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第2話 十年越しの初デート(3)
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「瀬名?」
「なんで先輩のこと好きになっちゃったんだろう――なんで俺は、女じゃないんだろうっ」
「………………」
「もう……忘れたい」
なんでもいいから忘れさせてほしい、と。縋るように高山の肩口に額を押し当てる。
胸の痛みはまだ治まらず、一度泣き止んでもすぐに涙が溢れて止まらない。
高山はしばらく黙っていたが、やがてため息をつくと低い声で呟いた。
「俺にとってお前は、ダチが可愛がってた後輩だってのに」
「いいよ、なんだって。あんたもノリで男抱くような人なんだろ――それとも、俺じゃそんな気にならない?」
「いや……お前は、それで後悔しないんだな?」
「しない。全部、あんたの好きにしていいから……」
顔を上げた途端に高山の手が伸びてきて、今度は両手で頬を包み込まれる。
瞳に自分が映っているのが見えるほど、至近距離で交わる視線。
そのまま顔を寄せられ、侑人は反射的にぎゅっと目をつぶった。
「っ……」
全身を強張らせながらも唇が重ねられる。それは、思っていた以上に柔らかい感触だった。
数秒間触れ合ったあと、ゆっくりと唇が離れていって瞼を開く。高山はこちらの顔をじっと見つめていた。
「やめるって言うなら、今のうちだぞ」
再度確認してくるあたり、高山も見かけに反してお人好しな男なのだろう。
彼の厚意はありがたかったが、侑人は首を横に振った。ここで引き下がったりなどしたら、きっと前に進めないと思ったのだ。
「もう一回したい――それに、先のことも」
そうして、その日初めて男を知った。
高山はまるで恋人のように優しく、それでいて情熱的に激しく抱いてくれて、侑人はあまりの快楽に何度も高みへと昇り詰めてしまったのを覚えている。
以来、高山とはセフレとして関係を続けるようになった。都合のいいときに連絡をし、体を重ねるだけの間柄――そうとばかり思っていたのに。
◇
(ふざけんな! 十年もセフレとして付き合ってきたんだぞ!? なにが『出会ったときからずっと好きだった』だ! いきなりプロポーズはないだろ、プロポーズはっ――!)
例のプロポーズから数日が経った現在。
なおも侑人は、高山の言動が頭から離れないでいる。おかげで仕事にも支障をきたす始末で、上司にひどく叱られたり、やたらと周囲から心配されたりと散々な目にあっていた。
あの後、なんやかんやあって試しに付き合う流れになったのだが、今までずっと体の関係だけでやってきたというのに、唐突に恋人になるだなんて想像もつかない。
しかも、だ。今日は初めてとなるデートに誘われてしまった。
昼前に待ち合わせ場所である駅に向えば、すぐに高山が声をかけてくる。
「よお、ちゃんと来てくれたんだな」
「当然だろ。一応付き合うことになったんだし、約束は約束だし」
ぶっきらぼうに返すも、高山は嬉しそうに破顔した。
今日は互いに、仕事帰りのスーツ姿ではなく私服姿だ。高山はタートルネックの上にチェスターコートを羽織っており、服装は至ってシンプルなものの、だからこそ素材のよさが際立っているように思えた。
(悔しいけど……格好いいんだよな、この人)
侑人はさりげなく視線を逸らす。
いつもの待ち合わせとは違った雰囲気なせいか、妙に緊張している自分に気がついた。もう長年の付き合いだというのに、なんだか顔を合わせるのが気恥ずかしい。
「じゃあ、そろそろ行くか」
一方、高山は普段と変わらぬ調子で話しかけてくる。侑人は慌てて隣に並んだ。
「い、行くってどこに? 俺、全然聞かされてないんだけどっ」
「そうだったか? まあ安心しろよ、ヘンなとこには連れていかねえからさ」
「?」
