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おまけSS ニューヨークからの使者(1)
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営業マンは、基本的に出先で昼食をとることが多い。
侑人もご多分にもれず、社用車内でコンビニ弁当を広げていたのだが、ふとスマートフォンに通知が届いていることに気づいた。確認すれば、高山からのメッセージである。
『突然で悪いんだが』――申し訳なさそうに切り出された一文に、侑人は目を瞠った。
「え……えええ~っ」
思わずそんな声が出てしまうが、断れる雰囲気でもなく。侑人はすぐさま了承の返事を送り、午後の仕事を片付けると急いで帰宅したのだった。
「た、ただいまあ」
侑人が玄関に入ると、すぐにリビングから高山が出てきた。こちらの顔を見て、ため息交じりに口を開く。
「すまん、こんなことになっちまって。言い聞かせてはみたんだが……」
「いいって、断るのもアレでしょ。それよか本当に何も買ってこなかったけど、よかったの?」
「ああ。あっちが押しかけてきたんだから当然だろ、飲み代くらい出してもらわなきゃ困る」
「あ……はは」
侑人は苦笑しつつ靴を脱ぎ、高山とともにリビングへと向かった。
部屋に入るなり、ソファーに腰掛けている男と目が合う――白人だ。
歳は二十代後半といったところか。ブロンドの髪と青い瞳、彫りの深い顔立ち。長身でスタイルが良く、アメリカ式らしいゆったりとしたスーツを着こなしていた。
男はニコニコとしながら立ち上がって、大股で近づいてくる。そして、いきなり抱きつこうとしてきたのだった。
「いらっしゃーい、どうもお邪魔してます!」
「おい、『いらっしゃい』じゃねえだろ」
すかさず高山が間に入って、男の体を引き離す。そのテンションの高さに侑人は若干引いてしまうも、いつもの営業スマイルで応えた。
「初めまして、瀬名侑人です。今日はようこそお越しくださいました」
そう挨拶すると、手を差し出して握手を求める。男はすぐに満面の笑みを浮かべて握り返してきた。
「ユウト、私はウィリアムといいます! 初めまして、どうぞよろしく!」
まるで、大型犬が尻尾をぶんぶんと振っているかのごとくだ。ウィリアムと名乗った男は、握った手を上下に振って、陽気に自己紹介してみせる。
「ウィリアムさんは日本語が堪能なんですね」
「んっふふ、ありがと! 毎日のように勉強しました~。ときどき英語が混ざっちゃうけどねえ」
言って、ウィリアムは茶目っ気たっぷりにウインクした。当初の印象に反して、なかなか親しみやすい性格のようだ――いや、これもビジネススキルのうちというべきか。
(まさか、こんなお偉いさんがウチに来るだなんて)
高山が務めている外資系製薬会社。その本社があるニューヨークから視察にやってきたのが、何を隠そうこの男である。
前々から高山と面識があるらしく、歳が近いこともあってプライベートでも交流があるらしい。特に今回の来日では、「せっかくだから家に遊びに行きたい」と言って聞かなかったのだとか。
(大してもてなせないし、ホームパーティーのノリで来られても困るんだけどなあ……)
内心ぼやきながら、ネクタイを緩めてジャケットを脱ぐ。
リビングのローテーブルには、出前をとったと思われる寿司桶、ビールや缶チューハイ、つまみ用のスナック菓子などが並んでいた。いわゆる《宅飲み》である。
挨拶もそこそこに乾杯をすると、しばらくは他愛もない話に花を咲かせた。自己紹介のような軽い話から世間話、そうして不意に――、
「そういえば、ユウトもここに住んでるの? ケンジのルームメイト?」
思い出したように問いかけられて、侑人はギクリとした。考えてみたら、不思議に思われて当然のことだというのに、すっかり失念していたのだ。
「あ、はい……そんなところ、です」
ややあってから返す。《夫夫》だから、とは言えなかった。
(ああ、俺ってばまた――)
おいそれとカミングアウトできない自分がいる。結婚指輪にしたって――高山とは違い――会社には付けていかないし、「同居人」という続柄での届出しかしていない。
侑人がひそかに落ち込んでいると、ウィリアムは興味津々といった様子で身を乗り出してきた。
