【完結】リプレイ回数がもっとも多いところ「DMしたらデカマラDDと××撮り配信するハメになった」

牛乳席巻

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第3章

俺が注いであげますよ

「ここのつくね、美味いっすよね」

 繁盛時を迎えた金曜日の店内。
 香ばしい匂いの漂うカウンター席に私たちは居た。
 先週と同じ、あの焼き鳥屋だ。かなうくんと、恋愛相談というていでカフェの外でも会う――こうして飲みに出ることに、すっかり抵抗もなくなっている。

「ほんと。コリコリ感が良い感じ」
「んね。俺もこのコリコリが好きです」

 常連気取りのような口ぶりで話しながら、互いにこの一週間の仕事をねぎらいお酒を煽る。私は梅酒のソーダ割り、彼はハイボールを。
 叶くんの目元は相変わらず太縁の眼鏡でよく見えないが、機嫌が良さそうなことはなんとなくわかる。今日も今日とて仕事帰りに寄ったカフェで、シフト終わりの彼にあえなく捕まり、「先週の続き話しましょう」なんてテンション高めに誘われたのち、気づけばここだ。きっと何かいいことが……例の好きなひとと、進展があったんだろう。
 一方、私はと言うと。
 この一週間、相変わらずKYOのことばかりを考えて過ごしているのだけれど、少しだけ変化もあった。ほぼ毎日、KYOからDMが届くようになったのだ。と言っても、短文を二往復もすれば十分。
 あのとき彼に言われた「寂しかった」という言葉はあの場を盛り上げるためのリップサービスだってことは、今となっては理解しているけれど、それにしても頻度が高いような気もする。しかも内容が、じつにどうでもいいというか……。
「おはよう」や「おやすみ」に加えて「これ美味しかった」とお菓子の写真を付けたり、近所の駐車場に住み着いている猫ちゃんの写真を送ってくれたりする。
 時には大学の講義のようなレポートの写真とともに「退屈」のようなメッセージまで送られてきて、彼のプライベートがだんだんと明かされてしまうような危うさである。
 絶賛、学生疑惑浮上中。わざわざそれを追究したりはしないけど。

「カリナさんって日本酒飲めますか? よかったら半分こしません?」
「いいね、好き好き。日本酒いこう」

 ドリンクメニューを開いた叶くんが日本酒のページを眺めている。
 先週気づいたことだが、どうやら彼は結構お酒が強いらしい。無理に私に飲ませようとするそぶりは一切見せないけど、こうして互いのグラスが空になる頃合いを見てうまく誘うテクニックは少し目を見張るものがある。焼き鳥を串から外してくれたりもするし、なんというか、細かいところに気を配れる性格だ。
 それでいて、好きなひとに対しては肉食系だと言う。カフェ店員としての彼しか知らないときから薄々気づいていたけれど、やっぱり叶くんは外見を差し引いても女ウケの良いタイプだろう。
 なおかつ顔立ちも悪くない。むしろそれを隠すために瓶底眼鏡をかけている説まである。

「あー、俺日本酒飲むの久々だ」
「叶くん、まだお酒人生短いでしょうが」
「あは、たしかにそうですね」

 徳利とお猪口ふたつが運ばれてくる。手を伸ばそうとしたら、流れるような動作で叶くんが徳利を持ち、私にお猪口を勧める。しなやかで長い指先が徳利を持ち上げ、私のほうに向かってさりげなく体を寄せる、無駄のない所作。
 不意に目が合ったかと思うと、心得たように彼が甘く微笑む。

「俺が注いであげますよ」
「なんかその言い方さ……」
「なんです?」

 色っぽいなと思ってしまった。彼のスマートな立ち振る舞いと、その言い回しを。だが、みなまで言うのはやめておこう。

「なんでもない。おじさんみたいなこと言いかけた」
「えぇ、カリナさんが? ないない」

 若くメロい叶くんからすれば、私なんて老害一歩手前の女でしかない。そういうハラスメントめいた発言には注意しなくては。

「じゃあ、かんぱい」

 こちん、と互いのお猪口を控えめにぶつけて、ぬる燗をひとくち。純米の旨味とコクが口内にまろやかに広がっていく。

「で、叶くん。好きな人とは進展あったの?」

 いっそ話題を変えよう。言いながら、叶くんが串から外してくれたぼんじりをひとつ口へと運んだ。叶くんは温かな日本酒を口内でたっぷり味わいながらかすかに頬を緩める。

「んー……、はい、まぁ」

 照れくさそうに笑う彼を見るにつけ、良い方向へ進展していることは明らかだった。
 途端に、叶くんの存在が遠くなったように感じた。
 なんというか。嫉妬? っていうと違う。
 モヤっとする……というか?
 KYOとの関係にくすぶっている私とちがって、どんどん幸せになっていってしまう彼が、ようするに羨ましいのだ。

「カリナさんは?」
「え、私?」
「好きなひとと。どうなんですか?」

 当たり前みたいな口調で問われたが、その内容に覚えがない私は目を丸くした。

「え……、私、好きな人いるって言ったっけ?」

 KYOのことはそりゃそうだけど、叶くんに言った覚えもないし、言うはずない。この気持ちは私だけの秘密であって、誰かに共有するようなことじゃないというのもある。
 それに、私の「好き」は叶くんがしているみたいな未来の展開が気になる恋愛では到底なく、あくまでもビジネスライクなKYOのことを一方的にひっそりと好いているという、未来のない恋なのだ。

