従魔と異世界スローライフのはずが、魔王と噂されていく日々

ソラリアル

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第110話 女神の願いは重すぎる

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「ヨシヒロ。身勝手なお願いをしている自覚はあります。
ですが、どうか……どうか沢山の命をお救いください……」

「俺に何が出来るっていうんですか……
ロウキたちがいなければ、何もできない男ですよ?」

「あなたには Angelic Hand があります」

「いや、あれは魔物や魔獣のために使う力でしょう?」

「禁忌の書に記されている術の呪いを解くためには、
命を代償とするという究極の力を、無限の命の力で上書きしなければなりません。
ヨシヒロが持つ無限の魔力を源とし、Angelic Hand を最大限に発動することで、
もしかすると……解呪できるかもしれないのです。
Angelic Hand は、生きとし生けるものすべての命を癒し、救う力を持つ。
そうお伝えしましたね?
その力を今、人間のために使っていただけないでしょうか?」

「……少し、考えさせてください。また報告に来ます」

「ありがとう、ヨシヒロ」


女神アイリスからとんでもないお願いをされた俺は、すぐに「YES」と答えることができなかった。
俺が望んでいた、のんびりとした生活が崩れるのは嫌だ。

それ以上に嫌なのは、よく読んでいた転生ものの物語のように、
勇者だの救世主だのとして扱われることだった。

普通に考えて、転生して力を持つ勇者や聖女、
世界を救う“ジョブ持ちヒーロー”のポジションに、自分が立てるはずがない。
正直、魔力は無限でも、その力を自在に扱えるほど強いわけじゃない。
どうやって誰かを救うんだ、という話だ……


「主、女神さま、何だって?」

「えー……それがさぁ……」


小礼拝堂を出て、頭の中でぐるぐる考え事をしていると、
外で待っていたクロが、興味津々といった様子で聞いてきた。

事情を説明すると、クロは急に目の色を変え、
俺の肩に飛び乗って、嬉しそうに言う。


「やっぱり俺の主はすげぇなぁ!
女神さまに頼られるなんて!」

「いや、でも俺には敵を倒す力とか、国を動かす力なんてないじゃん?」

「そう思ってるのは主だけだよー。
主はちゃんと力を持ってるんだから!
やりたくないから、発揮できてないだけだよ!」

「うっ……」

「だって、今までだって一緒に魔物退治できてたじゃん!
それに、みんなを主の手が救ってきたのは何?
あれ、嘘じゃないだろ?」

「まぁ……そうなんだろうけど……」

「主は、自分が思ってるよりずっと凄いし、
周りの人を幸せにしてるんだよ!
悪魔の俺が言うんだから、間違いないって!」

「あはは……何だそれ。……でも、ありがとな、クロ」


とんでもなくマイナスな感情に沈んでいた俺に、
クロはとことん甘やかすような言葉をくれた。

悪魔に元気づけられるなんて、きっと俺くらいだろう。
そもそも、ここまで悪魔に好かれているのも、俺くらいな気がする。

……だけど、それとこれとは話が別だ。
それでも、クロの言葉が少しだけ心を軽くしてくれたのも事実だった。


「はぁ……どうするかなぁ」

「主、助けないの?」

「んー……
どっちにしても、救う以外の選択肢はないんだろうな……
でも Angelic Hand はなぁ……不確実すぎる。
相手は人間だし、女神さまも“解呪できるかもしれない”って言い方だったし……」

「じゃあさ、直接話しかけてみたら? あの巨大魚に」

「ええ?でも、言葉を失ってるって書いてなかった?」

「そこはほら、魚語を覚えるとか?」

「無理だって! クロこそどうなんだよ?魚語とか分かんないの?」

「俺は人間語と悪魔語だけだよー」

「俺なんて人間語だけ……」

「ダメだなぁ!」

「ですよねぇー……」


本当は、今すぐにでも手を引きたかった。
だけど、クロに「助けないの?」と聞かれた俺は、
そこで首を縦に振ることができなかった。

だから俺たちは、
「どうにかできないか」と互いに責任をなすりつけ合い、
結局、そろって撃沈した。

この世で魚の言葉を理解できる存在なんて、
人魚とか、よほど特殊な種族くらいじゃないのか?

