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おまけSS 卒業式とこれからも(1)
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三月某日――三年間の高校生活も終わり、卒業式。
式が終わるなり、校舎の前は卒業生や在校生、保護者らでごった返した。写真を撮ったり、花束などの贈答品のやり取りをしたりと、みな思い思いに過ごしている。
高山もまた卒業生として声をかけられるなか、人混みを縫うようにしてある人物を探していた。やがて、その後ろ姿を視界に捉えて口元を緩ませる。
「――瀬名、俺にも何かねえのかよ」
「っ、高山先輩……」
頭に手を添えながら言うと、侑人は少しだけ嫌そうに顔を歪めた。その仕草にすら愛おしさを感じてならないのだが、外野が黙っていなかった。
「うわ、ダルっ! ウザ絡みやめろよ、瀬名が困ってんだろ?」
そう口を挟んできたのは本城だ。察するに侑人から受け取ったのだろう、花束や色紙の入った紙袋を手にしている。
「あはは……高山先輩もご卒業おめでとうございます。何も用意してなくてすみません」
「いいんだよ。高山だって、バレー部の連中からいろいろ貰ってんだろうが」
体裁を繕う侑人の言葉に、本城が呆れたように続ける。
高山とて男子バレーボール部に所属しており、同じように後輩から贈答品が贈られていた。特に何か欲しいというわけでもない。こうしてちょっかいをかけてしまうのは、他ならぬ侑人への執着心だ。
「なんだよ、つれねえな……。俺だって、お前のこと可愛がってやったのに」
顔を覗き込むようにして言うと、侑人の顔がわずかに強張ったのがわかった。
それをいいことに、さらにからかってやろうとも思ったのだが、すかさず本城が間に入ってくる。
「お前なあ。これ以上、瀬名のこと困らせるんじゃねえよ」
呆れ、というよりは牽制するかのように。本城は快く思っていないのか、声を低くして言った。
「はいはい、悪かったよ」
高山は肩をすくめながら、降参とばかりに両手を挙げる。
しかし、本城はまだ言い足りないのか、「ちょっとこっち来い」と耳打ちしつつ、肩を抱いてきた。
「じゃあ、瀬名。また部の送別会でな」
侑人に別れを告げてそのまま歩き出す。
怪訝に思いながら高山がついていくと、本城は周囲の喧騒からやや離れたところで口を開いた。
「……なあ、高山って瀬名の何なわけ?」
そんな問いかけに、高山は目を瞬かせた。だがすぐにいつもの調子に戻り、小さく笑ってみせる。
「何、って? 先輩と後輩以外に何があるんだよ?」
「とぼけるなよ。どう見てもお前、あいつのこと狙ってるだろ」
やはり気づいていたようだった。高山がバイセクシャルであることは知られているし、今までの付き合いから、そのうち察するだろうとは思っていたが。
「まあな。で、それがどうしたんだ?」
観念したように苦笑を返すと、本城は眉間に皺を寄せた。
「とっかえひっかえ遊んでるようなお前が、瀬名に手ェ出すなって言いたいんだよ。どう考えても、あいつはそういうヤツじゃないだろ」
どうやら本城なりに侑人のことを心配しているらしい。が、余計なお世話というものだ。
それに、あの優等生然とした顔でどんなによがり狂って、淫らに男を求めようとするのか――数々の痴態を知っていれば、そんなことも言っていられない。
高山はやれやれとため息をつくと、頭を掻きながら口を開いた。
「さて、どうだか。……ま、好きになっちまったもんは仕方ねえだろ」
「本気じゃないのにか?」
「………………」
咄嗟に言葉が出なかった。
高山にとって、侑人は初めて恋心を自覚した相手だ。
もちろん本気だと言ってやりたかった――けれど、本気になどなれっこない。一度本気になってしまったら、手離し難くなることは目に見えていた。
そのようなことを考えているうちにも、本城はどこか察しがついたらしい。途端にハッとした顔つきになる。
「まさか、お前」
「あーあ。やっぱ俺って、そんなふうに見えちまうよな」
高山は自嘲気味に笑った。
はっきりと言葉にはしなかったが、それだけでも伝わったようだ。本城が気まずそうに視線を落とす。
「悪い……勘違いした」
「いいよ。そういった付き合いしてきたのは確かだし」
「でも、どういう心変わりだ? ちょっと意外っつーか」
「さあな? 俺にもわからん。……だけど、なんか放っておけなくてさ。あいつ見てると何でもしてやりたくなるんだよ」
嘘偽りない本心を口にすると、感心したように本城が唸った。
「マジかよ。ガチで好きなヤツじゃん」
「っは、お恥ずかしながらな」
「だったら俺も、とやかくは言わねーけどさ」
言いながらも、なんだか複雑そうに眉根を寄せている。何かと思って続きを促してみれば、
「……泣かすような真似だけはすんなよ?」
真面目な顔をして忠告するものだから、ほとほと参ってしまう。こう見えて本城もなかなか罪深い男である。
