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第2章 いきなりロボットアニメみたいな世界に放り込まれたんですけど
幕間:新世界へ①
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~白衣の軍団を追うイヅメとナズサ~
魔形とは違う、流線型のつるりとした白い身体が木々を薙ぎ倒しながらイヅメたちの方へ迫ってくる。
木々の隙間から垣間見える空はどんよりと重く、薄暗い森の中には湿り立つような土のにおいが漂っていた。
「まだか……!」
腰に佩いた太刀の柄を握りしめながら、イヅメは謎の敵が放った光線をかろうじて回避した。光線は木をいとも容易く貫いていた。
「もう一回、火を使う?!」
並走するナズサが提案するが、イヅメの目は敵の側面にこびりついた黒い煤を睨みつけた。
「奴に火は効かん! 雨を待つ!」
「このまま逃げ続けるのはきついよ! あいつを足止めしないと!」
「分かってる!」
風のように木立の間を駆け抜けるが、白い身体から生えた妙になまめかしい黒い二本の足がどすどすと音を立てながら、二人を追撃する。
──なんなの、あれ。
ナズサは得体のしれない敵を観察する。筋肉質な人間の足のようなものの上に載った身体は表面がつるつるした卵のようで、そののっぺりした無機質な身体がナズサたちの方を向いているのがなんとなく分かるだけだ。目も口もない。明らかに普通の生物などではない。
ナズサは矢筒の中から残っていた少ない矢のうちの一本を引き抜いて、全速力で駆けながら追手に矢を放った。
黒い足を狙った矢は確かにそこに突き刺さったのだが、返ってくるべき痛みに耐える声や動きなどはない。
「生き物じゃない!」
「じゃあ、何だと言うんだ!」
イヅメに大声で返されて、ナズサは答えられなかった。
追手は速度を緩めない。徐々に体力を消耗していた二人との距離が着実に狭まっていく。ナズサは決意に満ちた表情をイヅメへ向けた。
「妾の血を使え!」
ナズサは持っていた小刀で自らの手のひらに切り込みを入れた。あっという間に血が流れ出す。
「勝手に決めるな!」
イヅメはナズサを咎めながらも、千々秋月を抜刀した。二人して立ち止まり、ナズサが手のひらを切った方の腕をイヅメの方へ伸ばす。その手のひらを地面へ向けると、血が落ちていく。敵がすぐそこまで迫っていた。
イヅメが太刀を構える。
ナズサの手から滴り落ちていた血が跡形もなく消滅する。敵の足音が眼前に飛び込むのと同時に、イヅメは太刀を振るった。
赤黒い鋼鉄の枝のようなものが太刀の切っ先の軌跡から一斉に飛び出す。高速で伸びて行った鋼鉄の枝が敵の硬い身体に音を立てて突き刺さる。悲鳴などはなく、白い身体からは銀色の液体が流れ出した。敵は足をじたばたさせて後退し、その動きだけで突き刺さった鋼鉄の枝を引き抜いて行った。
「こいつ、痛みも恐怖もないのか!」
慄くナズサの腕を取ってイヅメは走り出す。二人が駆ける背後で、敵が体勢を立て直し走り出した。
木々の葉に雫の落ちる音が弾け始めた。雨だ。すぐにざあざあと雨脚が強まる。遠雷の轟きがびりびりと走るのが聞こえる。
「ナズサ!」
「はいっ!」
呼吸の合った一瞬のやり取りの後、ナズサが腹の前に手で足掛かりを作ると、イヅメがそれを踏み台にする。ナズサが力を込めてイヅメの身体を打ち上げると、その身体はあっという間に森の上空へ達した。
イヅメが空中で千々秋月を掲げると、ぴたりと雨が止む。木々の隙間を走る敵を目がけて、上段に構えた太刀を勢いよく振り下ろす。この攻撃にはイヅメが名前を付けていた。
──……水槌
巨大な水の塊が大地を打ちつける。空気を、木々を、地面を震わせて轟音が駆け巡って、超重量の衝撃が敵を飲み込む。森の中を走る濁流から逃れるために飛び上がって高い木の上に掴まるナズサが興奮気味に声を上げた。
押し潰された木々の間から空に向けて光線が照射される。狙いの定まっていない光が空をなぞる。
「まだ生きてる!」
ナズサが叫んで、落下途中のイヅメがさらに太刀を構える。
雷鳴が消える。
横に一閃した斬撃から空間を引き裂く雷光が枝を走らせながら敵へ一直線に突き進んで、耳をつんざく爆発音が炸裂する。
敵の身体に雷撃が直撃して、その身体がゆっくりと倒れて動かなくなる。
着地したイヅメのそばに駆け寄ったナズサが笑顔を浮かべていた。
「倒した!」
