天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司

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第一部「ハルコン少年期」

43 サスパニア出張旅行 その6_14

   *          *

「石原中佐さん、……あなた方は私(ハルコン)に、聖徳晴子がかつて過ごした現代日本に連れていって欲しい、……。そう仰るのですね?」

「はい、可能ならば。なるべく早急に願いたいものです!」

 その言葉に私は思わず息を飲むと、石原中佐さんの目の色をじっと窺った。

 詐術や謀略に長け、大陸で戦前に名を馳せた石原中佐さんだ。ただの薬学者に過ぎない私など、いくらでも騙す術があってもおかしくはないんだけどさ、……。
 でも、……その瞳に、私は何ら噓も衒いも感じることはできなかった。

「もし、……仮にですが、……。あなた方を現代日本に送ったとして、その先に何をされるおつもりなのですか? まさか、現地で復讐戦を始めるというのなら、私は断固拒否しますよ!」

 すると、……。石原中佐さんは、少しだけ目を大きく広げると、「まっさかぁ~っ!!」といって強く否定するのだ。

「なら、何をされるのです? 大体、あなた方のいた頃より80年後の世界ですよ。お知り合いもいらっしゃらないのではないでしょうか?」

 私がそう訊ねると、石原中佐さんは小水戸中尉にちらりと目配せした。
 すると、中尉はひとつ頷くと壁に掛けてある脇差(わきざし)を取って、石原中佐さんの許に駆け寄った。

「いいだろう。ハルコン殿にこちらをお見せして差し上げろ!」

「ははっ!」

 私には、2人のやり取りがいささか大げさで時代がかっているように見受けられた。

「どうぞ、ハルコン殿。お手に取って、よくご覧になって下さい!」

 そう言って、小水戸中尉は真剣な面持ちで、私にその脇差を差し出してきた。
 何だろう? また何か良からぬものに巻き込まれるような気が、プンプンとしてきた。

「え、……えぇ。拝見させて頂きます!」

 私はそれを落とさないように注意して受け取ると、その柄(つか)の部分に、何やら特徴のあるモチーフの付いた目貫(めぬき)が施されていて、……。

 何だろうか、……。私は、どこかでそのモチーフを見たことがあるかもと、ふと思ったのだ。

「ハルコン殿、あなたほどのお人です。前世の頃にも、このモチーフをお目にしたことがあられるのではありませんか?」

 小水戸中尉が、そう訊ねてきた。

 確かに、……。私には見覚えのあるモチーフだ。でも、うっすらと記憶に靄がかかってしまっていて、どこで見たのかよく思い出すことができなかった。

「どこかで、……見覚えがあるような気がするのですが、……。まぁ、この形は果物の『桃』ですよね?」

 戸惑いつつも笑顔で返事をしたところ、小水戸中尉はちらりと石原中佐さんを見てから、ひとつ頷いた。

「ハルコン殿、……我々の祖国日本は、古くより『スメラ衆』によって緩やかに統治されてきました。あなたはご存じではありませんか?」

「『スメラ衆』? ですか?」

「えぇ。我々もまた『スメラ衆』、……。あなたもお会いになっている女神様に、恩寵を与えられた者達のことです!」

「……、なるほど」

 どうやら「スメラ衆」というのは、……。女神様と関わりのあった者達のことを言っているらしい。

 確かに、私は女神様と親しくさせて頂いているんだけどさ。
 でも、この「桃」のマークについては、一体どこで見たのか、……。いくら思い出そうとしても、なかなかできなかったんだよね。
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