63 / 107
第2章 いきなりロボットアニメみたいな世界に放り込まれたんですけど
13:勇み足
しおりを挟む
「無事か」
シリウスが背中越しに私に訊いた。辺りに色が戻ったからだろうか、その姿が妙に色づいて見えた。
夏彦たちの乗った車が遠ざかっていく。虚無僧は車を追うのを諦めたようだった。再び風のように迅く、私たちに突進する。シリウスの身体越しに光陣を出現させて、最初の斬撃はなんとか防いだ。相手が怯んだ隙にシリウスが拳を叩き込んで、私の手を取る。
温かい手だった。
路地を出て、民家の隙間に身を投じる。息を潜めて逃げながら、シリウスは手のひらから炎がうまく出せないのをもどかしそうに見つめていた。彼の手を取る。
「大丈夫、私が戦える!」
「君の力はアーガイルからの借り物だ。うまく使いこなすのは難しい」
「でも、あなたを守るから!」
真っ直ぐと見つめる私に、彼は気圧されたようだった。
近くでブロック塀がバラバラに切り刻まれて、虚無僧が姿を現した。その剣が私に向く。
「なんで私を狙う!」
「鎮守府の人間」
自分の姿を見下ろして再認識する。ドライバースーツのままなのだ。そして、そこには鎮守府のロゴマークも入っている。
「待って! きっと話し合えば分かる!」
「問題無用」
再び周囲がモノクロになる。極彩色の残像を棚引いて、虚無僧が迫る。
──俺に身体を寄越せ。
「嫌だ! 私は守りたい人のために戦う! あんたが力を貸せ!!」
そう叫んで内なる声の答えも聞かずに飛び出した。我ながら、こんな無鉄砲だっただろうか、私は?
その瞬間、空間が捻じ曲がったようになって、虚無僧がすれ違うようにしてあっという間に私の後方に吹き飛んでいた。
いや、私が数十メートル先まで飛んだのだ。
咄嗟に振り向いて、虚無僧の背後に光の矢を射る。背後からの私の攻撃を虚無僧は背中越しに防いで、素早い身のこなしで距離を取る。
近くの家の屋根に静かに立つ虚無僧を捩じり切るように手を捻ると、細い竜巻のようなものがその身体を引き裂いて吹き飛ばした。地面に転がる虚無僧の頭から笠が外れる。駆け寄る私とシリウスは、その顔を見て言葉を失ってしまった。
狼の顔だ。
***
獣人の男はアスファルトの地面に刀を置いて正座をし、笠を小脇に抱えて頭を下げた。
「儂はイヅメ。この世界の者ではない。そして、突然刃を向けた無礼、誠に面目ない。儂には鎮守府へ向かうべき用があったのだ」
「お前も別の世界から来たのか?」
「〝も〟ということは、其方も?」
シリウスはイヅメの肩を勢いよく掴んだ。
「元の世界へ戻る方法を探してるんだ!」
あまりにもすごい剣幕なので、私は二人の間に割って入る。
「鎮守府に用ってなんですか?」
獣の顔が物悲しく歪む。
「大切な仲間が捕らえられたままだ。なんとか助け出したい」
シリウスの方を振り向くが、彼は首を振った。
「ダメだ。ボクだって一刻を争うんだ」
「シリウスがイヅメさんを助けてくれないなら、私はシリウスに協力しない」
シリウスは舌打ちをしてそっぽを向いてしまう。イヅメが立ち上がった。
「まずは二人を案内したい場所がある。そこで色々話も聞けるはずだ」
***
下水道の先、広くなった空間に小さな街ができていた。都会の地下だというのに、こんな所があったとは。
あちこちに火を焚いたドラム缶が置かれ、そのまわりに集まる異形の者たちが私の格好に威嚇を始めた。
イヅメが私たちを振り向く。オレンジ色の火の光を受けて、その眼がギラリと光る。
「ここが鎮守府から逃げてきた者たちの家だ」
