従魔と異世界スローライフのはずが、魔王と噂されていく日々

ソラリアル

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第109話 禁術と、久しぶりの再会

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魔物や魔獣に関する図鑑らしき本を数冊見つけた俺は、先ほど新聞が置かれていた場所へと戻った。
分厚い本をドサッと机に置き、ひとまず席につく。
クロが戻ってくるのを待ちながら、パラパラとページをめくり始めた。

そこには、俺の知らない魔物や魔獣がイラスト付きで数多く掲載されている。
中には思わず「可愛いなぁ」と感じてしまう生き物もいて、この世界の広さを改めて実感させられた。


「うちの子たちの説明も色々あるけど……良いこと、何にも書いてないな……」


ページを進めていくと、案の定ロウキたちについての記述も見つかった。
そこに並ぶのは、

――世界を終わらせることができる魔獣
――魂を吸い取る恐ろしい存在

など、本当に散々な書かれ方ばかりだ。
唯一、ラピスたちスライムに関してだけは
「薬の原材料になる」「特殊能力を持つ個体が存在する」
と、比較的穏やかな内容が書かれていたけど……


「“いい子だ”って書き加えてやりたいな……」


そう思わずにはいられないほど、嫌な表現ばかりが並んでいた。
だけど、この世界での一般的な認識は、きっとこれが普通なのだろう。
怖くて当然。危険で当然。近づかないのが正解。

……分かってはいるけど。
俺はどうしても、手を伸ばしてしまうんだよなぁ。
そんなことを一人で考えていると、クロが一冊の本を抱えて飛んできた。


「主、これ見てみようぜ」

「なになに……えーっと……
“危険な魔術について”?
この本に書かれているのは、世界に存在する危険な魔術の内容です……
全て禁忌の書に記され、各国の管理下に置かれている……って。
なにこれ、怖いんだけど!」

「絶対これに何か載ってるって!
主とロウキが見たステータスに、“獣化”って書いてあったんだろ?
それ、普通じゃないから!」

「……確かにな。ちょっと見てみるか」


クロが持ってきた本は、目次を読むだけで背筋が寒くなる内容だった。
だけど、ここに手がかりがあるかもしれないと思い、恐る恐るページをめくっていく。

本の中には“禁術”と呼ばれる魔術が数多く記されていた。
詳しい手順はもちろん書かれていないけど、

――高位の悪魔を呼び出す方法
――人を呪い、殺める方法

など、目を疑うようなものばかりだ。


「あ、主! これ見て!」

「ん? どれ?」

「ここ!
“自身の命と引き換えに行う禁忌術”ってやつ!」

「……うわ……」


クロが指差したページに目を落とし、思わず声が漏れた。
そこに書かれていた禁術は、
対象を獣化させると同時に、異空間や他国など別の場所へ転移させる魔術。

成功率は100%。
その理由は、術者自身の命と引き換えに発動するからだという。

さらに、獣化させられた者は人間の言葉を失い、
誰にも気づかれることなく、その一生を終える――
数ある禁術の中でも、成功率100%というのは明らかに異常だった。

つまり、あの巨大魚は――
誰かの命と引き換えに、獣化させられた存在である可能性が極めて高い。


「主……絶対これだよな?」

「俺もそう思う。でも……解呪方法、書いてないんだな」

「禁忌の魔術だからなー。
どれも基本、“やりっぱなし”なんじゃないの?」

「あー……確かに。
でもまずいよな。あの巨大魚、絶対に人間じゃない?」

「俺もそう思う! マズイなぁ……」


湖にいる巨大魚は、元は人間で、呪いによって変えられた存在。
その認識で、俺たちの考えは一致した。
だけど、肝心の解呪の方法が見つからず、頭を抱えるしかなかった。
このままでは、巨大魚は一生あの姿のまま。

そんな状態で、俺の領地の湖を泳がせておくのは……
気持ち悪いし、何より申し訳ない。
どうすればいいのか――

そう思い悩んでいると、エマが静かに声をかけてきた。

【マスターの極度の悩みの感情を感知しました。
解決方法を検索します……
エトワール教会でお祈りをしてみてはいかがでしょうか。
覚えていますか?女神アイリスの存在を。
教会で祈れば会えると、教えられませんでしたか?】

「あ! そうだ。そんなこと言われてたな。
ちょっと行ってみようか。
クロは浄化されないように、席で待っててくれよ?」

「あはは、相変わらず心配性だなぁ主は!分かったよ!」


俺の感情を感知して動いてくれたエマの助言を受け、
俺たちは本を元の棚に戻し、すぐにエトワール教会へ向かった。

そういえば、この世界に来てから、女神アイリスに一度も挨拶していない。
……さすがに怒っているかもしれない。

そんな不安を抱えつつ教会へ入ると、時間帯のせいか中は誰もいなくて、静寂に包まれていた。
ダニエル神父に「個人的に祈りたい」と伝えると、小礼拝堂を使うよう勧められ、すぐに案内してもらえた。


