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第3章 この世界が思ってた以上にやばかったんですけど
1:広い世界に肩寄せ合って
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「ど、どうしてここに……!?」
傷だらけのイヅメを背中に隠しながら、私は震える足を踏み出した。
「待て。もう戦う気はない」
第七魔王は敵意はないというように両手を広げた。とてもじゃないが、信じられなかった。第七魔王はイヅメに目をやる。
「そいつにやられて魔力を失ったようだ」
イヅメの斬撃の効力は一時的なものだ。奴に誤解をさせたままにしておくべきかもしれないが、すぐに自ずと明らかになってしまうだろう。第七魔王は深刻そうに声を潜める。
「それに、ここにはマズい奴らがいる」
「マズい奴ら?」
「他の魔王たち──それも、二人」
「そいつらに見つかりたくないから戦いたくないと?」
第七魔王はうなずく。真っ直ぐな眼だが、受け入れる気は湧かない。
「あんたのせいでシリウスは私の世界に残されたままになった」
「待て。なぜ奴に〝扉〟が開けたのかは私にも不可解なことだ」
私の背後でイヅメが身動ぎする。
「話している中すまないが、何かが向かってくる。どうする?」
私は一も二もなくイヅメと共に切り立った崖の陰に身を潜めることにした。第七魔王も後についてくる。都合の良い奴だ。
イヅメの言う〝何か〟は空を飛んで来た。遠く、空を背に谷に沿って人影が見える。
「飛んでる……」
まるでアニメか何かを観ているようだった。その人影が徐々に近づいてきて、その姿がはっきりとしてくる。青い髪、白い肌……それはまるで──
「シリウス……?」
その人影が私たちの上空をスーッと滑空していく。見間違いなどではなかった。
シリウス! と声を上げようとして、第七魔王の手で口を塞がれた。
「何かがおかしい……。奴がこの世界にいるはずがない」
もがいて第七魔王を突き飛ばす。シリウスらしき人影が谷沿いに遠ざかっていく。
「何すんの!」
「あれはシリウスではない」
私はイヅメの腕を取ってシリウスが飛んで行った方向へ歩き出した。第七魔王の声が追いすがってくる。
「何をしている?」
「シリウスの後を追う」
「賛同できない。何か不穏だ」
「別にあんたは好きにすればいいでしょ」
***
結局、第七魔王も私の後をついて来るようだった。
しばらく歩いて、谷が切れる辺りの上空にシリウスが浮かんでいるのが見えた。三人で近くの森の中に身を隠した。
シリウスともうひとり、翼が片方しかない竜と人を合わせたような人影が空中に浮遊したまま何かやりとりを交わしていた。シリウスはすぐに谷から離れるように飛んで行ってしまう。
少しの間、空に留まっていた竜のような人影が、パッとこちらに目を向けた。
「見つかった……!」
凄まじい勢いで降下してくる竜人は光の輪を射出した。周囲の木々がその光に触れてスッパリと切り倒されていき、私たちは身を隠す場所を失ってしまった。
竜人が地上に降り立つと、突風が私たちの間を駆け抜けていった。その眼は私たちを品定めするようにじっとこちらを向いている。
そばの二人を見る。満身創痍のイヅメと力を失った第七魔王……戦えるのは私しかいない。
竜人が砂煙を上げて突っ込んできた。私は一歩前に飛び出して、竜人による拳の一撃を腕で受け止めようとした。
衝撃があった──。だが、痛みはない。
肘から先の私の腕が鈍色に変化していた。表面には赤い光の筋が血管のように走っている。
「なに……これ……?!」
私と同様に驚いたように目を見開いた竜人が即座に距離を取った。そして、一瞬だけ私を見ると、谷の方に向かって飛び去って行った。
傷だらけのイヅメを背中に隠しながら、私は震える足を踏み出した。
「待て。もう戦う気はない」
第七魔王は敵意はないというように両手を広げた。とてもじゃないが、信じられなかった。第七魔王はイヅメに目をやる。
「そいつにやられて魔力を失ったようだ」
イヅメの斬撃の効力は一時的なものだ。奴に誤解をさせたままにしておくべきかもしれないが、すぐに自ずと明らかになってしまうだろう。第七魔王は深刻そうに声を潜める。
「それに、ここにはマズい奴らがいる」
「マズい奴ら?」
「他の魔王たち──それも、二人」
「そいつらに見つかりたくないから戦いたくないと?」
第七魔王はうなずく。真っ直ぐな眼だが、受け入れる気は湧かない。
「あんたのせいでシリウスは私の世界に残されたままになった」
「待て。なぜ奴に〝扉〟が開けたのかは私にも不可解なことだ」
私の背後でイヅメが身動ぎする。
「話している中すまないが、何かが向かってくる。どうする?」
私は一も二もなくイヅメと共に切り立った崖の陰に身を潜めることにした。第七魔王も後についてくる。都合の良い奴だ。
イヅメの言う〝何か〟は空を飛んで来た。遠く、空を背に谷に沿って人影が見える。
「飛んでる……」
まるでアニメか何かを観ているようだった。その人影が徐々に近づいてきて、その姿がはっきりとしてくる。青い髪、白い肌……それはまるで──
「シリウス……?」
その人影が私たちの上空をスーッと滑空していく。見間違いなどではなかった。
シリウス! と声を上げようとして、第七魔王の手で口を塞がれた。
「何かがおかしい……。奴がこの世界にいるはずがない」
もがいて第七魔王を突き飛ばす。シリウスらしき人影が谷沿いに遠ざかっていく。
「何すんの!」
「あれはシリウスではない」
私はイヅメの腕を取ってシリウスが飛んで行った方向へ歩き出した。第七魔王の声が追いすがってくる。
「何をしている?」
「シリウスの後を追う」
「賛同できない。何か不穏だ」
「別にあんたは好きにすればいいでしょ」
***
結局、第七魔王も私の後をついて来るようだった。
しばらく歩いて、谷が切れる辺りの上空にシリウスが浮かんでいるのが見えた。三人で近くの森の中に身を隠した。
シリウスともうひとり、翼が片方しかない竜と人を合わせたような人影が空中に浮遊したまま何かやりとりを交わしていた。シリウスはすぐに谷から離れるように飛んで行ってしまう。
少しの間、空に留まっていた竜のような人影が、パッとこちらに目を向けた。
「見つかった……!」
凄まじい勢いで降下してくる竜人は光の輪を射出した。周囲の木々がその光に触れてスッパリと切り倒されていき、私たちは身を隠す場所を失ってしまった。
竜人が地上に降り立つと、突風が私たちの間を駆け抜けていった。その眼は私たちを品定めするようにじっとこちらを向いている。
そばの二人を見る。満身創痍のイヅメと力を失った第七魔王……戦えるのは私しかいない。
竜人が砂煙を上げて突っ込んできた。私は一歩前に飛び出して、竜人による拳の一撃を腕で受け止めようとした。
衝撃があった──。だが、痛みはない。
肘から先の私の腕が鈍色に変化していた。表面には赤い光の筋が血管のように走っている。
「なに……これ……?!」
私と同様に驚いたように目を見開いた竜人が即座に距離を取った。そして、一瞬だけ私を見ると、谷の方に向かって飛び去って行った。
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