「いないんですか!?」
「そんなびっくりすること?」

 そんな、ビックリマーク付きのクエスチョンで言われましても。
 厳密には「いる」になるかもしれないけど、それを大学生の叶くんに打ち明けようとは思わない。
 だが、どういうわけか叶くんは納得のいかない顔をしている。

「いや…………えっと、じゃあ気になる人は?」
「まぁ……それくらいならいるけど」

 なんでこんなに問い詰められてるんだろう、私。
 たしかに私はKYOのことが好き。けれど、彼との関係が進展することを期待するほどバカじゃない。
 キスをされたことも、行為の延長だってことくらい分かってる。
 報われない恋に突っ走れるほどの気力や時間はアラサー女子にはないのだ。と、分かってはいるものの……
 あのときのキスを忘れられないのは事実だった。
 やや強引に塞がれた、KYOの唇と舌の感触。
 KYOはキスが上手かった。視界を遮られていたから余計に覚えている。柔らかいのに、つよくて、でも優しかった。
 どんな唇の形をしているのだろう。と、明かされることのないその容貌を、無意識に脳内に描いてしまうほどには。

「ねぇ、カリナさん」

 叶くんがじっと私の方を見つめていて、どきりとした。
 串についたもも肉を大胆に頬張る口、お酒を吸い込む大きな口は、ともすれば小動物を食らう獣のような獰猛さがある。それでいて上品な質感をしていて、ぷっくりと厚ぼったく形の良い唇の輪郭。重なればきっと弾力があって、気持ちよさそう。
 私が何度も思い描いた、KYOのくちびるのような――
 って、私はいったい何を?

「えっ、あ、ごめんなんだっけ」

 なにを考えてるの、私。一瞬、叶くんとキスするところを想像しそうになってしまった。

「もしかして、心ここにあらずですか?」
「そんなことないよ、日本酒のせいかな」
「ちょっとキツかったですかね。付き合わせちゃってごめんなさい。お水頼みますね」
「ありがとう」

 少し飲み過ぎてしまったかもしれない。叶くんといるといつもこんな調子だ。というより、男性への免疫が無さすぎるせいもあるのかも。
 ウエイターが持ってきたお水を、叶くんが私の前に置いてくれた。その表情はまだ私に何か物言いたげだ。

「カリナさん、その『気になる人』のこと、『好き』に昇格したりはしないんですか」
「んー……私、結構流されがちだから……その時だけ好きって勘違いしてる気もしなくもない、かも……」

 ゆるやかにアルコールの入った頭で、ほとんど本音に近いことを吐露してしまった。実際のところそうなのだ。今だって、雰囲気に流されて叶くんと――想像してしまったし。

「悪い女ですね」
「えぇっ、どのへんが!?」

 すかさず言われて声がひっくり返った。今の内容に悪い女の要素あった?
 叶くんは確信したように頷いている。

「カリナさんは悪い女っス。男狂わせ」
「なにそれ聞いたことない。あのね、この歳になるとなかなか好きにはなれないものだよ?」
「なんで?」
「なんでって……、傷つきたくないってのもあるし」

 またも本音が出てしまう。そうだ、傷ついたってお構いなしなら、KYOに対しても遠慮なく突っ走って玉砕できただろう。
 だけど今の私にはそれが出来ない。むしろ気持ちを伝えることなく、なるべく長い期間、彼との関係を続けたいと願っている。
 と同時に、彼に会うとそれもまた揺らいで、好きと伝えたらどうなるんだろうという好奇心もあったりする。ようするに、流されやすいのだ、雰囲気に。

「そんなのわかんないですよ。傷つかないかもしれない」
「まぁね。だから、傷ついてもいいやーって、時と場合によっちゃ簡単に流される私もいるからさぁ。自分のことが信用できないときもある」
「むじいー!」
「でしょ。自分でも思うよ、女心って掴めない」

 まったくそのとおり。
 自分に呆れるように日本酒をあおると、叶くんもお猪口に入っていた分をくいっと飲み下して、そのあとまた真剣な眼差しをこちらに向けた。

「もっとシンプルですよ。カリナさん、こないだ言ってたじゃないですか」
「シンプル? うん、言ったような言ってないような」
「……そのひとが、5秒以上見つめてくるならカリナさんのことが好きってこと。男ってそういうもんです」
「あぁ、なるほどねー……、あっ」

 やけに真剣なトーンで語る彼の言葉を解釈する前に、セットしておいたスマホのアラームが鳴る。
 21時半。KYOの配信に備えて、帰らなくてはいけない時間。

「私、そろそろ行かなきゃ」

 伝えると、徳利をひっくり返す勢いで中身ぜんぶをお猪口に注ぎながら、叶くんがつぶやく。

「じゃあ今日も頑張らなきゃなぁ」

 ほとんど独り言のように放たれたので、よく聞き取れなかった。今、なんて言ったんだろう。
 日本酒を飲み終わった叶くんはまた私にリップのお直しを勧めてくる。さすがに二週連続で大学生に奢られるのは気が引けたので、頑なに席を立たず、小銭が無いだとか言い訳をつけて少し多めに出しておいた。
 彼女でもない私にそこまでしてもらう義理もないし。けれど叶くんには、次は財布を持って来ないでくださいだとか言われてしまった。そんなに奢りたい年頃なのか。
 それよりも、早く帰って配信までに色々と準備をしないと。
 帰り際に、あれこれ考えることに気を取られていた私は、こちらを静かに見つめ続けている彼の視線に気づかなかった。
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