シリウスが背中越しに私に訊いた。辺りに色が戻ったからだろうか、その姿が妙に色づいて見えた。
夏彦たちの乗った車が遠ざかっていく。虚無僧は車を追うのを諦めたようだった。再び風のように迅く、私たちに突進する。シリウスの身体越しに光陣を出現させて、最初の斬撃はなんとか防いだ。相手が怯んだ隙にシリウスが拳を叩き込んで、私の手を取る。
温かい手だった。
路地を出て、民家の隙間に身を投じる。息を潜めて逃げながら、シリウスは手のひらから炎がうまく出せないのをもどかしそうに見つめていた。彼の手を取る。
「大丈夫、私が戦える!」
「君の力はアーガイルからの借り物だ。うまく使いこなすのは難しい」
「でも、あなたを守るから!」
真っ直ぐと見つめる私に、彼は気圧されたようだった。
近くでブロック塀がバラバラに切り刻まれて、虚無僧が姿を現した。その剣が私に向く。
「なんで私を狙う!」
「鎮守府の人間」
自分の姿を見下ろして再認識する。ドライバースーツのままなのだ。そして、そこには鎮守府のロゴマークも入っている。
「待って! きっと話し合えば分かる!」
「問題無用」
再び周囲がモノクロになる。極彩色の残像を棚引いて、虚無僧が迫る。
──俺に身体を寄越せ。
「嫌だ! 私は守りたい人のために戦う! あんたが力を貸せ!!」
そう叫んで内なる声の答えも聞かずに飛び出した。我ながら、こんな無鉄砲だっただろうか、私は?
その瞬間、空間が捻じ曲がったようになって、虚無僧がすれ違うようにしてあっという間に私の後方に吹き飛んでいた。
いや、私が数十メートル先まで飛んだのだ。
咄嗟に振り向いて、虚無僧の背後に光の矢を射る。背後からの私の攻撃を虚無僧は背中越しに防いで、素早い身のこなしで距離を取る。
近くの家の屋根に静かに立つ虚無僧を捩じり切るように手を捻ると、細い竜巻のようなものがその身体を引き裂いて吹き飛ばした。地面に転がる虚無僧の頭から笠が外れる。駆け寄る私とシリウスは、その顔を見て言葉を失ってしまった。
狼の顔だ。
***
獣人の男はアスファルトの地面に刀を置いて正座をし、笠を小脇に抱えて頭を下げた。
「儂はイヅメ。この世界の者ではない。そして、突然刃を向けた無礼、誠に面目ない。儂には鎮守府へ向かうべき用があったのだ」
「お前も別の世界から来たのか?」
「〝も〟ということは、其方も?」
シリウスはイヅメの肩を勢いよく掴んだ。
「元の世界へ戻る方法を探してるんだ!」
あまりにもすごい剣幕なので、私は二人の間に割って入る。
「鎮守府に用ってなんですか?」
獣の顔が物悲しく歪む。
「大切な仲間が捕らえられたままだ。なんとか助け出したい」
シリウスの方を振り向くが、彼は首を振った。
「ダメだ。ボクだって一刻を争うんだ」
「シリウスがイヅメさんを助けてくれないなら、私はシリウスに協力しない」
シリウスは舌打ちをしてそっぽを向いてしまう。イヅメが立ち上がった。
「まずは二人を案内したい場所がある。そこで色々話も聞けるはずだ」
***
下水道の先、広くなった空間に小さな街ができていた。都会の地下だというのに、こんな所があったとは。
あちこちに火を焚いたドラム缶が置かれ、そのまわりに集まる異形の者たちが私の格好に威嚇を始めた。
イヅメが私たちを振り向く。オレンジ色の火の光を受けて、その眼がギラリと光る。
「ここが鎮守府から逃げてきた者たちの家だ」
0
あなたにおすすめの小説
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる