「世界の半分をくれてやる」と言われて魔王と契約したらとんでもないことになった

山野エル

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第2章 いきなりロボットアニメみたいな世界に放り込まれたんですけど

18:燻る怒りが解き放たれる時

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 視界が歪んで、清涼感のある空気が駆け抜けたように感じた。次の瞬間には、私とイヅメは薄暗い小部屋に立っていた。小部屋の中央には、六つのリングのついた細い背もたれの椅子……。
 建御名方タケミナカタのコックピットだ。
 茫然自失のイヅメを横目にリングをめて椅子に座る。コックピットの内側に張られたモニターが起動して、明かりに包まれる。

<建御名方 起動>

 その文字が表示されて、私の身体に建御名方タケミナカタの感覚が流れ込んでくる。イヅメが呟いた。

「これは……骨骼こっかく兵器の中?」

「一か八かここに飛べるか試してみたの。私の予感は当たった!」

 イヅメと戦った時、空間が流れ去るあの感覚が私に閃きを与えてくれたのだ。コックピットに音声が溢れ出した。

『誰だ、建御名方タケミナカタを動かしてんのは?!』

 司令の声だった。私は腹に力を込めてこたえた。それは、私にとって宣戦布告だった。

四路坂しろさかです! あなたたちを許さない!」

『待て、話を──』

 司令からの音声を切断して、建御名方タケミナカタを動かす。どういう状態に置かれていたのか分からないが、立ち上がると建御名方タケミナカタの頭が格納庫の天井をぶち破った。その穴に拳を突っ込んで一気に屋根を破壊した。
 頭の中にシリウスをイメージする。建御名方タケミナカタの身体から炎がほとばしって、高熱が周囲を溶かす。鎮守府の外壁が崩れて、夜明け前の空が顔を出した。殯森もがりもりの声がスピーカーから聞こえる。

『四路坂さん、あなたは今、世界を敵に回してる!』

 そんなこと、どうでもよかった。
 いや、私は何も分からずにこんなことをしているのかもしれない。だが、声を投げかけてくる大人たちが私には全て敵に思えた。

「四路坂!」崩壊する鎮守府の轟音の中、突き出たキャットウォークの上に立つ司令の姿があった。「俺たちにはすべきことがあるんだよ! 生きるための血路を切りひらかなきゃなんねえんだ! 綺麗事ばっかじゃねえんだ!」

 詭弁きべんに思えた。
 私の視界には、コックピットの隅で背中を丸めるイヅメの姿が映っている。彼はその〝綺麗事〟で大切な人を失ったのだ。

「そうやって正義を掲げて全てを正当化してるだけでしょう!」

「聞け!」司令が声を張り上げる。「俺たちはこの世界を守り抜かなきゃいけねえんだよ!」

 言葉を投げ合うのはもう無駄だ。イヅメに目をやる。

「掴まってて」

 そう告げて、建御名方タケミナカタで鎮守府の外壁に空いた穴から外へ飛び出した。

『待てぇ!!』

 聞き覚えのある女の声がして、建御名方タケミナカタの右脇腹を凄まじい衝撃が襲った。見ると、右足だけ色の違う骨骼兵器──改修途中のメツトリが空中で足を突き出していた。この声は……プリシラだ。
 イヅメがコックピットの中を転がる。

『人類の敵! 今ここでお前をぶっ殺してやるよ!』

 こちらが態勢を整えるよりも先にメツトリが身軽に動いて、建御名方タケミナカタの背中にかかとを落としてきた。たまらずに地面まで急降下して激突する。モニターにノイズが走り、上下も分からないほどに揺さぶられた。イヅメは私の椅子に手をかけてなんとか踏ん張ってくれたようだ。
 少し離れた場所に私の後を追うようにメツトリが着地した。
 私の頭の中にはシリウスのことしかなかった。彼を助けに行かなければ。それなのに……。

『あたしはエリートなんだ! お前の代わりにこんな島国を守れ? 舐めるな!!』

 意味の分からない怒号を発して、メツトリがこちらに突進してくる。それを全身で受け止め、メツトリの鳩尾みぞおちに膝をぶち込む。

『お前なんかに負けてたまるか!』

 メツトリの拳が建御名方タケミナカタの顔面を捉える。モニターの映像が一部欠落した。死がすぐそこまで来ているような恐怖が私の身体を突き抜ける。

『お前はここで死ぬんだよ!』

「うるさい! 私は死なない!!」

 プリシラの声を遮って、建御名方タケミナカタの腕を空間の向こう側に伸ばす。異形いぎょうの剣を引きずり出して振り払い、メツトリの頭を吹き飛ばす。フラフラと立ち尽くすその胴体に異形の剣の切っ先を突きつけて、私は滅線めっせんを放った。
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