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第二章 男の娘と百合の園
第八話 部活はどこにする?
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その日の授業は、午前中しかなかった。
授業が終わり、梨恵が近づいてくる。
「いちごちゃん、いっしょ学食いかん?」
うん――と、一冴はうなづいた。
寮は台所が開放されているため、弁当を作ってくる寮生もいる。しかし、この学校には学食があるので、どちらかと言えばそちらを利用したかった。
「えーっと、菊花ちゃんは――」
言って、梨恵は教室を見回す。
しかし菊花の姿はない。
梨恵と共に教室から出る。
すると、廊下の向こうに菊花の後ろ姿が見えた。
そんな菊花へ梨恵は近寄る。
「菊花ちゃん、どこ行くー?」
菊花は振り返り、一冴の姿を目にして顔をそむける。
「学食。」
「なら、一緒いかんかえ?」
「別にいいけど。」
どことなく機嫌が悪いのを察したようだ――困惑したような視線を梨恵はよこす。
何も知らないふりをして一冴は首をひねった――心の中で毒づきながら。
――仕方なかったじゃないか。
女子校へ通う以上、こういうことが起きると菊花も分かっていたはずだ。
しかしその後ろ姿を目にしていると、菊花との深い溝を感じた。女子として生まれたことは、ここにいる当然の権利があることなのだ。
学食へついた。
カウンターのケースには様々な料理が竝んでいる。パンやスクランブルエッグ、ベーコン、ごはんや味噌汁などの和食もある。猫うどんと犬うどんもあった。特に、猫うどんは白山女学院の名物だ。
三人とも猫うどんを頼み、会計を済ませる。
そしてテーブルに着いた。
うどんの上には、大量のかつおぶしが載せられていた。猫の形のかまぼこと、梅干しとねぎも添えられている。
昼食を前にして、菊花の機嫌も少し直ったようだ。
名物だけあり、猫うどんはかつおぶしの香りと旨みが効いていた。
ふと、食堂に這入って来た少女の姿が目に入る。
元伯爵家の気品を感じさせる歩き方と、かすかにゆれる栗色の髪。
隣には、長いお下げの少女がいる。凛とした顔は、貴人に仕える従者のようだ。
ふと、梨恵が発した言葉で一冴の意識は引き戻された。
「二人は、部活ってどっか入るん?」
「部活?」
「明日から部活が始まるが? やっぱ、どっか入ったほうがええがん。」
問い返したのは菊花だ。
「むしろ、梨恵はどっか入る予定あんの?」
「うちはテニス部! 中学のとき、ずっとテニス部だっただけえ。で、受験で暫くやっとらんかったし、高校に入ったらまた始めたいなって思っとったにぃ。」
そう――と言い、一冴は考える。
入る部活はもう決めている。だが、菊花に知られたくない。
「私は、どちらかといえば文化系かな。放課後は静かに過ごしたいって思ってるし。」
菊花も同意する。
「私も運動部は苦手。入るなら文化部になると思う。けど、入りたい部活は特にないし、帰宅部かも。」
「それかぁ。」
梨恵はやや残念そうな顔をする。
食堂の片隅へと一冴は目をやる。
そして、テーブルにつく蘭と目が合った。というより、蘭の方が先に顔を向けていたのだ。
刹那、にこりと蘭はほほえむ。
胸が閊えたような感覚がして、顔をそらした。
そんな一冴の様子に気づいたらしい。梨恵が問いかける。
「気になるぇ? 鈴宮先輩。」
「いや――別に。」
「ほんにー。うちは気になるけど。」
「そうなの?」
「だって、生徒会の鈴宮先輩だらぁ?」
「生徒会?」
「うん。生徒会書記の――。白山の生徒会って選挙が一度も行なわれたことないだけん。生徒会長も役員も先生が選んどるだって。成績や家柄で決めるとか。」
「そう――なんだ。」
成績も家柄も――蘭と自分とでは違うのだ。
「でなー、鈴宮先輩は次の生徒会長かもしれんだって。」
菊花も、興味深そうに目をやる。
「隣にいるのは高島先輩だっけか。確か、鈴宮先輩のルームメイトだったと思うけど。易占いで有名な高島家のお嬢さんだって。」
易占い――と一冴は問う。
「うん。高島断易とは違うらしいんだけどね。」
梨恵が箸を止める。
「あ――なんか聞いたことある。政治家とか経営者とかの御用達になっとるとこだら? 高島先輩も易占いしんさるらしいだけど。」
