呪い付き令嬢ヒステリア

アルカ

文字の大きさ
7 / 18
本編

6 魔法学園 前編

しおりを挟む
 

 ごきげんよう、ヒステリア・ジークハイドです。
 十五歳の秋、魔法学園の一回生となりました。

 入学式の朝までベッドの支柱にしがみ付いて抵抗したものの、もちろん抗う事は出来なかった。そりゃもう、家庭内に誰も味方がいない孤立無援状態。

 両親と兄は勿論賛成。我が家は、女性にも教育は積極的に推進する派です。
 バルタザールも「お嬢様の見識を広めるためには涙をのんで……」とか、わりとまともな事を言ってきて、ほんとゲームの強制力が怖くなってきた。いつもは超過保護なのに。

 妹成分に飢えていたヒューは、荷詰めを頼まれてもいないのに手伝いはじめる始末。
「毎朝起こしに伺いますね」とか、人の枕を鞄に勝手に詰めながら鼻歌まじりだった。
 女子寮と男子寮は離れているけれど、規則とか距離とかその他もろもろを軽く乗り越えて、本当に毎朝起こしに来る。
 ところで、鞄に詰めていた枕は何処に行ったの。あれ以来寮でも邸でも見かけないんだけど。

 愛犬のマルロイとゾルホイさえ引き留めてくれなかった。嬉しそうに尻尾を振りおってからに!
 どうやら三年続けて誕生日に悲鳴をあげたのがいけないらしい。私を見ると耳を伏せる癖が付いた。私の声はそんなに公害か。尻尾は振るくせに耳は伏せてるなんて、複雑な気分で邸を後にした。


 ・・・・・・・・・・・


 嫌々ながら入った魔法学園だけれど、楽しいことの方が多い。

 ベルとは同じクラスになれたし、級友にも恵まれている。
 男装をするようになってから覚えた剣術も、ここでは授業があるので続けられるから嬉しい。男子の制服だって慣れてしまえば色も女子と同系色だし、そこまで違和感ないような気がしてくる。みんな普通に声を掛けてくれるしね。

 私の剣の師はバルタザールだ。兄もヒューも彼に師事しているので、兄弟弟子ということになる。
 いつもは筋肉で人を押しつぶそうとしてくるべた甘執事なのに、剣の腕は確かで驚いた。昔は冒険者だったという噂も、本当かもしれない。
 剣に関しては一切妥協しない人なので、しっかり稽古を付けてもらった。
 お蔭で、今では「マリベル姫の呪いの騎士」なんて渾名が増えた。「の」が多い。
 この世界は渾名や二つ名を付けるのが好きらしい。但し私とベルの関係は本物の騎士が見たら青筋ものの馴れ合い仲良しなので、あくまで渾名です。

 ……呪いが私の名前に当たり前に入ってくる件はもう諦めた。人の噂も七十五日って諺は、この世界には適用しないようです。ちょっとRPGとかの副題みたいで格好いいとか思うくらいには、私も調教されました。


 魔法学や薬草学の授業は面白いし、幅広い種族の人々と交流できるのはすごく新鮮で楽しい。貴族の中には上流社会の人間以外とは口もきかないという者もいるけれど、絶対に損してると思う。兄曰く「学園に在籍する意義を忘れた馬鹿者」である。
 このあたりの、人間貴族の派閥対立は面倒なので割愛します。
 だって単純に、モフモフしたウサギ獣人の同級生は全身撫でまわしちゃうくらい可愛いし、魔族の友達は独特の価値観を持っていて勉強になる。
 ファンタジー世界の中でも更に無国籍なこの場所を楽しまないなんて、つまらない。


 楽しいことが多いと言ったけれど、楽しくない事も中にはある。
 そのひとつがこれ。

 侍女と騎士見習いの生徒を引き連れて、どこかの教授の回診かと思う一団がやってくる。白い巨塔? ここは白い巨塔なの?

「まあ」
 今し方気付きましたと言わんばかりの反応で、パチンと彼女は扇を閉じる。
 金糸の髪に灰青の瞳。
 毎朝鏡の前で見る自分の姿と、そっくりな彼女。

「ごきげんよう、姉上」
「ごきげんよう、ササミラ様」
 微笑み礼を取ったベルに合わせて、私も頭を下げる。

「ごきげんよう。ベルにテリア・・・

 にっこり笑んだその人は、ササミラ第一王女。
 二つ年上の従姉のお姫様は、口角を上げて今日もいたぶる目をしている。

 テリアって呼ぶなああ!


 前世のゲームの攻略サイトでは、私達お邪魔キャラにも渾名が付いていた。横文字カタカナ名よりも覚えやすいからっていうのもあるけれど、邪魔ばっかりしてくるキャラへの苛立ちもぶつけられていたのかもしれない。

 私はヒステリアだから、テリア。転じて犬とか一文字で書かれていた気がする。
 ササミラ姫はササミなので鳥。因みにベルは鈴だった。鈴って!
 テリアって呼ばれると、どうしても頭をもふっとしたワンコがよぎるから、周りにはリアって呼んでもらっている。たとえこの世界にテリア種がいなくても。
 な の に!
 この鳥ササミ姫はテリア呼びを止めやしない。昔は違っていた。普通にリアって呼んでくれてたのに、この学園に通うようになってから急にだ。
 ちょっとだけゲームのせいかなとも思うけれど、私はゲームの主人公じゃないんだし、変な感じだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

好きだけど、一緒にはなれません!! 転生した悪役令嬢は逃げたいけれど、溺愛してくる辺境伯令息は束縛して逃がしてくれそうにありません。

みゅー
恋愛
辺境伯の屋敷でメイドをしているアメリ。地枯れという呪術により、その土地から離れられない運命を背負っていた。 ある日、ずっと好きだった雇い主の令息であるシメオンを体を張って守ったことで、アメリは大怪我をする。 そして、怪我の治療で臥せっているあいだにアメリは自分の前世を思い出す。そして、目覚めた時にハッキリと自覚した。 私は乙女ゲームの中に転生している!! しかも自分はとある伯爵の娘であり、後に現れるゲームのヒロインをいじめるライバル悪役令嬢であった。 そして、もしもヒロインがシメオンルートに入ると自分が断罪されると気づく。 アメリは断罪を避けるべく、ヒロインが現れたら潔く身を引くことを決意する。 そんな中、ついにヒロインが現れシメオンに興味をもつようになり…… だが、シメオンは何故かアメリに執着しアメリに対する好意を隠そうともしない。そんなシメオンにアメリは困惑するのだった。 アメリは断罪を避け呪術から解放され幸せになれるのか?! 運命に抗う悪役令嬢のラブストーリー。 ※只今工事中

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!

エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」 華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。 縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。 そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。 よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!! 「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。 ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、 「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」 と何やら焦っていて。 ……まあ細かいことはいいでしょう。 なにせ、その腕、その太もも、その背中。 最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!! 女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。 誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート! ※他サイトに投稿したものを、改稿しています。

社畜の私は異世界でも社畜精神が残ったままだった

木嶋うめ香
恋愛
貴族学園の小さな部屋で、私は一人書類仕事に追われていた。 今日も寮には帰れそうにない、机の上には大量の未処理の書類。 せめて空腹を紛らわそうと、ビスケットを鞄から取り出し水を汲んでこようとして立ち上がった途端、視界が暗くなり倒れた。 床に倒れた反動で、頭を床にぶつける。 その衝撃で思い出した、私は前世ブラック企業に勤めていた社畜で、二十三連勤サービス残業付きの末、体調を崩し亡くなったアラサー営業職だった。 他サイトでもアップしています。

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

処理中です...