「世界の半分をくれてやる」と言われて魔王と契約したらとんでもないことになった

山野エル

文字の大きさ
94 / 107
第3章 この世界が思ってた以上にやばかったんですけど

幕間:聖都の戦い その後①

しおりを挟む
~戦いを続ける第四魔王とクラウス~


 第四魔王の振るった剣の直撃を受けて、クラウスは吹き飛んだ。周囲は戦いの被害をもろに受けて、聖都の白亜の建造物が破壊されている。
 汗にまみれた顔を上げたクラウスは赤い眼を揺らせた。金色の髪は汗と血に汚れて力なく風に流れる。

 ──さすがに力の差が……。

「いい加減、消えろ!」

 顕現けんげんした第四魔王が迫って、魔力の刃を飛ばした。
 満身創痍の身体を動かして、クラウスが防護魔法をぶつけると、魔力の刃が四散する。次の一手で、クラウスの足が後ろ足を踏んだ。その機を第四魔王が逃すはずもなく、巨大な鈍色にびいろの身体が切っ先を向けて突進した。
 一歩後退したクラウスが手にした剣に魔力を乗せて斬撃を飛ばす。第四魔王の剣と右腕の一部が切断されて弾け飛んだ。

「しつこい!」

 第四魔王が叫びながら、急速に腕を回復させて剣の破片を投げつける。身体を仰け反らせてそれを回避すると、クラウスは防護魔法を何重にも重ねて第四魔王を取り囲んだ。その隙にクラウスは簡易転移魔法で距離を取った。

 一瞬だけ戦いの領域から離脱したクラウスがひと息ついたその瞬間に、天高くから石柱が降り注いで柵のように彼を取り囲んだ。すぐに勢いよく地面に降り立ったのは龍王ダレンサランだった。

   ***

 エラトゥとボルボリがメスタ周囲の森林地帯に逃げ込んだのを見送って、ダレンサランは追うのをやめてメスタの方へ顔を向けた。

「メスタへ行け。上空で侵入者を排除するんだ」

 シグニのその言葉がダレンサランの魂に刻み込まれていた。
 シグニの化物として造り出されたダレンサランは、彼の手足となって忠実に動き続けてきた。だから、聖都から遠ざかる二人の狼藉者ろうぜきものを追う意味などなかった。

 予期しなかった攻撃で翼をひとつもぎ取られてしまったが、魔力で飛翔できるダレンサランにとっては翼は飾りのようなものだった。

 聖都の塔群の方で爆発音が響き渡る。煙が立って、いつの間にか聖都を覆う隠蔽魔法も消失していた。
 ダレンサランはギリリと歯を噛み締めて聖都へ舞い戻った。

   ***

 クラウスの斬撃が石柱の牢獄を破壊したのと、第四魔王が飛来してきたのは同時だった。

「目障りな奴が増えたな」

 第四魔王がそう呟いてダレンサランを睨みつける。クラウスは剣を構えながらも、隙を見て、いかにしてこの場を退却するかに頭を働かせていた。
 突然、クラウスの身体を囲むように複数の光の輪が現れる。ダレンサランが拳を作ると、光の輪がギュッとクラウスの身体を締めつける。咄嗟のことで反応が遅れたクラウスは自由を奪われてしまった。

「くそっ……!!」

 思い切り力を込めて拘束を解こうとするクラウスだったが、ダレンサランが腕を振るうと魔力によってクラウスの身体は第四魔王に向かって急加速する。そのまま投擲とうてきされたクラウスが第四魔王にぶち当たった。第四魔王も予期せぬことに回避できなかったのだ。
 折り重なるように倒れる二人へ向かってダレンサランが手を伸ばすと、破滅的な魔力の流れが無数のつぶてはらんで襲いかかる。破砕魔法だ。

「邪魔だ!」

 第四魔王はクラウスを蹴飛ばして破砕魔法の奔流ほんりゅうを回避して、ダレンサランへ向けて天空から巨剣を飛ばした。轟音がして剣が着弾する。突風と土煙が上がるが、その中心でダレンサランが巨剣の切っ先を片手で受け止めていた。

「なんなんだ、お前っ!」

 ダレンサランへ怒りに燃えた眼を向ける第四魔王だったが、ハッと我に返ったようにクラウスがいた場所に鋭い視線を投げた。
 すでにクラウスの姿はなかった。

「お前が邪魔するから、あいつ逃げただろ!」

 子どもっぽい怒号をダレンサランへぶつける第四魔王だったが、相手は明後日あさっての方向を見つめていた。

「おい、聞いてんのか!」

 手のひらに魔力を集中させる第四魔王を一瞥すると、ダレンサランは彼方の空へ向かって飛び立ってしまった。

「なんなんだよ……」

 第四魔王は顕現を解いて溜息をついた。急に訪れた静かな時間に、彼女は冷静さを取り戻す。ハッと聖都の塔群へ目を向ける。壁に大穴の開いた場所を見上げて、第四魔王は現実に引き戻される。

 ──アーガイルが、死んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

処理中です...