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第3話 最悪のカミングアウト(3)
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凛とした表情で大道寺を見据えながら、諒太をかばうようにして前に出る。思ってもみなかった行動に諒太は目を見開き、大道寺もわずかに気圧された様子だった。
「どう、って……見てわかんないかな? こっちは痴話喧嘩の最中なんだけど」
橘の態度が気に入らないのか、大道寺が挑発的に言い放つ。だが、橘はまったく動じることもなく毅然と言い返した。
「痴話喧嘩には到底思えませんけど。どう見ても、あなたが一方的に迫っているだけでしょう」
「はあ? バカ言ってんなよ。諒太はなァ、ちょっと強引に迫られるくらいの方が燃えるタイプなんだよ」
「だ、大道寺さん!?」
突然何を言っているのだ。抗議するように名前を呼ぶも、大道寺は意に介さず続ける。
「なあ諒太。こんな甘っちょろいガキ相手じゃ、性欲持て余してんじゃないのか? 俺の方が絶対満足させてやれるって」
「なっ……」
「今さら純情ぶってんなよ。『大道寺さん、大道寺さん』って甘えた声出して、あんなにも求めてたくせに。ほら、いつまでもそんなふうに意地張ってないでさ」
大道寺は諒太の腕を掴み、再び引き寄せようとした。
が、その瞬間、パシッという音とともに大道寺の手が離れる。見れば、橘が払い除けていた。
「いい加減にしろよ。本当に恋人なら、相手を傷つけるような真似するはずないだろ。今のあんたからは愛情なんか微塵も感じられない――ただ自分の欲望を満たしたいだけだろ、このクソ野郎」
口調こそ静かだが、橘の声には確かな怒りが込められていた。
諒太は直感的に悟る――マズい、と。さすがに言い過ぎだ。
実際、橘の言葉は大道寺の癇に障ったようで、彼は忌々しげに舌打ちをした。
「何も知らねえガキが……調子に乗ってんじゃねェぞっ!」
大道寺の拳が振り上げられる。
その瞬間、諒太は橘と大道寺の間に割って入った。
「っ!」
ドゴッと鈍い音が響く。頬に強い衝撃を受け、視界がぐらりと揺れた。
よろめきながら顔を上げると、大道寺は唖然とした顔をしていた。
「俺の大切な教え子に、手ェ出すんじゃねえよ」
諒太は切れた唇から流れる血を拭いつつ、鋭い眼差しを向ける。
対する大道寺は、動揺したように視線を泳がせた。
「諒太……何だよ、そのツラは。まさかそいつの肩を持つつもりじゃないだろうな」
「そういう問題じゃない。関係ないヤツ巻き込むなよ。あんたとはもう終わりだ、って何度も言ってるだろ」
「でも、諒太」
「これ以上俺に付きまとうんだったら、警察呼ぶことにする。二度と俺の前に現れるな」
はっきりと告げれば、大道寺の顔色がサッと変わる。眉間にしわを寄せ、強い苛立ちを露わにさせた。
「お前なんか、俺にとっては都合のいい穴でしかなかったんだ――この淫乱野郎! 誰にでもすぐ股開きやがって!」
最後にそう言い捨てて、大道寺は逃げるように立ち去っていく。
その背を見送り、諒太は全身から力が抜け落ちるのを感じた。へたり込みそうになるところを、橘に支えられてどうにか踏み止まる。
「とりあえず家ン中入りましょう。早く冷やさないと」
「ああ、うん。美緒は?」
「先生とあの人の声が、部屋の中にまで聞こえてて……その、怖がっちゃって」
「そっか……悪いことしたな」
だから橘が様子を見にきたのだろう、と合点がいく。
部屋に入ると、すぐさま美緒が心配そうな顔を見せてきた。
「りょうたくん、へいきっ!?」
「へーきへーき、ちょっと喧嘩しちゃっただけだから。心配かけちゃってごめんな?」
美緒に見せたくなくて、諒太は顔を隠しながら答える。と、こちらの意図を察してくれたのか、橘が素早く動いて美緒の頭を優しく撫でた。
