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第1章
そしてRINAになる
正直、酒に酔っていた。
あと、イったばっかりで判断力が鈍っていたせいもある。
KYOの生配信を堪能した翌日の午後七時。私はある場所へと呼び出されていた。
KYO本人に。
ありえない。信じられない。何度頬をつねってみても痛覚は現実のものだった。
昨晩、KYOにDMを送った。後先も考えず。
DMを送るにあたり、アイコンやプロフィールを設定する必要もあって、やや手こずってしまったが、日付が変わる前には送信完了していたと思う。
なるべく身バレしないようユーザーネームは「RINA」にしておいた。アイコン選びは躊躇したが、カメラロールにちょうど撮ったばかりの可愛い猫ちゃんの落書きを見つけて、それにした。叶くんが描いてくれたそれだ。
どうせ彼の受信箱にはパンクするくらい大量のDMが来るのだろうし、私のメッセージなんて目に留まることもないかもしれない。
そう思って、お酒のせいで気が大きくなっていたこともあり、メンヘラ彼女もびっくりな長文をしたためた熱烈ラブコールを送ってしまった。
まさか返信が来るなんて聞いてない。
「で、着いてしまった……」
呼び出されたのは高層マンションの高層階にある一室。
てっきりラブホとかシティホテルとかに呼び出されるものだと思っていたのに、そうではなかった。駅の近くには繁華街もあったが、その喧騒が届かないくらいには閑静な住宅街の、新築分譲の都心のマンション。配信者ってそんなに儲かるんだろうか。
エントランスのロックを開けてもらったあと、迷路みたいなフロアをぐるぐる歩きまわって、ようやくDMに書かれていた部屋番号に辿り着く。
重厚な玄関扉を見つめたまま静かに深呼吸を繰り返し、覚悟を決めてインターホンを押した。
しばらくして重厚な扉がゆっくりと開かれ、中から現れた影と匂いに息を呑んだ。
「……KYO……!」
ほんものだ。ふわっとセンター分けになった黒髪、甘い目元、泣きぼくろ。
顔の下半分は黒マスクに覆われているが、醸し出す雰囲気は画面の中と変わらない、どころか一層セクシーで。
年頃は二十代前半くらいだろうか。画面越しではそこまで分からなかったが、直面した彼の肌の張りを見るに、想像よりも若いような気がする。
彼は上半身に衣服を纏っておらず、下はゆるっとした灰色のスウェット姿だった。
甘く涼しげな切れ長の瞳が静かに私を見下ろしている。
最初に惹かれた薄灰色の瞳は、日本人には珍しい色のように思う。その虹彩には水晶玉みたいな深みがあって、動画で見るよりももっとずっと神秘的。コンタクトなのかもしれないけれど、それを問うにはまだ早い。私は口を開けたまま彼を見つめ返していた。
ほんもののKYOだ。
ふわりと甘く香るエキゾチックな匂いが鼻腔をくすぐり、一度に受け取る視覚と嗅覚が許容量を超え、目眩すら覚える。
「……どうぞ」
低く、少し掠れた声が私を部屋の中への招き入れる。
初めて聞いたKYOの生声に、知らず耳の後ろにそわそわとした感覚が走った。彼は生配信でも吐息しかこぼさないから、言葉の乗った声を聞いたのはこれが初めてだった。
「お、おじゃまします……」
挨拶もままならないまま、私は彼のテリトリーへと吸い込まれる。
ひんやりした大理石みたいな廊下。その一番奥にダイニングルームが見えたが、手前のベッドルームへと通された。
あと、イったばっかりで判断力が鈍っていたせいもある。
KYOの生配信を堪能した翌日の午後七時。私はある場所へと呼び出されていた。
KYO本人に。
ありえない。信じられない。何度頬をつねってみても痛覚は現実のものだった。
昨晩、KYOにDMを送った。後先も考えず。
DMを送るにあたり、アイコンやプロフィールを設定する必要もあって、やや手こずってしまったが、日付が変わる前には送信完了していたと思う。
なるべく身バレしないようユーザーネームは「RINA」にしておいた。アイコン選びは躊躇したが、カメラロールにちょうど撮ったばかりの可愛い猫ちゃんの落書きを見つけて、それにした。叶くんが描いてくれたそれだ。
どうせ彼の受信箱にはパンクするくらい大量のDMが来るのだろうし、私のメッセージなんて目に留まることもないかもしれない。
そう思って、お酒のせいで気が大きくなっていたこともあり、メンヘラ彼女もびっくりな長文をしたためた熱烈ラブコールを送ってしまった。
まさか返信が来るなんて聞いてない。
「で、着いてしまった……」
呼び出されたのは高層マンションの高層階にある一室。
てっきりラブホとかシティホテルとかに呼び出されるものだと思っていたのに、そうではなかった。駅の近くには繁華街もあったが、その喧騒が届かないくらいには閑静な住宅街の、新築分譲の都心のマンション。配信者ってそんなに儲かるんだろうか。
エントランスのロックを開けてもらったあと、迷路みたいなフロアをぐるぐる歩きまわって、ようやくDMに書かれていた部屋番号に辿り着く。
重厚な玄関扉を見つめたまま静かに深呼吸を繰り返し、覚悟を決めてインターホンを押した。
しばらくして重厚な扉がゆっくりと開かれ、中から現れた影と匂いに息を呑んだ。
「……KYO……!」
ほんものだ。ふわっとセンター分けになった黒髪、甘い目元、泣きぼくろ。
顔の下半分は黒マスクに覆われているが、醸し出す雰囲気は画面の中と変わらない、どころか一層セクシーで。
年頃は二十代前半くらいだろうか。画面越しではそこまで分からなかったが、直面した彼の肌の張りを見るに、想像よりも若いような気がする。
彼は上半身に衣服を纏っておらず、下はゆるっとした灰色のスウェット姿だった。
甘く涼しげな切れ長の瞳が静かに私を見下ろしている。
最初に惹かれた薄灰色の瞳は、日本人には珍しい色のように思う。その虹彩には水晶玉みたいな深みがあって、動画で見るよりももっとずっと神秘的。コンタクトなのかもしれないけれど、それを問うにはまだ早い。私は口を開けたまま彼を見つめ返していた。
ほんもののKYOだ。
ふわりと甘く香るエキゾチックな匂いが鼻腔をくすぐり、一度に受け取る視覚と嗅覚が許容量を超え、目眩すら覚える。
「……どうぞ」
低く、少し掠れた声が私を部屋の中への招き入れる。
初めて聞いたKYOの生声に、知らず耳の後ろにそわそわとした感覚が走った。彼は生配信でも吐息しかこぼさないから、言葉の乗った声を聞いたのはこれが初めてだった。
「お、おじゃまします……」
挨拶もままならないまま、私は彼のテリトリーへと吸い込まれる。
ひんやりした大理石みたいな廊下。その一番奥にダイニングルームが見えたが、手前のベッドルームへと通された。
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