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第2章 いきなりロボットアニメみたいな世界に放り込まれたんですけど

14:インターワールド

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 あちこちから罵声が飛んでくる。いずれも人とは異なる見た目の生き物たちが私の理解できる言葉を投げつけてきた。
 イヅメが住人たちをとがめるより先に声がした。

「お前たち、よさないか」

 ゆっくり歩み出たのは、シミだらけの豚のような頭を胴体の真ん中に空いた穴の中に満たした透明な液体に浮かべた二足歩行の生き物だった。
 見たこともない奇妙な生き物の鶴の一声で私たちを取り囲んでいた悪意の声は散らばって行った。ここのおさかなにかだろう。
 リングワネと名乗ったその人物の後について、私とシリウスとイヅメはバラックのような建物の中に入って行った。

「みんな鎮守府を目のかたきにしているのだ」

「みんな異世界から来たんですね?」

 リングワネが身体をすると豚の頭がゴロリと動いた。

「そして、鎮守府で利用されようとして逃げ出してきたのだよ。元の世界に帰る術もないまま、こうしてここに集まって来た」

「元の世界に帰る方法はないのか?」

 シリウスの問いにリングワネはうなった。

「お前さんも別世界からの客人か。どれ、向こうの世界でこんなものを見たことはないか?」

 リングワネは写真を表示したスマホをシリウスに手渡した。シリウスのそばに寄って画面を覗き込むと、見慣れないガラスポッドや筐体きょうたいが写真に収められていた。それを見るなり、シリウスは声を上げた。

聖都せいとメスタにあったものと同じだ。なんなんだ、これは?」

「これは鎮守府の地下で撮影されたものだ。そして、この世界へやって来た者たちが住んでいた世界にも同じ設備があることが分かっている。別世界への〝扉〟を開く設備だ」

わしの世界にも同じものがあり、そこで悪事が行われているのをはばもうとして、儂らは巻き込まれた」

 イヅメが悔しそうに牙を露わにする。リングワネは冷静さを残した声で先を続けた。

「〝扉〟を通じてこの世界にやって来ると、誰もが異獣いじゅうの姿となってしまうようだ。鎮守府はそんな異獣の中から素体そたいと呼ばれる元の身体を引っ張り出し、別世界への〝扉〟を開ける実験体にしている」

「なぜそんなにみんな別の世界へ行きたいの?」

 そう尋ねたが、リングワネはただ肩をすくめるだけだった。シリウスは笑みを浮かべる。

「まあ、いいさ。鎮守府へ向かえば、元の世界へ戻る手立てがあるということだろう」

「だが、留意りゅういしておいた方がいい」リングワネが釘を刺す。「この世界と元の世界の時間経過が同じとは限らない」

 シリウスがバラックを出て行こうとする。

「早く鎮守府へ向かわなければ。藍綬らんじゅ、君も来い。ボクの世界へ戻るんだ」

 彼に手を掴まれるが、私は簡単に返事ができなかった。

「何してる? 早く行くぞ」

「私はこの世界の人間なんだよ。そんなすぐに決められない」

「ボクに協力すると言っただろ」

「言ったけど……!」

 この世界には家族も友人もいるのだ。
 イヅメが言う。

「儂も一刻も早く鎮守府へ向かいたい」

 ──そりゃあ、あんたたちは初めから決心して来てるんだからいいだろうけど。

 文句を言いそうになった私の前で、イヅメが耳をピンと立てた。リングワネが尋ねる。

「どうかしたのか?」

 イヅメの鼻の頭にしわが寄る。

「何かが──来る!」

 バラックの窓の外、地下空間の天井が土の壁が破れるようにひび割れ、凹んで、その次の瞬間に凄まじい衝撃がやって来た。私たちの前にすぐさまシリウスが躍り出て、炎のドームを形成する。
 広場に居た異世界人たちは、悲鳴を上げる間もなく爆風と落盤に巻き込まれてしまった。爆熱と土煙と暗闇がぜになって、それでも、私とイヅメとリングワネは炎の壁に護られて難を逃れていた。

 大質量の何かが近くに降り立った。
 土埃の舞う向こう、2機の骨骼こっかく兵器がこちらを見つめていた。
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