疑問に思いながらも高山についていく。向かった先は――予期せぬ場所だった。
「なんで先輩のこと好きになっちゃったんだろう――なんで俺は、女じゃないんだろうっ」
「………………」
「もう……忘れたい」
なんでもいいから忘れさせてほしい、と。縋るように高山の肩口に額を押し当てる。
胸の痛みはまだ治まらず、一度泣き止んでもすぐに涙が溢れて止まらない。
高山はしばらく黙っていたが、やがてため息をつくと低い声で呟いた。
「俺にとってお前は、ダチが可愛がってた後輩だってのに」
「いいよ、なんだって。あんたもノリで男抱くような人なんだろ――それとも、俺じゃそんな気にならない?」
「いや……お前は、それで後悔しないんだな?」
「しない。全部、あんたの好きにしていいから……」
顔を上げた途端に高山の手が伸びてきて、今度は両手で頬を包み込まれる。
瞳に自分が映っているのが見えるほど、至近距離で交わる視線。
そのまま顔を寄せられ、侑人は反射的にぎゅっと目をつぶった。
「っ……」
全身を強張らせながらも唇が重ねられる。それは、思っていた以上に柔らかい感触だった。
数秒間触れ合ったあと、ゆっくりと唇が離れていって瞼を開く。高山はこちらの顔をじっと見つめていた。
「やめるって言うなら、今のうちだぞ」
再度確認してくるあたり、高山も見かけに反してお人好しな男なのだろう。
彼の厚意はありがたかったが、侑人は首を横に振った。ここで引き下がったりなどしたら、きっと前に進めないと思ったのだ。
「もう一回したい――それに、先のことも」
そうして、その日初めて男を知った。
高山はまるで恋人のように優しく、それでいて情熱的に激しく抱いてくれて、侑人はあまりの快楽に何度も高みへと昇り詰めてしまったのを覚えている。
以来、高山とはセフレとして関係を続けるようになった。都合のいいときに連絡をし、体を重ねるだけの間柄――そうとばかり思っていたのに。
◇
(ふざけんな! 十年もセフレとして付き合ってきたんだぞ!? なにが『出会ったときからずっと好きだった』だ! いきなりプロポーズはないだろ、プロポーズはっ――!)
例のプロポーズから数日が経った現在。
なおも侑人は、高山の言動が頭から離れないでいる。おかげで仕事にも支障をきたす始末で、上司にひどく叱られたり、やたらと周囲から心配されたりと散々な目にあっていた。
あの後、なんやかんやあって試しに付き合う流れになったのだが、今までずっと体の関係だけでやってきたというのに、唐突に恋人になるだなんて想像もつかない。
しかも、だ。今日は初めてとなるデートに誘われてしまった。
昼前に待ち合わせ場所である駅に向えば、すぐに高山が声をかけてくる。
「よお、ちゃんと来てくれたんだな」
「当然だろ。一応付き合うことになったんだし、約束は約束だし」
ぶっきらぼうに返すも、高山は嬉しそうに破顔した。
今日は互いに、仕事帰りのスーツ姿ではなく私服姿だ。高山はタートルネックの上にチェスターコートを羽織っており、服装は至ってシンプルなものの、だからこそ素材のよさが際立っているように思えた。
(悔しいけど……格好いいんだよな、この人)
侑人はさりげなく視線を逸らす。
いつもの待ち合わせとは違った雰囲気なせいか、妙に緊張している自分に気がついた。もう長年の付き合いだというのに、なんだか顔を合わせるのが気恥ずかしい。
「じゃあ、そろそろ行くか」
一方、高山は普段と変わらぬ調子で話しかけてくる。侑人は慌てて隣に並んだ。
「い、行くってどこに? 俺、全然聞かされてないんだけどっ」
「そうだったか? まあ安心しろよ、ヘンなとこには連れていかねえからさ」
「?」
疑問に思いながらも高山についていく。向かった先は――予期せぬ場所だった。
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