そんなことを考えながらも、
他に方法はないかと、必死に頭をひねる。

――その時、ふと「あっくん」の存在を思い出した。

アクアベアである、あっくんなら。
水に関わる生き物の言葉を、理解できるんじゃないか……!?


「クロ、あっくんなら分かんないかな?」

「ああ! アクアベアだからか?
でも今、知能はめっちゃ子供だけど、分かるかなぁ?」

「確かに……でも湖の水、かき分けてたじゃん。
あれが出来るなら、いけそうじゃない?」

「うーん……そうかも!」

「よし、じゃあ一度戻って、あっくん連れて湖に行ってみるか!」

「そうしようぜー!」


俺たちの予想が当たれば、あっくんはあの巨大魚と話ができるはずだ。
そうなれば、何がどうしてあんな姿になったのか、その理由も分かるだろう。

答えを知ってから、これからどうするかを考えればいい。
そう思いながら、俺はクロと共にゲートへと向かった。

ゲートをくぐると、モモたちと楽しそうに遊んでいるあっくんの姿が目に入る。
俺はすぐに声をかけ、魚と会話ができるのか確かめてみることにした。


「あっくんは、お魚さんとお話できる?」

「できるよー。だって、あっくんはアクアベアだから」

「じゃあ、さっきの大きなお魚さんともお喋りできるかな?」

「んー……分かんない!
でも、パーパがやってって言うなら、やってみる!」

「本当? じゃあ、ちょっと一回やってみない?」

「いいよー!」


あっくんに尋ねると、驚くほどあっさりと頷いてくれた。
あの巨大魚は獣化した人間だ。
実際に会話が成立するかどうかは、正直分からない。

それでも、あっくんのやる気が冷めないうちに、
皆で湖へ向かうことにした。

ただ、ここで一つ問題がある。
――どうやって、あの巨大魚を呼び出すか、だ。


「ロウキ、どうにかしてよ。」

「どうにかって、お前なぁ……
あっくんにやってもらえばよかろう。呼んでもらえ」

「あ、あっくん!」

「任せてー!」


こういう時はロウキに頼めば何とかしてくれると思ったけど、
どうやら専門外だったらしく、あっさり断られてしまった。

そこであっくんに頼むと、「任せて!」と元気よく返事をし、
バシャンッ! と勢いよく湖に顔を突っ込んだ。

だ、大胆すぎる……

そう思っている間にも、あっくんは何か言葉を発しているようで、
顔の周りに泡がブクブクと浮かび上がっていく。

やがて呼びかけが終わったのか、
あっくんは湖から顔を出し、ブルブルッと頭を振って水を払った。

俺は慌ててタオルであっくんの顔を拭き、
そのまま湖へと視線を移す。

――本当に、あの巨大魚は応えてくれるのだろうか。

そう思いながら待っていたが、なかなか姿は現れない。

……やっぱり、ダメだったか。

元人間だから、魚に語りかける言葉の意味が分からないのかもしれない。
良い案だと思ったんだけどな……

そうため息をついた、その時だった。

少し離れた水面が揺れ、
黒く、大きな影がゆっくりと浮かび上がってくる。

――間違いない。巨大魚だ。

皆の視線が、一斉にその影へと集中する。
もし言葉が通じるのなら、まずは、どうしてこんな姿になったのかを聞かなければならない。
そして、その内容次第では、アーロンさんに報告する案件になるだろうな。

……そうなったら、正直嫌だなぁ。

そんな不安を胸に抱えながら、
俺は巨大魚がこちらに姿を現す瞬間を、息を詰めて待っていた。
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