「ふーん。もしかしてなんだけど、ユウトはゲイだったりする?」
侑人もご多分にもれず、社用車内でコンビニ弁当を広げていたのだが、ふとスマートフォンに通知が届いていることに気づいた。確認すれば、高山からのメッセージである。
『突然で悪いんだが』――申し訳なさそうに切り出された一文に、侑人は目を瞠った。
「え……えええ~っ」
思わずそんな声が出てしまうが、断れる雰囲気でもなく。侑人はすぐさま了承の返事を送り、午後の仕事を片付けると急いで帰宅したのだった。
「た、ただいまあ」
侑人が玄関に入ると、すぐにリビングから高山が出てきた。こちらの顔を見て、ため息交じりに口を開く。
「すまん、こんなことになっちまって。言い聞かせてはみたんだが……」
「いいって、断るのもアレでしょ。それよか本当に何も買ってこなかったけど、よかったの?」
「ああ。あっちが押しかけてきたんだから当然だろ、飲み代くらい出してもらわなきゃ困る」
「あ……はは」
侑人は苦笑しつつ靴を脱ぎ、高山とともにリビングへと向かった。
部屋に入るなり、ソファーに腰掛けている男と目が合う――白人だ。
歳は二十代後半といったところか。ブロンドの髪と青い瞳、彫りの深い顔立ち。長身でスタイルが良く、アメリカ式らしいゆったりとしたスーツを着こなしていた。
男はニコニコとしながら立ち上がって、大股で近づいてくる。そして、いきなり抱きつこうとしてきたのだった。
「いらっしゃーい、どうもお邪魔してます!」
「おい、『いらっしゃい』じゃねえだろ」
すかさず高山が間に入って、男の体を引き離す。そのテンションの高さに侑人は若干引いてしまうも、いつもの営業スマイルで応えた。
「初めまして、瀬名侑人です。今日はようこそお越しくださいました」
そう挨拶すると、手を差し出して握手を求める。男はすぐに満面の笑みを浮かべて握り返してきた。
「ユウト、私はウィリアムといいます! 初めまして、どうぞよろしく!」
まるで、大型犬が尻尾をぶんぶんと振っているかのごとくだ。ウィリアムと名乗った男は、握った手を上下に振って、陽気に自己紹介してみせる。
「ウィリアムさんは日本語が堪能なんですね」
「んっふふ、ありがと! 毎日のように勉強しました~。ときどき英語が混ざっちゃうけどねえ」
言って、ウィリアムは茶目っ気たっぷりにウインクした。当初の印象に反して、なかなか親しみやすい性格のようだ――いや、これもビジネススキルのうちというべきか。
(まさか、こんなお偉いさんがウチに来るだなんて)
高山が務めている外資系製薬会社。その本社があるニューヨークから視察にやってきたのが、何を隠そうこの男である。
前々から高山と面識があるらしく、歳が近いこともあってプライベートでも交流があるらしい。特に今回の来日では、「せっかくだから家に遊びに行きたい」と言って聞かなかったのだとか。
(大してもてなせないし、ホームパーティーのノリで来られても困るんだけどなあ……)
内心ぼやきながら、ネクタイを緩めてジャケットを脱ぐ。
リビングのローテーブルには、出前をとったと思われる寿司桶、ビールや缶チューハイ、つまみ用のスナック菓子などが並んでいた。いわゆる《宅飲み》である。
挨拶もそこそこに乾杯をすると、しばらくは他愛もない話に花を咲かせた。自己紹介のような軽い話から世間話、そうして不意に――、
「そういえば、ユウトもここに住んでるの? ケンジのルームメイト?」
思い出したように問いかけられて、侑人はギクリとした。考えてみたら、不思議に思われて当然のことだというのに、すっかり失念していたのだ。
「あ、はい……そんなところ、です」
ややあってから返す。《夫夫》だから、とは言えなかった。
(ああ、俺ってばまた――)
おいそれとカミングアウトできない自分がいる。結婚指輪にしたって――高山とは違い――会社には付けていかないし、「同居人」という続柄での届出しかしていない。
侑人がひそかに落ち込んでいると、ウィリアムは興味津々といった様子で身を乗り出してきた。
「ふーん。もしかしてなんだけど、ユウトはゲイだったりする?」
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