないよな。
「魔王様、私たちからも謝罪をさせていただきたいです」
「ああ、そうだな。こっちにおいで」
「はい」
俺が説明したあと、ロウキの背中に乗っていたミカゲが「謝りたい」と申し出たので、背中から降りてもらい、俺の側へ来てもらった。
その時のダークエルフたちの顔――
笑ってはいけないのだが、正直、思わず笑いそうになってしまった。
「え……と?
魔王様、こちらの小さな三つ頭の生き物が……ケルベロス、なのでしょうか?」
「我々が見たのは、もっとこう……
フェンリル様ほどの大きさだったのですが……」
「まさか、子がいたのですか?!」
ロウキの背中に乗れるほどのサイズになっているミカゲ。
それを目にした瞬間、彼らは「自分たちが恐怖に怯えていた存在が、こんなにも小さな姿だったのか」と、驚愕している様子だった。
「この子が、例のケルベロスだよ。
俺と従魔契約をしたことで、体の大きさを自由に変えられるようになったんだ。
……もう、怖くもなんともないだろう?」
「魔王様と契約を交わすと、そのようなことまで可能になるのですか?!」
「そうだ。さあ、ミカゲ。自分の気持ちを話してごらん」
「はい、魔王様」
従魔契約について説明すると、彼らは再び目を見開いていた。
今日は驚いた表情ばかり見ている気がするな、なんて思いながら、ミカゲに場を譲る。
上手く話せなくてもいい。
大切なのは、ちゃんと自分の気持ちを伝えることだ。
「……皆さま。
この度は、私たちが誓いの呪いに囚われ、この森で引き起こした多大なる破壊、そして多くの犠牲に対し、心よりお詫び申し上げます。
自分たちの弱さゆえに、あなた方を一年もの間、恐怖に怯えさせてしまいました。
本当に、申し訳ございません」
「俺たちの罪は、いかなる罰をもってしても償いきれるものではないと、自覚している……。本当に、申し訳なかった……」
「……僕たちのしたことは、皆さんにとって、恐怖以外の何ものでもなかったと思います……。本当にごめんなさい。
許してほしいとは言いません……
ただ、僕たちに、これから魔王様のもとで暮らし、御身をお護りすることをお許しください。必ず、護り抜いてみせますから……」
代表してリツだけが謝罪するのかと思っていたけど、レツもルイも、それぞれ自分なりの言葉で謝罪を述べ、三つの頭は揃って深く頭を下げた。
そこには、かつての凶暴な面影はない。
ただ、過去を悔い、失われた命へと向けられた懺悔の想いだけがあった。
その謝罪を、ダークエルフの三人は、誰一人として口を挟まず、黙って聞いていた。
やがて、そのうちの一人が、小さくなったミカゲへ、そっと手を差し伸べた。
「貴方が行ったことは、決して許されるものではありません。
しかし、貴方もまた、辛く悲しい過去を背負い、その孤独と絶望が、貴方を狂気へと駆り立てたことも理解できます。
貴方が行った森の生命への破壊、そして奪われた我々や人間の命の重さは、従魔契約を結んだからといって、決して帳消しになるものではありません。
ですが――
もし、本当に許しを得たいと願うのであれば。
これから先、この世界と、貴方に名を与えてくださった魔王様のために、命を懸けて償い続けなさい。
それを、私たち、そして失われた命への謝罪として受け取ります。
その忠誠を……その誓いを、決して忘れないでください」
ダークエルフの彼女は、まるでシスターや聖女のような言葉を、ミカゲに向けて紡いでくれた。
きっと、言いたいことや、責め立てたい想いも、たくさんあったはずだ。
それでも毅然とした態度で向き合ってくれたことに、俺は心から感謝した。
これで、彼女たちは安心して暮らしていけるだろう。
対処できないほどの恐怖に怯える日々は終わり、その安堵が、彼女たちの表情からはっきりと伝わってきた。
まさか、こんな結末になるとは思っていなかったけど……
結果的には、皆を救えたことになるのかもしれない。
失われた命を蘇らせてやれないことが、悔しくて仕方がない。
それでも――
あの騎士だけでも、家へ帰してやれると思うと、
俺自身も、ほんの少し救われた気がしていた――……
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