イヅメはようやく緊張の糸を緩めて、ナズサと手の甲をぶつけ合う。それは幼い頃から二人が喜びを分かち合う合図だった。
魔形とは違う、流線型のつるりとした白い身体が木々を薙ぎ倒しながらイヅメたちの方へ迫ってくる。
木々の隙間から垣間見える空はどんよりと重く、薄暗い森の中には湿り立つような土のにおいが漂っていた。
「まだか……!」
腰に佩いた太刀の柄を握りしめながら、イヅメは謎の敵が放った光線をかろうじて回避した。光線は木をいとも容易く貫いていた。
「もう一回、火を使う?!」
並走するナズサが提案するが、イヅメの目は敵の側面にこびりついた黒い煤を睨みつけた。
「奴に火は効かん! 雨を待つ!」
「このまま逃げ続けるのはきついよ! あいつを足止めしないと!」
「分かってる!」
風のように木立の間を駆け抜けるが、白い身体から生えた妙になまめかしい黒い二本の足がどすどすと音を立てながら、二人を追撃する。
──なんなの、あれ。
ナズサは得体のしれない敵を観察する。筋肉質な人間の足のようなものの上に載った身体は表面がつるつるした卵のようで、そののっぺりした無機質な身体がナズサたちの方を向いているのがなんとなく分かるだけだ。目も口もない。明らかに普通の生物などではない。
ナズサは矢筒の中から残っていた少ない矢のうちの一本を引き抜いて、全速力で駆けながら追手に矢を放った。
黒い足を狙った矢は確かにそこに突き刺さったのだが、返ってくるべき痛みに耐える声や動きなどはない。
「生き物じゃない!」
「じゃあ、何だと言うんだ!」
イヅメに大声で返されて、ナズサは答えられなかった。
追手は速度を緩めない。徐々に体力を消耗していた二人との距離が着実に狭まっていく。ナズサは決意に満ちた表情をイヅメへ向けた。
「妾の血を使え!」
ナズサは持っていた小刀で自らの手のひらに切り込みを入れた。あっという間に血が流れ出す。
「勝手に決めるな!」
イヅメはナズサを咎めながらも、千々秋月を抜刀した。二人して立ち止まり、ナズサが手のひらを切った方の腕をイヅメの方へ伸ばす。その手のひらを地面へ向けると、血が落ちていく。敵がすぐそこまで迫っていた。
イヅメが太刀を構える。
ナズサの手から滴り落ちていた血が跡形もなく消滅する。敵の足音が眼前に飛び込むのと同時に、イヅメは太刀を振るった。
赤黒い鋼鉄の枝のようなものが太刀の切っ先の軌跡から一斉に飛び出す。高速で伸びて行った鋼鉄の枝が敵の硬い身体に音を立てて突き刺さる。悲鳴などはなく、白い身体からは銀色の液体が流れ出した。敵は足をじたばたさせて後退し、その動きだけで突き刺さった鋼鉄の枝を引き抜いて行った。
「こいつ、痛みも恐怖もないのか!」
慄くナズサの腕を取ってイヅメは走り出す。二人が駆ける背後で、敵が体勢を立て直し走り出した。
木々の葉に雫の落ちる音が弾け始めた。雨だ。すぐにざあざあと雨脚が強まる。遠雷の轟きがびりびりと走るのが聞こえる。
「ナズサ!」
「はいっ!」
呼吸の合った一瞬のやり取りの後、ナズサが腹の前に手で足掛かりを作ると、イヅメがそれを踏み台にする。ナズサが力を込めてイヅメの身体を打ち上げると、その身体はあっという間に森の上空へ達した。
イヅメが空中で千々秋月を掲げると、ぴたりと雨が止む。木々の隙間を走る敵を目がけて、上段に構えた太刀を勢いよく振り下ろす。この攻撃にはイヅメが名前を付けていた。
──……水槌
巨大な水の塊が大地を打ちつける。空気を、木々を、地面を震わせて轟音が駆け巡って、超重量の衝撃が敵を飲み込む。森の中を走る濁流から逃れるために飛び上がって高い木の上に掴まるナズサが興奮気味に声を上げた。
押し潰された木々の間から空に向けて光線が照射される。狙いの定まっていない光が空をなぞる。
「まだ生きてる!」
ナズサが叫んで、落下途中のイヅメがさらに太刀を構える。
雷鳴が消える。
横に一閃した斬撃から空間を引き裂く雷光が枝を走らせながら敵へ一直線に突き進んで、耳をつんざく爆発音が炸裂する。
敵の身体に雷撃が直撃して、その身体がゆっくりと倒れて動かなくなる。
着地したイヅメのそばに駆け寄ったナズサが笑顔を浮かべていた。
「倒した!」
イヅメはようやく緊張の糸を緩めて、ナズサと手の甲をぶつけ合う。それは幼い頃から二人が喜びを分かち合う合図だった。
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