「へえ――」
本当に――ここは名家の娘ばかりらしい。
授業が終わり、梨恵が近づいてくる。
「いちごちゃん、いっしょ学食いかん?」
うん――と、一冴はうなづいた。
寮は台所が開放されているため、弁当を作ってくる寮生もいる。しかし、この学校には学食があるので、どちらかと言えばそちらを利用したかった。
「えーっと、菊花ちゃんは――」
言って、梨恵は教室を見回す。
しかし菊花の姿はない。
梨恵と共に教室から出る。
すると、廊下の向こうに菊花の後ろ姿が見えた。
そんな菊花へ梨恵は近寄る。
「菊花ちゃん、どこ行くー?」
菊花は振り返り、一冴の姿を目にして顔をそむける。
「学食。」
「なら、一緒いかんかえ?」
「別にいいけど。」
どことなく機嫌が悪いのを察したようだ――困惑したような視線を梨恵はよこす。
何も知らないふりをして一冴は首をひねった――心の中で毒づきながら。
――仕方なかったじゃないか。
女子校へ通う以上、こういうことが起きると菊花も分かっていたはずだ。
しかしその後ろ姿を目にしていると、菊花との深い溝を感じた。女子として生まれたことは、ここにいる当然の権利があることなのだ。
学食へついた。
カウンターのケースには様々な料理が竝んでいる。パンやスクランブルエッグ、ベーコン、ごはんや味噌汁などの和食もある。猫うどんと犬うどんもあった。特に、猫うどんは白山女学院の名物だ。
三人とも猫うどんを頼み、会計を済ませる。
そしてテーブルに着いた。
うどんの上には、大量のかつおぶしが載せられていた。猫の形のかまぼこと、梅干しとねぎも添えられている。
昼食を前にして、菊花の機嫌も少し直ったようだ。
名物だけあり、猫うどんはかつおぶしの香りと旨みが効いていた。
ふと、食堂に這入って来た少女の姿が目に入る。
元伯爵家の気品を感じさせる歩き方と、かすかにゆれる栗色の髪。
隣には、長いお下げの少女がいる。凛とした顔は、貴人に仕える従者のようだ。
ふと、梨恵が発した言葉で一冴の意識は引き戻された。
「二人は、部活ってどっか入るん?」
「部活?」
「明日から部活が始まるが? やっぱ、どっか入ったほうがええがん。」
問い返したのは菊花だ。
「むしろ、梨恵はどっか入る予定あんの?」
「うちはテニス部! 中学のとき、ずっとテニス部だっただけえ。で、受験で暫くやっとらんかったし、高校に入ったらまた始めたいなって思っとったにぃ。」
そう――と言い、一冴は考える。
入る部活はもう決めている。だが、菊花に知られたくない。
「私は、どちらかといえば文化系かな。放課後は静かに過ごしたいって思ってるし。」
菊花も同意する。
「私も運動部は苦手。入るなら文化部になると思う。けど、入りたい部活は特にないし、帰宅部かも。」
「それかぁ。」
梨恵はやや残念そうな顔をする。
食堂の片隅へと一冴は目をやる。
そして、テーブルにつく蘭と目が合った。というより、蘭の方が先に顔を向けていたのだ。
刹那、にこりと蘭はほほえむ。
胸が閊えたような感覚がして、顔をそらした。
そんな一冴の様子に気づいたらしい。梨恵が問いかける。
「気になるぇ? 鈴宮先輩。」
「いや――別に。」
「ほんにー。うちは気になるけど。」
「そうなの?」
「だって、生徒会の鈴宮先輩だらぁ?」
「生徒会?」
「うん。生徒会書記の――。白山の生徒会って選挙が一度も行なわれたことないだけん。生徒会長も役員も先生が選んどるだって。成績や家柄で決めるとか。」
「そう――なんだ。」
成績も家柄も――蘭と自分とでは違うのだ。
「でなー、鈴宮先輩は次の生徒会長かもしれんだって。」
菊花も、興味深そうに目をやる。
「隣にいるのは高島先輩だっけか。確か、鈴宮先輩のルームメイトだったと思うけど。易占いで有名な高島家のお嬢さんだって。」
易占い――と一冴は問う。
「うん。高島断易とは違うらしいんだけどね。」
梨恵が箸を止める。
「あ――なんか聞いたことある。政治家とか経営者とかの御用達になっとるとこだら? 高島先輩も易占いしんさるらしいだけど。」
「へえ――」
本当に――ここは名家の娘ばかりらしい。
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