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本編
6 魔法学園 前編
しおりを挟むごきげんよう、ヒステリア・ジークハイドです。
十五歳の秋、魔法学園の一回生となりました。
入学式の朝までベッドの支柱にしがみ付いて抵抗したものの、もちろん抗う事は出来なかった。そりゃもう、家庭内に誰も味方がいない孤立無援状態。
両親と兄は勿論賛成。我が家は、女性にも教育は積極的に推進する派です。
バルタザールも「お嬢様の見識を広めるためには涙をのんで……」とか、わりとまともな事を言ってきて、ほんとゲームの強制力が怖くなってきた。いつもは超過保護なのに。
妹成分に飢えていたヒューは、荷詰めを頼まれてもいないのに手伝いはじめる始末。
「毎朝起こしに伺いますね」とか、人の枕を鞄に勝手に詰めながら鼻歌まじりだった。
女子寮と男子寮は離れているけれど、規則とか距離とかその他もろもろを軽く乗り越えて、本当に毎朝起こしに来る。
ところで、鞄に詰めていた枕は何処に行ったの。あれ以来寮でも邸でも見かけないんだけど。
愛犬のマルロイとゾルホイさえ引き留めてくれなかった。嬉しそうに尻尾を振りおってからに!
どうやら三年続けて誕生日に悲鳴をあげたのがいけないらしい。私を見ると耳を伏せる癖が付いた。私の声はそんなに公害か。尻尾は振るくせに耳は伏せてるなんて、複雑な気分で邸を後にした。
・・・・・・・・・・・
嫌々ながら入った魔法学園だけれど、楽しいことの方が多い。
ベルとは同じクラスになれたし、級友にも恵まれている。
男装をするようになってから覚えた剣術も、ここでは授業があるので続けられるから嬉しい。男子の制服だって慣れてしまえば色も女子と同系色だし、そこまで違和感ないような気がしてくる。みんな普通に声を掛けてくれるしね。
私の剣の師はバルタザールだ。兄もヒューも彼に師事しているので、兄弟弟子ということになる。
いつもは筋肉で人を押しつぶそうとしてくるべた甘執事なのに、剣の腕は確かで驚いた。昔は冒険者だったという噂も、本当かもしれない。
剣に関しては一切妥協しない人なので、しっかり稽古を付けてもらった。
お蔭で、今では「マリベル姫の呪いの騎士」なんて渾名が増えた。「の」が多い。
この世界は渾名や二つ名を付けるのが好きらしい。但し私とベルの関係は本物の騎士が見たら青筋ものの馴れ合い仲良しなので、あくまで渾名です。
……呪いが私の名前に当たり前に入ってくる件はもう諦めた。人の噂も七十五日って諺は、この世界には適用しないようです。ちょっとRPGとかの副題みたいで格好いいとか思うくらいには、私も調教されました。
魔法学や薬草学の授業は面白いし、幅広い種族の人々と交流できるのはすごく新鮮で楽しい。貴族の中には上流社会の人間以外とは口もきかないという者もいるけれど、絶対に損してると思う。兄曰く「学園に在籍する意義を忘れた馬鹿者」である。
このあたりの、人間貴族の派閥対立は面倒なので割愛します。
だって単純に、モフモフしたウサギ獣人の同級生は全身撫でまわしちゃうくらい可愛いし、魔族の友達は独特の価値観を持っていて勉強になる。
ファンタジー世界の中でも更に無国籍なこの場所を楽しまないなんて、つまらない。
楽しいことが多いと言ったけれど、楽しくない事も中にはある。
そのひとつがこれ。
侍女と騎士見習いの生徒を引き連れて、どこかの教授の回診かと思う一団がやってくる。白い巨塔? ここは白い巨塔なの?
「まあ」
今し方気付きましたと言わんばかりの反応で、パチンと彼女は扇を閉じる。
金糸の髪に灰青の瞳。
毎朝鏡の前で見る自分の姿と、そっくりな彼女。
「ごきげんよう、姉上」
「ごきげんよう、ササミラ様」
微笑み礼を取ったベルに合わせて、私も頭を下げる。
「ごきげんよう。ベルにテリア」
にっこり笑んだその人は、ササミラ第一王女。
二つ年上の従姉のお姫様は、口角を上げて今日もいたぶる目をしている。
テリアって呼ぶなああ!
前世のゲームの攻略サイトでは、私達お邪魔キャラにも渾名が付いていた。横文字カタカナ名よりも覚えやすいからっていうのもあるけれど、邪魔ばっかりしてくるキャラへの苛立ちもぶつけられていたのかもしれない。
私はヒステリアだから、テリア。転じて犬とか一文字で書かれていた気がする。
ササミラ姫はササミなので鳥。因みにベルは鈴だった。鈴って!
テリアって呼ばれると、どうしても頭をもふっとしたワンコがよぎるから、周りにはリアって呼んでもらっている。たとえこの世界にテリア種がいなくても。
な の に!
この鳥ササミ姫はテリア呼びを止めやしない。昔は違っていた。普通にリアって呼んでくれてたのに、この学園に通うようになってから急にだ。
ちょっとだけゲームのせいかなとも思うけれど、私はゲームの主人公じゃないんだし、変な感じだ。
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