「お前がそれ言うのかよ。泣かすわけないだろ」
「えっ」
ギクリとしたように目を見開くも、わざわざ教えてやるつもりはない。本城とはそこで別れ、高山は再び侑人のもとへと向かった。
式が終わるなり、校舎の前は卒業生や在校生、保護者らでごった返した。写真を撮ったり、花束などの贈答品のやり取りをしたりと、みな思い思いに過ごしている。
高山もまた卒業生として声をかけられるなか、人混みを縫うようにしてある人物を探していた。やがて、その後ろ姿を視界に捉えて口元を緩ませる。
「――瀬名、俺にも何かねえのかよ」
「っ、高山先輩……」
頭に手を添えながら言うと、侑人は少しだけ嫌そうに顔を歪めた。その仕草にすら愛おしさを感じてならないのだが、外野が黙っていなかった。
「うわ、ダルっ! ウザ絡みやめろよ、瀬名が困ってんだろ?」
そう口を挟んできたのは本城だ。察するに侑人から受け取ったのだろう、花束や色紙の入った紙袋を手にしている。
「あはは……高山先輩もご卒業おめでとうございます。何も用意してなくてすみません」
「いいんだよ。高山だって、バレー部の連中からいろいろ貰ってんだろうが」
体裁を繕う侑人の言葉に、本城が呆れたように続ける。
高山とて男子バレーボール部に所属しており、同じように後輩から贈答品が贈られていた。特に何か欲しいというわけでもない。こうしてちょっかいをかけてしまうのは、他ならぬ侑人への執着心だ。
「なんだよ、つれねえな……。俺だって、お前のこと可愛がってやったのに」
顔を覗き込むようにして言うと、侑人の顔がわずかに強張ったのがわかった。
それをいいことに、さらにからかってやろうとも思ったのだが、すかさず本城が間に入ってくる。
「お前なあ。これ以上、瀬名のこと困らせるんじゃねえよ」
呆れ、というよりは牽制するかのように。本城は快く思っていないのか、声を低くして言った。
「はいはい、悪かったよ」
高山は肩をすくめながら、降参とばかりに両手を挙げる。
しかし、本城はまだ言い足りないのか、「ちょっとこっち来い」と耳打ちしつつ、肩を抱いてきた。
「じゃあ、瀬名。また部の送別会でな」
侑人に別れを告げてそのまま歩き出す。
怪訝に思いながら高山がついていくと、本城は周囲の喧騒からやや離れたところで口を開いた。
「……なあ、高山って瀬名の何なわけ?」
そんな問いかけに、高山は目を瞬かせた。だがすぐにいつもの調子に戻り、小さく笑ってみせる。
「何、って? 先輩と後輩以外に何があるんだよ?」
「とぼけるなよ。どう見てもお前、あいつのこと狙ってるだろ」
やはり気づいていたようだった。高山がバイセクシャルであることは知られているし、今までの付き合いから、そのうち察するだろうとは思っていたが。
「まあな。で、それがどうしたんだ?」
観念したように苦笑を返すと、本城は眉間に皺を寄せた。
「とっかえひっかえ遊んでるようなお前が、瀬名に手ェ出すなって言いたいんだよ。どう考えても、あいつはそういうヤツじゃないだろ」
どうやら本城なりに侑人のことを心配しているらしい。が、余計なお世話というものだ。
それに、あの優等生然とした顔でどんなによがり狂って、淫らに男を求めようとするのか――数々の痴態を知っていれば、そんなことも言っていられない。
高山はやれやれとため息をつくと、頭を掻きながら口を開いた。
「さて、どうだか。……ま、好きになっちまったもんは仕方ねえだろ」
「本気じゃないのにか?」
「………………」
咄嗟に言葉が出なかった。
高山にとって、侑人は初めて恋心を自覚した相手だ。
もちろん本気だと言ってやりたかった――けれど、本気になどなれっこない。一度本気になってしまったら、手離し難くなることは目に見えていた。
そのようなことを考えているうちにも、本城はどこか察しがついたらしい。途端にハッとした顔つきになる。
「まさか、お前」
「あーあ。やっぱ俺って、そんなふうに見えちまうよな」
高山は自嘲気味に笑った。
はっきりと言葉にはしなかったが、それだけでも伝わったようだ。本城が気まずそうに視線を落とす。
「悪い……勘違いした」
「いいよ。そういった付き合いしてきたのは確かだし」
「でも、どういう心変わりだ? ちょっと意外っつーか」
「さあな? 俺にもわからん。……だけど、なんか放っておけなくてさ。あいつ見てると何でもしてやりたくなるんだよ」
嘘偽りない本心を口にすると、感心したように本城が唸った。
「マジかよ。ガチで好きなヤツじゃん」
「っは、お恥ずかしながらな」
「だったら俺も、とやかくは言わねーけどさ」
言いながらも、なんだか複雑そうに眉根を寄せている。何かと思って続きを促してみれば、
「……泣かすような真似だけはすんなよ?」
真面目な顔をして忠告するものだから、ほとほと参ってしまう。こう見えて本城もなかなか罪深い男である。
「お前がそれ言うのかよ。泣かすわけないだろ」
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