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第八章 白山女子寮連続パンツ失踪事件-後編
第一話 二十五人の消えたパンツ
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翌日・月曜日の三時間目の授業は美術であった。
クラスメイト達は美術室へ集まり、撮ってきた写真を元にそれぞれ水彩画を描いている。室内は空調が効いていた。涼しい空気に触れると、夏になったという感じがようやくする。
絵を描きながら、ふっと梨恵は口を開いた。
「伊吹先生、倒れとったらしいな。」
「うん」と一冴はうなづく。「なんか、廊下で寝てたって話だけど。」
紅子は怪訝な顔となる。
「大丈夫なのか――あの人は? 一昨日も、鼻血をどばどば出しながら廊下を駆けまわってたし。それが――廊下に倒れて寝てたって。」
「一体、何があっただらぁな?」
「さあ――」
菊花が口をはさんだ。
「彩芽先輩も、何か変な感じだったよね。やつれてる――っていうか。元気がなさそう――っていうか。そのくせして、なんか私に目を向けてきて、ぎょっとした顔してたんだけど。」
紅子は溜息をつく。
「なんか、最近、寮では変なことが立て続けに起きてないか? パンツはなくなるわ、薄い本は置かれてるわ、寮長先生は倒れるわ――。私たちの知らないところで何かが起きつつあるんじゃ――」
一瞬、その場が静まり返った。
本当に変なことばかりが起きていると、梨恵もそう思う。しかし、紅子の言った「何か」について自分は触れてしまったのではないか。
気にかかって、梨恵は尋ねる。
「ところで、菊花ちゃん――パンツがなくなった件で、何か分かったことあるん? 聴き込み調査、土日もやっとっただら?」
「まあ、少しは。――気になるの?」
「ちょっとだけ。それに、テニス部の先輩からも訊かれとるだけど――あの東條さんって子が、パンツのことについて昼休みに聴きに来とるって。」
菊花は恥ずかしそうに目をそらし、そう、と言う。
「とりあえず、分かったことは――去年から今年にかけて、卒業生も含めて二十五人ものパンツが盗まれてるってこと。」
「――二十五人も?」
「うん。中には、干す前に消えてたっていう人もいた。――やっぱり、全ての事件は同一人物の犯行で、しかも寮生で間違いないと思う。」
――二十五人ものパンツが去年から消え続けている。
犯人が同一人物ということは――やはり事件と一冴は関係がないのか。
「あと、気になったのは――蘭先輩って保健委員だったのね。」
「それが?」
「いや――あの人のイメージじゃなかったから意外に思って。てっきり、図書委員かと思ってた。中学のときも、ずっと図書委員だったわけだから。」
「へえ。」
「それと、鎮守の杜の入り口に東屋があるでしょ? あそこで何度か――」
授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
ひとまず、授業の後始末をする。
教室へと四人は戻った。
ロッカーへ菊花は寄る。
バッグを開け、次の授業の準備を始めようとする。白い物が奥で融けているのを見たのはそのときだ。
しまった――と思う。既に夏であることを忘れていた。まさかこの気温で融けるとは思わなかったのだ。
クラスメイト達は美術室へ集まり、撮ってきた写真を元にそれぞれ水彩画を描いている。室内は空調が効いていた。涼しい空気に触れると、夏になったという感じがようやくする。
絵を描きながら、ふっと梨恵は口を開いた。
「伊吹先生、倒れとったらしいな。」
「うん」と一冴はうなづく。「なんか、廊下で寝てたって話だけど。」
紅子は怪訝な顔となる。
「大丈夫なのか――あの人は? 一昨日も、鼻血をどばどば出しながら廊下を駆けまわってたし。それが――廊下に倒れて寝てたって。」
「一体、何があっただらぁな?」
「さあ――」
菊花が口をはさんだ。
「彩芽先輩も、何か変な感じだったよね。やつれてる――っていうか。元気がなさそう――っていうか。そのくせして、なんか私に目を向けてきて、ぎょっとした顔してたんだけど。」
紅子は溜息をつく。
「なんか、最近、寮では変なことが立て続けに起きてないか? パンツはなくなるわ、薄い本は置かれてるわ、寮長先生は倒れるわ――。私たちの知らないところで何かが起きつつあるんじゃ――」
一瞬、その場が静まり返った。
本当に変なことばかりが起きていると、梨恵もそう思う。しかし、紅子の言った「何か」について自分は触れてしまったのではないか。
気にかかって、梨恵は尋ねる。
「ところで、菊花ちゃん――パンツがなくなった件で、何か分かったことあるん? 聴き込み調査、土日もやっとっただら?」
「まあ、少しは。――気になるの?」
「ちょっとだけ。それに、テニス部の先輩からも訊かれとるだけど――あの東條さんって子が、パンツのことについて昼休みに聴きに来とるって。」
菊花は恥ずかしそうに目をそらし、そう、と言う。
「とりあえず、分かったことは――去年から今年にかけて、卒業生も含めて二十五人ものパンツが盗まれてるってこと。」
「――二十五人も?」
「うん。中には、干す前に消えてたっていう人もいた。――やっぱり、全ての事件は同一人物の犯行で、しかも寮生で間違いないと思う。」
――二十五人ものパンツが去年から消え続けている。
犯人が同一人物ということは――やはり事件と一冴は関係がないのか。
「あと、気になったのは――蘭先輩って保健委員だったのね。」
「それが?」
「いや――あの人のイメージじゃなかったから意外に思って。てっきり、図書委員かと思ってた。中学のときも、ずっと図書委員だったわけだから。」
「へえ。」
「それと、鎮守の杜の入り口に東屋があるでしょ? あそこで何度か――」
授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
ひとまず、授業の後始末をする。
教室へと四人は戻った。
ロッカーへ菊花は寄る。
バッグを開け、次の授業の準備を始めようとする。白い物が奥で融けているのを見たのはそのときだ。
しまった――と思う。既に夏であることを忘れていた。まさかこの気温で融けるとは思わなかったのだ。
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