「ちゃんと手当てすれば大丈夫。美緒ちゃんは先にお布団で待ってよう?」
落ち着いた声でそう諭す。美緒は小さく頷いて、リビングを出ていった。
「どう、って……見てわかんないかな? こっちは痴話喧嘩の最中なんだけど」
橘の態度が気に入らないのか、大道寺が挑発的に言い放つ。だが、橘はまったく動じることもなく毅然と言い返した。
「痴話喧嘩には到底思えませんけど。どう見ても、あなたが一方的に迫っているだけでしょう」
「はあ? バカ言ってんなよ。諒太はなァ、ちょっと強引に迫られるくらいの方が燃えるタイプなんだよ」
「だ、大道寺さん!?」
突然何を言っているのだ。抗議するように名前を呼ぶも、大道寺は意に介さず続ける。
「なあ諒太。こんな甘っちょろいガキ相手じゃ、性欲持て余してんじゃないのか? 俺の方が絶対満足させてやれるって」
「なっ……」
「今さら純情ぶってんなよ。『大道寺さん、大道寺さん』って甘えた声出して、あんなにも求めてたくせに。ほら、いつまでもそんなふうに意地張ってないでさ」
大道寺は諒太の腕を掴み、再び引き寄せようとした。
が、その瞬間、パシッという音とともに大道寺の手が離れる。見れば、橘が払い除けていた。
「いい加減にしろよ。本当に恋人なら、相手を傷つけるような真似するはずないだろ。今のあんたからは愛情なんか微塵も感じられない――ただ自分の欲望を満たしたいだけだろ、このクソ野郎」
口調こそ静かだが、橘の声には確かな怒りが込められていた。
諒太は直感的に悟る――マズい、と。さすがに言い過ぎだ。
実際、橘の言葉は大道寺の癇に障ったようで、彼は忌々しげに舌打ちをした。
「何も知らねえガキが……調子に乗ってんじゃねェぞっ!」
大道寺の拳が振り上げられる。
その瞬間、諒太は橘と大道寺の間に割って入った。
「っ!」
ドゴッと鈍い音が響く。頬に強い衝撃を受け、視界がぐらりと揺れた。
よろめきながら顔を上げると、大道寺は唖然とした顔をしていた。
「俺の大切な教え子に、手ェ出すんじゃねえよ」
諒太は切れた唇から流れる血を拭いつつ、鋭い眼差しを向ける。
対する大道寺は、動揺したように視線を泳がせた。
「諒太……何だよ、そのツラは。まさかそいつの肩を持つつもりじゃないだろうな」
「そういう問題じゃない。関係ないヤツ巻き込むなよ。あんたとはもう終わりだ、って何度も言ってるだろ」
「でも、諒太」
「これ以上俺に付きまとうんだったら、警察呼ぶことにする。二度と俺の前に現れるな」
はっきりと告げれば、大道寺の顔色がサッと変わる。眉間にしわを寄せ、強い苛立ちを露わにさせた。
「お前なんか、俺にとっては都合のいい穴でしかなかったんだ――この淫乱野郎! 誰にでもすぐ股開きやがって!」
最後にそう言い捨てて、大道寺は逃げるように立ち去っていく。
その背を見送り、諒太は全身から力が抜け落ちるのを感じた。へたり込みそうになるところを、橘に支えられてどうにか踏み止まる。
「とりあえず家ン中入りましょう。早く冷やさないと」
「ああ、うん。美緒は?」
「先生とあの人の声が、部屋の中にまで聞こえてて……その、怖がっちゃって」
「そっか……悪いことしたな」
だから橘が様子を見にきたのだろう、と合点がいく。
部屋に入ると、すぐさま美緒が心配そうな顔を見せてきた。
「りょうたくん、へいきっ!?」
「へーきへーき、ちょっと喧嘩しちゃっただけだから。心配かけちゃってごめんな?」
美緒に見せたくなくて、諒太は顔を隠しながら答える。と、こちらの意図を察してくれたのか、橘が素早く動いて美緒の頭を優しく撫でた。
「ちゃんと手当てすれば大丈夫。美緒ちゃんは先にお布団で待ってよう?」
落ち着いた声でそう諭す。美緒は小さく頷いて、リビングを出ていった。
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