ファザー・マーキュリー|15才で孤児院長の奮闘記

サトノハ

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院長は15歳

はじめての仲直り

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 みんなのキラキラとした表情を受け、僕は密かに抱いた危惧を、ソッと心の底に仕舞った。

「こんなに、たくさん」

 ニーナの目にキラリと光る物があった。

 恐らく、今までも彼女は、この家の食事を賄っていたことだろう。限りある食材で腹を満たせるかどうかというだけの、味気ない食事に人一倍苦い気持ちを抱いていたのもニーナだったのだろう。そんな、彼女の感情の一端が垣間見られた。

「今日は、ご馳走にしてくれると嬉しいな」

 僕はソッと、彼女の背を押した。

 ややあって、彼女は無言でコクりと頷いた。

「うおー!」

 瞬間、トマスが吠えた。

「聞いたか? ゴンズ! 今夜はご馳走だ!」

 言われたゴンズは、黙って頷く。

「こうしちゃいられねぇ! 先ずは薪か? んで水だな!」

 全く以て、現金な話だが、トマスのやる気はうなぎ登りだ。あっという間に倉庫のある裏口に辿り着くと、扉に手を掛け
「何してんだ! ゴンズ! チビども!  早くしろ!」
後ろを振り返り叫びながら、扉を開けた。

 そこには、ドリーがサリーを伴って立っていた。

 僕は一目散に彼女に駆け寄る。

「ごめんなさい!」

 そうして、頭を深々と下げた。

「あれは、明らかに僕のやり過ぎだった。謝ったからって、許されようとも思っていない。それでも、どうしても、謝意だけは伝えたい」

 僕は、頭を下げているので、彼女の表情を伺い知る事は出来ない。まぁ、彼女の気持ちはどうでも良い。謝罪なんて物は、“彼女に謝罪した僕”という僕自身への断罪と、ある種の欺瞞にも似た、ただの独り善がりな自己満足なのだから。
 謝罪すれば許されるなんて思う方が相手に失礼であり、そんな気持ちを欠片でも抱いて謝罪するのなら、まるで意味がない。
 それは、謝罪ではなく、ただの言い逃れだ。僕は、自分を貶めたくないから、自分の罪に真摯に向き合う。

 そりゃあ、僕も俗物なので、謝罪を受け入れて許してくれるというのなら、願ったり叶ったりだけど。

「もう、良いよ。頭を上げて」

 サリーの声は優しかった。

「あたしもちょっと大人気なかったかな…なんて…」

(大人じゃないから、大人気は関係ないんじゃないかな)

 僕は、どうにもサリーをからかってしまいたくなるらしい。内心に浮かんだそんな言葉を、僕はしっかりと飲み込んだ。同じ轍は踏まない。僕も少しは出来る男なのだ。

「それにしても、何の騒ぎなの?」

 どうやら先程までの騒ぎが気になって戻ってきたらしい。

「サリー! ドリー! スゲーんだ! いっぱいで、ご馳走なんだ!」

 僕のサリーへの謝罪に、フリーズしていたトマスが再起動を果たして、全く要領は得ていないが捲し立てる。

「はぁ?」

 ドリーの頭の上が疑問符だらけになり、
「ちょっと落ち着いてよ。トマス」
サリーからは、さっき誰かが言っていたような言葉を頂戴することとなった。
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