30 / 37
第5話 先輩と、ひとつになりたい(7)
しおりを挟む後始末を終えると、不破は犬塚にミネラルウォーターのペットボトルを渡した。それを受け取るなり、犬塚はごくごくと音を鳴らして喉を潤していく。
「体、平気か?」隣に腰掛けながら、不破が問いかける。
犬塚はベッドの上で布団にくるまっていた。事後の余韻に浸っているのか、先ほどから服も着ないでこの調子だ。不破にしたって上半身裸でいるのだから、人のことは言えないが。
「思ったよりへーきですっ。先輩がやさしくしてくれたから」
答えつつ、犬塚が無邪気な笑顔を向けてくる。
初めてのセックス、しかも受け入れる側としてあれだけ激しくされたのだ。体への負担があるだろうに、おくびにも出さないのだから大したものである。
「なに言ってんだよ、ほとんどお前が頑張ってくれたおかげだろ? ほーら、こっち来てご褒美」
と、犬塚の体を布団ごと横から抱きしめる。そのまま首筋や肩口にキスを落としていけば、くすぐったがりながらも嬉しそうな反応を見せた。
「やっぱりだ」ふと犬塚が呟く。
「何が?」
訊き返すと、クスクスという笑い声が返ってきた。犬塚はこちらを見上げながら答える。
「先輩、初めて会ったときと印象変わったなあって。なんか、コワモテじゃなくな――あっ、ちがうちがう!」
「……今、コワモテつったか?」
「明るくなった! 明るくなった、です! 顔つきからして違うってゆーか!」
何を言うのかと思えば、そんなことか――と思ってしまった。
犬塚の言うとおり、どこか不破自身もそう感じている節があった。勿論、心当たりなんて一つしかない。
「俺が変わったってんなら、それは犬塚のおかげだな」
「俺の?」
きょとんとした表情を見せる犬塚に、不破は微笑みを浮かべた。
「そりゃ、お前といると楽しいし、心だって安らぐし? なんか俺までガキくさくなるっつーか」
「よ、余計! 余計なこと言ってるっ!」
「はは、わりィ」
笑い交じりに不破が謝ると、犬塚は頬をぷくっと膨らませる。
しかし、それも束の間だった――すぐに笑顔が戻ってきて二人して笑い合う。そしてまた、満ち足りた気持ちになっていくのだ。
(コイツと出会えてなかったら、今の俺もいなかったんだろうな)
今まで生きてきて、誰かと付き合って、こんなにも一人の人間に夢中になったのは初めてだった。
犬塚拓哉という男は、自分にはもったいないくらいの相手だと思う。「可愛い」だの「エロい」だの――勿論、そういったところも含めて好きだが――なにも外見的要因だけで好きになったわけではない。
子供のような純粋さと明るさを持ち合わせていながらも、どこまでも健気で、じつは芯が強い一面もある。不破にとっては何もかも眩しく、魅力的に思えてならないのだ。
確かに、最初は単なる後輩でしかなかった。それも、若干鬱陶しさを感じるような。
だが、彼のことを知れば知るほど惹かれる自分がいて、もはやかけがえのない存在になっている。始まりこそ、ちょっとしたきっかけに過ぎなかったけれど、今ではその出会いに感謝したい気分だ。
「ありがとな、俺にこんな気持ちを教えてくれて」
不破は素直な想いを口にする。
すると腕の中の犬塚は、恥ずかしげに、けれど嬉しそうにはにかんで言った。
「俺もおんなじ気持ちです。これからもたくさん、よろしくおねがいしますっ!」
きっとこれからも、自分はこの愛らしい恋人に振り回され続けるのだろう。しかし、そんな日々も悪くない。
――こちらこそ、末永くよろしく。
不破は笑い返し、唇に優しく口づけたのだった。
fin.
21
あなたにおすすめの小説
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
甘味食して、甘淫に沈む
箕田 はる
BL
時は大正時代。
老舗の和菓子店の次男である井之口 春信は、幼馴染みである笹倉 明臣と恋仲にあった。
だが、母の葬儀を終えた早々に縁談が決まってしまい、悲嘆に暮れていた。そんな最中に、今度は何故か豪商から養子の話が持ち上がってしまう。
没落寸前の家を救う為に、春信はその養子の話を受け入れることに。
そこで再会を果たしたのが、小学校時代に成金と呼ばれ、いじめられていた鳴宮 清次だった。以前とは違う変貌を遂げた彼の姿に驚く春信。
春信の為にと用意された様々な物に心奪われ、尊敬の念を抱く中、彼から告げられたのは兄弟としてではなく、夫婦としての生活だった。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる