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波乱のバンド練習。
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バラエティ収録は滞りなく終わり、車での移動を挟んで休みなくバンド練習に向かう。
明日は音楽番組での演奏だ。
まだ俺たちはデビューしたててオリジナル曲なんて数曲しかないのにこうして毎回練習が必要なのは、
ほぼ全員が楽器初心者の状態だからである。
正直歌番組で披露する度にボロボロすぎて恥ずかしくなってくるレベルだし。
しばらくは被せでいこうかってことになっていたんだけど、今回の歌番組は基本生演奏しか許されない方針らしい。
「はぁー、かったりい。帰っていいか?」
仁がだるそうにドラムスティックを持ち特に練習するわけでもなく、くるくるとスティック回しをしている。
「そういうなってー、次生演奏なんだから練習していこうよー」
俺がやんわりそういうと、反対側からも抗議の声が上がる。
「僕もかえっていいかなあ?ボーカルなんていてもいなくても一緒じゃないかなあ」
「夏音が言うならそうでしょう。夏音が帰るのなら僕も帰りますね。意味ないですし」
あぁまたこれだ。
そう、練習が練習にならない。だからいつまで経っても上達しない。
夏音の『ボーカルなんていてもいなくても一緒』って言葉は、俺たちのことをカラオケ音源か何かと勘違いしてるのかと思いかねない。
悪気なく言ったのかもしれないけど、自分は歌うだけでいいとでも思ってるんだろうか。
俺は夏音のそういうところが苦手だった。
「ほら久々の生演奏だしさ?そういわず、ちょっとでも練習しておこうよ」
「鈴夜、いい、気にするな。無理やり練習させたって気持ちが入らないだけだ」
「沙月…でも…」
どうやら沙月はもうこの状況を諦めているらしかった。
「さすが沙月くん!乗り気じゃないときにやったって非効率だもんね。
沙月くんは本当にやさしいよね」
夏音のその言葉の続きは多分(鈴夜と違って)だろうな、思いながら、
ああ多分こいつには何を言っても無駄だろうなと感じた。
夏音は物事を言い風にとらえて、都合のいいようにしていくけれど、本当にそれでいいんだろうか?
けど、俺にはこの状況がどうしたらよくなっていくのかもわからなかった。
「じゃあ俺は帰るぞ」
そう言って仁がドラムスティックを無造作に放り投げ、鞄を粗雑に取り上げスタジオを出ていく。
「では僕たちも帰りましょうか、夏音」
「うん。僕たちもいこっか。沙月くんも帰る?」
なぜか沙月にだけ声をかけた夏音だが、沙月は首を横に振る。
「…そっか、早く帰ってきてね」
そうしてバンドメンバー3人を見送って、取り残されたのは俺と沙月。
これもいつも通りだった。
「じゃあ、各自個人練習だね!さ、やるぞー」
「…そうだな」
静けさの中で、俺たちは黙々とセッティングをする。
バンドで練習したことなんて、たった片手で数えきれるほどじゃないだろうか。
心の中で思っていたことがつい口に出る。
「俺たちってバンドなのかなあ。歌番組だって被せでほぼ演奏してないしさ」
「…どうだろうな」
またシン、と静まり返る部屋の中で、周りの音をかき消すようにアンプのゲインを上げた。
明日は音楽番組での演奏だ。
まだ俺たちはデビューしたててオリジナル曲なんて数曲しかないのにこうして毎回練習が必要なのは、
ほぼ全員が楽器初心者の状態だからである。
正直歌番組で披露する度にボロボロすぎて恥ずかしくなってくるレベルだし。
しばらくは被せでいこうかってことになっていたんだけど、今回の歌番組は基本生演奏しか許されない方針らしい。
「はぁー、かったりい。帰っていいか?」
仁がだるそうにドラムスティックを持ち特に練習するわけでもなく、くるくるとスティック回しをしている。
「そういうなってー、次生演奏なんだから練習していこうよー」
俺がやんわりそういうと、反対側からも抗議の声が上がる。
「僕もかえっていいかなあ?ボーカルなんていてもいなくても一緒じゃないかなあ」
「夏音が言うならそうでしょう。夏音が帰るのなら僕も帰りますね。意味ないですし」
あぁまたこれだ。
そう、練習が練習にならない。だからいつまで経っても上達しない。
夏音の『ボーカルなんていてもいなくても一緒』って言葉は、俺たちのことをカラオケ音源か何かと勘違いしてるのかと思いかねない。
悪気なく言ったのかもしれないけど、自分は歌うだけでいいとでも思ってるんだろうか。
俺は夏音のそういうところが苦手だった。
「ほら久々の生演奏だしさ?そういわず、ちょっとでも練習しておこうよ」
「鈴夜、いい、気にするな。無理やり練習させたって気持ちが入らないだけだ」
「沙月…でも…」
どうやら沙月はもうこの状況を諦めているらしかった。
「さすが沙月くん!乗り気じゃないときにやったって非効率だもんね。
沙月くんは本当にやさしいよね」
夏音のその言葉の続きは多分(鈴夜と違って)だろうな、思いながら、
ああ多分こいつには何を言っても無駄だろうなと感じた。
夏音は物事を言い風にとらえて、都合のいいようにしていくけれど、本当にそれでいいんだろうか?
けど、俺にはこの状況がどうしたらよくなっていくのかもわからなかった。
「じゃあ俺は帰るぞ」
そう言って仁がドラムスティックを無造作に放り投げ、鞄を粗雑に取り上げスタジオを出ていく。
「では僕たちも帰りましょうか、夏音」
「うん。僕たちもいこっか。沙月くんも帰る?」
なぜか沙月にだけ声をかけた夏音だが、沙月は首を横に振る。
「…そっか、早く帰ってきてね」
そうしてバンドメンバー3人を見送って、取り残されたのは俺と沙月。
これもいつも通りだった。
「じゃあ、各自個人練習だね!さ、やるぞー」
「…そうだな」
静けさの中で、俺たちは黙々とセッティングをする。
バンドで練習したことなんて、たった片手で数えきれるほどじゃないだろうか。
心の中で思っていたことがつい口に出る。
「俺たちってバンドなのかなあ。歌番組だって被せでほぼ演奏してないしさ」
「…どうだろうな」
またシン、と静まり返る部屋の中で、周りの音をかき消すようにアンプのゲインを上げた。
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