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【最強の吸血鬼と創造主の力】

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「凛太朗、今、円城寺、えーと室長だっけ、社長の後に何を言ったの?」チェリーは聞き違えたのかなと思い凛太朗に確認した。

「ああ、全宇宙の創造主?とか言った様だが・・・」凛太朗も、円城寺室長が冗談で言ったのか、真面目に言ったのか、どの様に受け取っていいのか戸惑っていた。

そんな二人の様子を見てなのか、自慢げにタイガーは室長について話をした。
「凛太朗、チェリー、大姉御は、この宇宙を作った創造主様だ。
俺も詳しくは知らないが、この世界は一度、崩壊し終焉を迎えたと聞いている。
それを大いなる力で、壊れた現実世界を、以前と、そっくりそのまま同じ世界に再生したそうだ。
そこに住んでいた人も含めてな・・・」

「もう一つ、愛する人を無くして、感情のまま宇宙を消し去ったのも五月だけどね・・・」カトリーヌが、笑いながら言葉を付け加えた。

「もう、カトリーヌたら、それを言わないで」円城寺室長は、ばつが悪そうな仕草をした。

凛太朗は、この世界が、ある時、終わって、それを元のままに作り直したと聞いても俄かに信じ難く、今度は、どう反応していいのか言葉を失った。
この後、凛太朗は彼女の力の片鱗を見る。それは余りのも人と懸け離れた能力だった。

「チェリーさんとか言ったわね、カトリーヌから話を聞いているわ、さっきも言ったけど、抗魔執行官は人手不足なの、あなた執行官にならない?
適格者かどうか、能力を試させて貰う事になるけど、もし、資格があれば今は霊体でしかないあなたに三次元に棲む事ができる元の肉体を与えて、この暗闇しかない黄泉の世界から助けてあげる。
どう、今の話が何を意味するのか分かる?あなたを生き返らせてあげるという事よ!」

「へぇ~そんな事が出来るの、僕には、願っても無い話で断る理由はないわ・・・。
あそうだ、ねえ、頑張るから、もう一つお願いしてもいい。
僕の世界では魔王に苦しめられている。だから僕は敵わないと知りながら魔王に挑んだ。
そして、戦いに敗れた。
死んだ事に僕には悔いがないけど、僕の世界を助けてほしいの・・・」

「それについては神々が目の届かない異次元世界で、最近、闇の勢力が支配地域を広げていると報告を聞いて、最高位の上位神として私も心を痛めている。
そうだな、神の責任だから、あなたの働き次第で力を貸してあげてもいいけれど、先ずは適格者なのか、確かめてさせて貰うわ、これから力を見せて・・・」円城寺五月は、そう言いながら手を少し動かした。

すると暗闇の世界は一変して青い空を仰ぎ見る事ができる広々とした草原に変わった。
その先には見渡す限りの樹海が広がっているのが見える。

「ここには精霊達の声が聞こえる程、原始の大自然があり、精霊魔法に必要なマナが溢れている。
森の民、エルフに取っては最大限に力を発揮できるフィールド( field:競技場・領域 )を用意したわ、デルフィーヌ、彼女の相手をしてあげて・・・」

「はい、マスターご指示のままに・・・」傍らに立っていた美貌の女性は五月に返事をする。
彼女には似合わない黒い羽根を背中から生やし、ドレスを風に靡(なび)かせながら宙を飛ぶ、そして適当な場所を選んで着地した。

「全身の傷は治してあげるから、大自然からマナを貰って力を回復しなさい」五月が掌を向ける光がチェリーを包み、戦いで付いた傷は一瞬にして治った。

チェリーは大自然から息吹を感じた。
水、草、木、風、光、あらゆる物から溢れ出しているマナを全身に受け吸収する。
すると嘗てエルフ魔法王国で精霊魔法の使い手として恐れられた超越者としての自信が再び蘇る。
風魔法を使い対戦者のデルフィーヌが降り立った場所まで、風に乗り魔法使いとしての間合いを考えながら対峙する。

「デルフィーヌさん、だったね、お互い手加減無しでやりましょう」

「願っても無い事」

「じゃ始めるわよ・・・」風魔法を使って仕掛けたのはチェリーだった。
相手が、どの様な戦い方をするのか知りたかったからだ。

「飛べ風の矢よ!」「連射」「吹き荒れよ!矢の嵐」高度な風魔法を続けて繰り出した。

デルフィーヌは片手を挙げる。すると手元が光り、それは長くなりやがて剣になった。
彼女が召喚したのはティソナデルシドという剣で、嘗ては『炎の剣』と呼ばれた魔剣だ。
その剣でチェリーが放った矢をことごとく叩き落とした。
達人級の剣技である。

「なかなかいい攻撃だけれど、直線的な攻撃では私には届かないわ」

「じゃ、これはどう、ウインドカッター、
今度は鎌鼬(かまいたち)よ、これは防げるかしら・・・」つむじ風に乗って見えない風の刃が変則的な動きでデルフィーヌを襲った。

デルフィーヌは、この攻撃も剣で防ごうとするが、防ぎ切れず四方から振り下ろされる風の刃は彼女の体に鋭い傷跡を残した。

「あら・・・」デルフィーヌは珍しい物を見るかの様に傷跡を眺めているが、痛みは感じていない様だ。
そればかりか美人顔に笑みを浮かべる。
ドレスは刃物で切り裂かれた様になり蒼白く透き通る様な肌が露わになったが、傷は直ぐに再生された。

