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【竜鬼VS死神カトリーヌ 必殺[心滅]】NO3

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「出た・・・姉御の必殺技が炸裂だ。
秘奥義「心滅」は 魂(たましい:soul)を刈る。
肉体には傷が付かないが、心を肉体から切り離し消滅させるまったく恐ろしい技だぜ」

タイガーは畏敬の念を込めて誇らしげに凛太朗に説明した。
竜鬼の巨体は抜け殻になって、周りの建物を壊しながら崩れる様に倒れた。
この後、妖気の高まりによって、般若顔になっていた彼女は妖気の暴走を抑えるのに凛太朗達を避けて何処かに逃げる様に消えた。
妖気が暴走すれば理性を失い仲間にも危害を加える恐れがあるからというのが表向きの理由だが、そこには美少女の彼女が、恐ろしい般若の顔になっているのを姿をこれ以上見られるのが嫌だという女心があった。

カトリーヌが妖気を抑えて帰ってから今回の任務の検証がされた。
凛太朗が未だ抗魔官見習いだからだ。
今回、凛太朗がカトリーヌから与えられた任務は生贄になり誘い出す事だった。
これは二人が暴走した為に描いた様にいかなかったが、竜鬼を腐界から誘い出し倒せた事で結果オーライだと考えていたのだが、抗魔官としては失格だとカトリーヌにダメ出しをされた。

「凛ちゃんは未だ経験が浅いから許せる。
だけどタイガー、あんたはそう言う訳にはいかないわ」と言いながら彼女はにっこり笑顔を見せて、鳩尾に日傘を突き刺した。
「うぅうう」タイガーは声になっていないうめき声を上げて崩れ落ちた。
凛太朗にはカトリーヌが鬱憤(うっぷん)を晴らしているだけに思えたのだが・・・。
彼女の行為は人間社会ではパワハラになるが、この世界では弱肉強食あたりまえである。
死と隣り合わせの仕事をする抗魔官の仕事では弱い事は悪であり、パワハラなんのその、次元の違う能力を持つカトリーヌこそ正義なのだ。
虎族最強のタイガーであっても、それは例外ではない。

ギガ国は竜鬼が王都で暴れた事で崩壊した。
毒ガスにやられて倒れたゴブリン兵は再生の風が吹けば生き返るだろうが、自我を無くした者はドンビとして徘徊する事になる。

「やっと終わったね・・・。
これからどうするかだけど、そうね、タイガー、バツよ!
竜鬼の抜け殻の腹を切り裂いて、肝を取り出しなさい。」

「えぇ~」「こらエロタイガー、黙ってやれ」

カトレーヌの命令はタイガーに取っては絶対である。
未だ腐っている様な匂いの毒ガスが漂っていたが、タイガーは渋々抜け殻になっている竜鬼の腹を切り裂いた。
すると目的の肝とコアが副産物として出て来た。
巨大なコアだ。それを抜き取ると竜鬼だった物は崩れて土や塵になり、後に干からびた角が生えたガマ蛙が残った。
この干からびたガマ蛙が竜鬼の正体だった。
その昔、角の生えたガマ蛙の魔物が偶々コアになる魔晶石を呑み込んで巨大化したのではないかというのが見解だった。

「ねえ、マスター~、そのコアは僕にくれない?
操り人形を作るのにコアがあれば精度が高い良い物が作れるの・・・」
恐ろしい悪魔の姿から何時の間にか、黒猫になっていたアンナが声をカトリーヌに擦り寄る様に猫なで声をあげた。

「いいわ、アンナも頑張ってくれたので、コアはあなたにあげる。
肝は異世界の素材を扱う冒険者ギルドに持っていけば精神刺激薬として高く売れるのは間違いないけど、凛太朗が対悪魔対策でメンタルアタック(精神攻撃)に強くなるために苦労してここまで来たのだから、僕的にはキモイけど、薬だと思って少しでいいから食べてね!
それに人間以外が食べても効果がない筈だから・・・。」

ゴブリン王が棲む屋敷の地下には『腐界に行けば別の世界に行ける』という、まやかしの噂話を聞いて、ギガ国迄やって来た人間達が竜鬼の生贄として囚われていたので開放してあげた。

カトリーヌには竜鬼を倒した後始末があった。
抗魔執行官として、ゴブリン王を裁判に掛けギガ国を存続させる為に為政者を置く事だ。
宮殿の広間にカトレーヌも含め5人の抗魔官が立ち会い、アンナの元ゴブリン兵の人形に引き立てられて、ゴブリン兵団を失い力を無くしたゴブリン王は裁判を受けた。
ゴブリン王の罪状は人間達を長い間、自分達が襲われない様に竜鬼の生贄として差し出した罪についてである。
尋問の後、「ジャッジメント(judgement:審判を下す)」と大広間にカトリーヌの声が響き渡った。
判決内容は、「ゴブリン達を守るためだった事を考慮して、ギガ国からの所払い、追放刑とする」温情判決だった。
ゴブリン王の後釜には死神村から執政官を呼び統治させ、対悪魔戦に備えるため人間・人外の者達・ホブゴブリン・オーク・ゴブリン合同軍を作り死神の支配下に置く事にした。
この後、凛太朗は経験値を積む教育プログラムを終え円城寺証券に帰り室長の五月から任命書を貰い正式に魔族の『殺し屋』、抗魔執行官になった。

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カトリーヌという名前の由来はギリシャ語で純粋を意味する『カタロス』から来ていると言われている。
彼女は人から永遠の時を生きる死神に転生したが、生前は名前の通り純粋な心の持ち主だった。
彼女は死神には珍しく喜怒哀楽に素直であり言わば青春の尻尾を持っている永遠の乙女なのだ。
オタマジャクシは蛙に成長する時、使わなくなった尻尾を無くすが、蛙になっても尻尾を持っているそんな感じである。
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