百合の楽園

一週間だけの恋人(1)

 私は中等部1年の『山口 萌絵』。

特に目立つこともなく、入学して半年が経とう

としていた。

『…それでね、私ったら転けちゃってさ～……。

萌絵、聞いてるの？』

『……』

『おーい』

横から誰かの声が聞こえる。

そうだ。今、恵美と話してたんだった。

私としたことが、黄昏てしまっていた。

『どうしたの？』

『はぁ。どうしたじゃないよ。今、好きな人の

ことでも考えてたんでしょ？』

私が返事をすると恵美は呆れたようにため息を

ついて、急な質問をぶちこんできた。

『あ～。彼とは別れたよ。』

『そうなんだ。って、えええぇぇ！！』

『はいはい。漫画みたいなリアクションどう

も。』

 実は私、先月まで彼氏がいて絶賛リア充中だっ

たのだが、彼氏の浮気現場を目撃してしまい別

れてしまったのだ。

恵美は聞いてはいけないことを聞いてしまった

という表情をしている。私は彼女のそんな表情

がとても面白おかしくて気がついたら笑ってい

た。

『ごめんね。傷を抉るようなことを言っちゃっ

て。』

恵美に悪気がないのは、もちろんわかっていた

けど、あまりにも健気な彼女に悪戯をしてやり

たくなった。

『ほんとに、傷ついた。』

『あ……。うん、本当にごめんね。』

普段、私が冗談をあまり言わないせいか、

将又、私が急に真顔になったからか。恵美

は少したじろいだ様子を見せたかと思うと、

ごめん。と言って首を垂れた。

私もさすがにここまで恵美が凹むとは思っても

みなかったので逆に罪悪感が芽生えた。

『冗談だよ、恵美。全然傷ついてないから気に

しないで。』

私は恵美を心配させないように、軽く微笑んで

みせた。

『ばか。本当に嫌われたらどうしようとか思っ

て、私。私……!!』

あぁ、やってしまった。何事もなく半年が経と

うとしていたのに、よりにもよって親友の恵美

を悲しませてしまうなんて。

私はほんとに馬鹿だな。

心の中で自嘲の笑いを浮かべ、隣に座っていた

恵美の身体を抱き寄せた。

『……』

『恵美、ごめんね。』

『……』

昼休みのクラスに居るため、周りの視線が痛

い。それ以上に、恵美が返事をしてくれないこ

とのほうが胸に突き刺さる。

恵美とは小さい頃からの付き合いだが泣かせた

ことはもちろん、喧嘩だってしたことはない。

『ごめん。ねぇ、恵美、御詫びにひとつだけお

願い聞いてあげるから元気だして。』

私はこんなことで許してもらおうとか思っても

いなかったし、そもそも反応すらしてもらえな

いと思っていたのだが、恵美は違った。

『……なんでも？』

『…うん。』

恵美の予想外の切り返しに少し驚きはしたが

力強く頷き、彼女の次の言葉を待った。

恵美は泣き顔でぐしゃぐしゃになった顔をあげ

て私の耳元で囁くように言った。

『じゃあ、一週間だけ私の彼女になってくださ

い…!!』