「ここが……小礼拝堂か。初めて来たな……
えーっと……?
この像、なんだか女神アイリスに似てる気がするけど……
ここで祈ればいいのかな?」


中は、本当に祈りのためだけに設けられた小さな部屋だった。
正面には、静かに佇む女神の像。

その顔立ちは、最初に会った女神アイリスとどこか重なって見え、胸が少しざわつく。

俺は両手を組み、目を閉じて、静かに祈りを捧げた――


「久しぶりですね、ヨシヒロ。」

「……あ、女神様!お、お久しぶりです……」


祈りを捧げた直後、頭上から女性の声が響いた。
目を開けると、そこは死後、最初に連れてこられた白い空間だった。

顔を上げると、女神アイリスが変わらぬ優しい微笑みを浮かべて立っていた。


「私の存在、忘れられてしまったのかと思いましたよ?」

「す、すみません……なんというか、タイミングを逃したというか……
正直、忘れてました」

「ふふ。正直ですね。
それで、今日はどうされたのですか?
私に聞きたいことがあったのでしょう?」


女神アイリスは少しからかうように笑い、首を傾げてこちらを見つめる。
俺は、今起きている出来事を一通り話した。

話を聞き終えた彼女は、深くため息をつき、静かに口を開いた。


「ヨシヒロが思っているよりも、頻繁に起こっているのです。
術者の死を犠牲にして呪いをかける――そういった行為は」

「……」

「獣化の呪いは、命を代償としているがゆえに、この世の通常の治癒魔法では解くことができません。
それが“禁忌の魔術”なのです。」

「……やっぱり、そうなんですね……」


解呪方法を教えてもらえるかもしれない。
そんな淡い期待は、あっさりと打ち砕かれた。

命を代償にした禁術は、解けない。
その事実に、胸ギュッと締め付けられて苦しくなる。

どうして、あの人は獣化させられたのだろう。
よほど大きな過ちを犯したのか。
それとも、誰かの邪な感情に利用されただけなのか――

考え込む俺に、女神アイリスは続けた。


「私がこの世界にあなたを転生させた理由、覚えていますか?」

「……命を救ってほしい、ですよね」

「ええ。
救うことを諦められた命、その命を救ってほしい。
それが、私の願いです」


俺は、思わず視線を逸らした。


「そうは言っても……相手は、解呪不可能な禁術をかけられた人ですよ?
それに正直、その人を救うことで、何か大きなトラブルに巻き込まれるんじゃないかって……怖いんです」

「……」

「今までは魔物や魔獣で、たまたま従魔たちが良い心を持っていたから上手くいった。
でも、今度は人間ですよね。
絶対に、ヤバい何かが隠されている」

「……」

「そこに首を突っ込んで、今の安寧が脅かされるのは……正直、嫌なんです。
最低なのは分かってますけど……」


本音だった。
自分でも情けないと思うくらい、正直な気持ち。
女神アイリスは少しだけ目を伏せ、やがて穏やかな声で言った。


「……そうでしょうね。
ですが、私はあなたなら、きっとこの世の常識を壊してくれる。
そう信じて、この世界に送り出したのです」

「……そんなふうに思ってもらえるのは、嬉しいですけど……」


彼女は、改めて俺をこの世界へ送り出した理由を語った。
「あなたなら常識を壊せる」と信じて。
その言葉に、嬉しさと迷惑さが入り混じり、心の中がぐちゃぐちゃになる。

最初に言われたのは、「動物たちに囲まれた生活」だったはず。
それなのに、気づけば次から次へとトラブルに巻き込まれている。

嫌ではない。
結果的に、皆を救えてきたから。

でも、人間が相手となれば話は別だ。
巨大魚を助けただけで終わるはずがない。
そう考えると、自分のキャパを完全に超えている気がして、良い未来が見えなかった。


「あなたが、この世界でのんびりとした生活を望んでいることは分かっています」

「……」

「ですが、広輔……いえ、国王アーロンとあなたには、命を救う力が備わっている。
あなた方を巻き込んでしまっていることは、多少は申し訳なく思っていますが……」

「多少かよ!」

「ふふっ。
この世界には、救える命、そして救わなければならない命が数多くあります。
ですが、我々天界の者には、手を出せないのです」

「……」

「だからこそ、転生者を選び出している。
それが、事実です」

「いやいや……巻き込むなよ……」


俺の望む生活を理解していると言いながら、
結局、天界の者が手を出せない領域を、転生者に託している。
その現実を突きつけられ、複雑な気持ちになった。

確かに、この世界に送り出してもらったおかげで、第二の人生を歩めている。
クロやロウキたちと出会えた時間は、かけがえのないものだ。

だけど――
アーロンさんは国を任されている。
責任が重すぎるし、下手をすれば滅びに繋がる可能性だってある。

それなのに、平然と送り出せるなんて……

神様や女神様って、やっぱり無責任だよなぁ……
そんなことを思わずにはいられなかった――……
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