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第3章 この世界が思ってた以上にやばかったんですけど
8:雪原の如き光の中で君を想う①
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意識の戻らないリナを抱えたベテルギウスは聖都メスタから離れたヴァレフを目指していた。歴史ある湯治場ならリナを回復させられるのではと、彼女は考えたのだ。
「いつまで歩くつもりなん?」
ベテルギウスの後ろをついて歩くのは第四魔王だった。ベテルギウスは舌打ちを返す。
「いちいちうるさいわね。黙って歩きなさい」
「第四魔王に向かってその口の利き方は何だ!」
「だったら、転移でも飛翔でもして行けばいいでしょ! それができないなら黙る!」
魔力を使えば魔王に感づかれる。第四魔王は一度の遭遇ですっかりトラウマを抱えていた。
──リナとエミリアのことがなければ、こんな奴と……!
第四魔王は歯噛みする。アーガイルに二人を託されたのだ。その意志を反故にすることなど彼女にはできない。
メスタから持って来た竜退治の槍を握りしめる力が増す。
──ガキはうるさくて仕方ない……!
ベテルギウスも怒りを燻らせていた。
メスタでの混乱の最中、〝解錠〟のために囚われたままだったリナを救出し、エミリアを探して回った。
そんな二人が邂逅し、お互いの目的が同じだと知って行動を共にすることになったのだ。
「ねえ、ずいぶん歩いてるけど、本当にこの道で合ってんの?」
痺れを切らした第四魔王が音を上げる。なにせ、一日以上も山間部を歩き詰めなのだ。
ベテルギウスは無言のままだった。
「迷ってんじゃないよね……?」
言葉を返さずに黙々と歩き続ける背中に、第四魔王は悟った。
「アンタはしっかりしてると思ったのにな……」
「うるさいわね! さっさとヴァレフへの道を見つけるわよ!」
「……迷ってんじゃん」
***
道なき道を切り拓き、長い時間をかけて二人はようやくヴァレフに到着した。と、同時に二人の表情は曇る。
「嫌な空気が漂ってる……」
魔族にとって温泉は忌避すべきものだ。第四魔王は口元を押さえている。
「リナを温泉にポイってして来い」
「そんなわけにはいかないでしょうよ……」
ベテルギウスが呆れていると、浴場に向かってよたよたと歩いていく人影が現れる。湾曲した剣を腰に差し、その顔は獣──イヅメであった。
***
イヅメは鼻腔を突くおぞましさを孕んだ空気に思わず立ち止まり、周囲を見渡した。
ぐったりとした女を連れた二人組の女……。
そのうちのひとり、ピンクブロンドの髪をショートカットにした少女──第四魔王に、イヅメの身体は最大の警戒を示した。
──第七魔王と似たにおい……敵か。
彼女たちと目が合うその一瞬、イヅメの中に葛藤が生まれた。湯治を繰り返し、数日だけ身体を休めただけだ。
だが、イヅメの中に根を生やした怒りは太刀の柄を握らせていた。
そのにおいはナズサの死とどこかで結びついてたから。
グッと地面を蹴って、千々秋月を抜く。思ったより動けることが、イヅメを勇気づけた。
「奴を止めろ!」
第四魔王が叫ぶ。
「いちいち命令しないで!」
ベテルギウスがイヅメの突撃を迎えるように風の盾を出現させる。イヅメは太刀に力を込めた。
周囲の景色は変わらなかったが、刀身を極彩色のオーラが纏った。そのままベテルギウスを風の盾ごと撫で斬りにする。風がバッと掻き消えて、ベテルギウスの目が見開かれる。反射的にイヅメを吹き飛ばそうと手を伸ばすが、魔力が枯渇していた。
戦意を喪失しかけたベテルギウスを蹴って退かし、第四魔王が鼻の頭に皺を寄せて舌打ちした。
第四魔王は内奥に押し込めていた魔力を解放して、飛来した巨剣でイヅメを迎撃する。
それは彼女にとって苦渋の決断だった。
「いつまで歩くつもりなん?」
ベテルギウスの後ろをついて歩くのは第四魔王だった。ベテルギウスは舌打ちを返す。
「いちいちうるさいわね。黙って歩きなさい」
「第四魔王に向かってその口の利き方は何だ!」
「だったら、転移でも飛翔でもして行けばいいでしょ! それができないなら黙る!」
魔力を使えば魔王に感づかれる。第四魔王は一度の遭遇ですっかりトラウマを抱えていた。
──リナとエミリアのことがなければ、こんな奴と……!
第四魔王は歯噛みする。アーガイルに二人を託されたのだ。その意志を反故にすることなど彼女にはできない。
メスタから持って来た竜退治の槍を握りしめる力が増す。
──ガキはうるさくて仕方ない……!
ベテルギウスも怒りを燻らせていた。
メスタでの混乱の最中、〝解錠〟のために囚われたままだったリナを救出し、エミリアを探して回った。
そんな二人が邂逅し、お互いの目的が同じだと知って行動を共にすることになったのだ。
「ねえ、ずいぶん歩いてるけど、本当にこの道で合ってんの?」
痺れを切らした第四魔王が音を上げる。なにせ、一日以上も山間部を歩き詰めなのだ。
ベテルギウスは無言のままだった。
「迷ってんじゃないよね……?」
言葉を返さずに黙々と歩き続ける背中に、第四魔王は悟った。
「アンタはしっかりしてると思ったのにな……」
「うるさいわね! さっさとヴァレフへの道を見つけるわよ!」
「……迷ってんじゃん」
***
道なき道を切り拓き、長い時間をかけて二人はようやくヴァレフに到着した。と、同時に二人の表情は曇る。
「嫌な空気が漂ってる……」
魔族にとって温泉は忌避すべきものだ。第四魔王は口元を押さえている。
「リナを温泉にポイってして来い」
「そんなわけにはいかないでしょうよ……」
ベテルギウスが呆れていると、浴場に向かってよたよたと歩いていく人影が現れる。湾曲した剣を腰に差し、その顔は獣──イヅメであった。
***
イヅメは鼻腔を突くおぞましさを孕んだ空気に思わず立ち止まり、周囲を見渡した。
ぐったりとした女を連れた二人組の女……。
そのうちのひとり、ピンクブロンドの髪をショートカットにした少女──第四魔王に、イヅメの身体は最大の警戒を示した。
──第七魔王と似たにおい……敵か。
彼女たちと目が合うその一瞬、イヅメの中に葛藤が生まれた。湯治を繰り返し、数日だけ身体を休めただけだ。
だが、イヅメの中に根を生やした怒りは太刀の柄を握らせていた。
そのにおいはナズサの死とどこかで結びついてたから。
グッと地面を蹴って、千々秋月を抜く。思ったより動けることが、イヅメを勇気づけた。
「奴を止めろ!」
第四魔王が叫ぶ。
「いちいち命令しないで!」
ベテルギウスがイヅメの突撃を迎えるように風の盾を出現させる。イヅメは太刀に力を込めた。
周囲の景色は変わらなかったが、刀身を極彩色のオーラが纏った。そのままベテルギウスを風の盾ごと撫で斬りにする。風がバッと掻き消えて、ベテルギウスの目が見開かれる。反射的にイヅメを吹き飛ばそうと手を伸ばすが、魔力が枯渇していた。
戦意を喪失しかけたベテルギウスを蹴って退かし、第四魔王が鼻の頭に皺を寄せて舌打ちした。
第四魔王は内奥に押し込めていた魔力を解放して、飛来した巨剣でイヅメを迎撃する。
それは彼女にとって苦渋の決断だった。
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