「チェリーさん、デルフィーヌには再生能力があるから手強いわよ。
殺す気で全力を 出さないと勝てないわ・・・」五月が声を掛ける。

チェリーは内心驚いた。
彼女が生きていた魔法王国では傷を治すのはヒールなどの回復魔法を用いられるのが一般的な方法であり、魔法の類を使わず自らの肉体を再生させる事ができるのは魔族、それも魔将軍クラスに限られたからだ。
「彼女は魔族・・・」そう思うと彼女の脳裏に魔王に敗れた時の死に際の瞬間が鮮明に蘇る。
魔王城に攻め入って極大魔法で魔王を倒したと思った瞬間だった。
痛みが全身に走り彼女は床に崩れ落ちた。
魔王は瞬間的に体を再生し、転移によって彼女の背後から魔剣で心臓を貫いたのだ。

彼女の怒りが最高潮になる。
心の変化には魔法力に影響を及ぼした。
風や水は静、火や雷は怒りである。
チェリーは大きな炎の塊りを空中に作り出しデルフィーヌに向かって放った。

その炎の塊は途中から幾つかに分かれて意思を持った生き物の様にデルフィーヌの周りを飛び回る。
チェリーは、それをコントロールし攻撃をする。
一つの火炎弾を真上に浮かし、そこから火の雨を降らしながら幾つかの塊りをデルフィーヌに向けて飛ばした。だが、これらの攻撃はフェイントだった。
更に大きな火炎の塊りを空中に作り出し浮遊させていたのだ。
デルフィーヌは火炎の弾を魔剣で叩き落として攻撃を回避したが、ステルス(stealth:隠密)弾となって近づいて来た火炎の塊りに気付くのが一瞬、遅った。
チェリーは彼女を捉えたと思い勝利を確信する。
だが・・・爆発の後もデルフィーヌは平然とした表情をして立っていた。

攻撃の後、彼女の姿は一変していた。
何時の間にか姿は着ていた白いドレスから黒いジャケット・ブラウス・パンツ姿に変わっていたのだ。
奇麗な顔には牙が、背中からは蝙蝠の羽根が見える。
そう彼女は吸血鬼だった。

「ははは・・・あなた、なかなかいい攻撃をするのね、驚いたわ・・・。
じゃ、今度は私が攻撃するわね」

デルフィーヌは、そう宣言すると持っているソナデルシドに闘気を流した。
「炎の剣」と呼ばれた魔剣から青白い炎が立ち上がる。
掌を突き出し黒い闘気の塊を飛ばして攻撃した。
チェリーは慌てて風魔法で防御壁を作り防ぐ、だが、攻撃はそれだけでは無かった。
魔剣から火炎竜が飛び出し襲って来たのだ。
慌てて風の盾に強化魔法を掛けた。火炎竜は盾に衝突し霧散した様に見えたが、今度は小竜になり盾を乗り越えてチェリーを襲った。
「きゃー・・・」チェリーは竜に襲われて再びボロボロになり大地に倒れ込んだ。
完全な負けだった。

「カトリーヌ、どう、彼女、抗魔執行官にとして、使えるかしら・・・?」

「そうだな、確かにデルフィーヌに負けたけれど、彼女は悪魔と戦っても後れを取ることが無い最強の吸血鬼だ。
普通に考えれば勝つ方が珍しいんじゃない。それに悪魔と戦うには強さだけじゃ絶対に勝てない。メンタル面で強くないと・・・。
僕には彼女にそれがある様に思うんだ。」

「分かった。カトレーヌが、そう言うなら今度は私が確かめて見るわ。
さあ、チェリー、もう一度立ち上がりなさい。」

五月がそう言うとボロボロになって気を失っていたチェリーが目を覚まし立ち上がった。
神通力やヒーリングを使った様子はない。今度は言葉だけで、チェリーが受けたダメージが回復させた。
まさに神技である。
彼女は、何が起こったのか、状況が掴めず不思議な顔をしている。

「チェリー、これから最後のテストをするわ、頑張ってね!」

手を少し、また動かすと再び場所が変わった。
すると凛太朗達は眼下に紅炎が立ち上がる太陽の軌道上に浮かんでいた。
太陽の大気を形成する炎は100万度あると言われている。
その熱から目に見えない球体が凛太朗達を守っていた。
凛太朗は何かトリックをしているのか、そうでなければ夢でも見ているのかと思った。

「これが円城寺室長、いや創造主の力なのか・・・」凛太朗は、それ以上の言葉が、ただ驚くだけで出なかった。

「チェリー、ここで火の精霊を召喚すれば、最強の力を発揮出来る筈、あなたが持っている最大の魔法を私に向かって放ってみなさい。
手加減をしたら、あなたは失格、魔王とのリベンジは二度と叶わないわ・・・」五月は、そう言うとチェリーと二人だけ、凛太朗達から一瞬にして距離を取った。


「はい、神様・・・火の精霊様、僕に力を貸して、お願い。
「スーパーノバ(Super Nova:超新星)、その瞬間、もの凄い爆発が五月を包む、遠く離れていた凛太朗達の球体にも衝撃波がやって来た。地球上では絶対成し得ない魔法だ。
超新星が爆発時に作り出す100万度のガスが五月を包んだ。
そんな高熱の中で生きていられる生き物など存在する筈が無かった。

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