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第52話 M500と初交戦

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 煙草の一件もあり、着くのが遅くなったが店にはまだ灯りが点いており、何とか間に合ったようであった。

 「遅くなりました~……」と謝罪を言い、マサキとティナは店に入ったのである。

 「あ、いらっしゃい!随分と時間かかったのねぇ。」

 ポーラは奥のカウンターで商品の発送や在庫を調べたりの作業をしていた。

 「あ、すみません…色々あって……」
 (煙草で揉めて時間食ったなんて言えるか……)

 「ほんとよね~……時間掛かって……(白目)」
  ジト目でチラリとこちらを見るティナ。
 
 (その蔑んだ眼、イイ!)

 「まぁ、帰りに寄ってって言ったのはこっちだから。大丈夫よ!」
 と自分達を見るや否や、ポーラは足元をゴソゴソしだしたのだった。

 「で、渡したい物ってなんなんですか?」
 
 マサキはポーラのそんな様子を気にも止めず、質問したのである。

 「ちよっと、こちらにいらっしゃいな!」

  そう呼ばれて、二人は様子を伺うように奥のカウンターに進んだのであった。

 「そうそう、コレよ!」

 「ヨイショッ」とポーラは長方形の大きな箱を取り出した。

 「え?」

 マサキは思わずギョッとしたのである。
 それもそうだ。出された箱は何となく見覚えのある、ジェラルミンで出来たケースだったからである。

 「なんでこんな物が?これって何処から?どうやって?」
 
 どう見ても、前世にあったものと想像がついたのだ。
 この世界で、ジェラルミンもアルミも見た事は無い。
 そして、直感的に銃が入って居るのだろうと安易に予想出来るケースなのだが、大きさが尋常では無かったのだった。

 (え?ハンドガンとかじゃ無いのか?マシンピストル?サブマシンガン?何?この大きさ……てか長さ……)

 「ちょっと待って!ちゃんと説明するから。」

 (この人、元軍人とは言え色々謎だよなぁ……何故元軍人がハーブ屋やってんの?)

 「お察しの通り、元々これはアルフレッドの物よ。それでこれを貴方に渡したかったから呼んだのよ。」

 (銃じゃないのかな?とは察してたけど、ティナの父親の物という発想は無かったわ!)

 ポーラはそう言うと、ゆっくりとケースが開いたのであった。

 中にはキラキラと銀色に輝く一丁の銃が、所狭しと箱に横たわっており、余りの大きさと存在感に、暫くマサキは声を出すのも忘れていたのであった。

 「これは、アルフレッドが何年も掛けて、貴方と同じイマジナリーで組み上げた物よ。知ってるか解らないけど、これはS&WスミスアンドウェッソンM500 10.5インチハンターモデルよ。」

 ティナが感嘆の言葉を漏らす。

 「うわぁ!おっきいぃ~!凄いね!お父さんいつの間にこんな物作ってたんだか……」

  (別の機会に聴きたいわその台詞……)

 「市販の中で世界最強と謳われる銃ですよね。僕の……前世で知る限りではですけど。」

  前世の少ないヲタ知識が役に立つ瞬間であった。

 「あら、よく知ってるのね!なら口径も知ってるの?」

 「50口径でアクションエキスプレス……あ、これは454カスール弾でしたっけ?いや、S&WМ500マグナム弾かな?」

 何を喋って居るのか解らないけど、何か「凄そう」と言うだけで羨望の眼をティナから向けられるのであった。

 「WOW!貴方まさかガンマニアなの?」

 「いえ、そこまででは無いです、メジャー所位しか分からないですよ。」

 (にしても「S&WのМ500」とは、キワモノと云うべきか、一種の「ロマン武器」だろこれ。それと、何故か俺はS&Wスミスアンドウェッソンに縁が有るな。アルフレッドさんの好みなのか?)
 
 そう、先に手に入れたМ360も、このМ500も同じ有名メーカーであるS&Wスミスアンドウェッソン社製の銃である。
 S&Wと言えば真っ先に映画「ダーティーハリー」で一躍有名になったМ29の、通称44マグナムを思い出すのだが、所有しているМ360は、コルトパイソンで名の通った357マグナム弾を使用している。
 (なんかメジャー所行ってないよね……S&Wと云えば44マグナムだろうに。) 


 「それで十分よ!でも実銃を撃ったことは無いでしょ?」

 「勿論無いですよ。前世では日本在住のただのサラリーマンでしたから。でも、一発だけデザートイーグルの50アクションエキスプレスは撃った事がありますよ!」

 (前世でパスポートの期限が近付いて来て、無理矢理数少ない友達と海外旅行に行った時だ。)

 「え?どこで?」

 「グアムで。」

 「なるほど。なら説明は居らないわね!あ、ただ、オートよりは直接反動が来るから気を付けて!」

 (リボルバーのカスール弾とか頭おかしいだろ!М500用はカスールよりでかいんだっけ?)

 「でも何故自分に?」

 「だって、私はイマジナリー使えないもの!だから撃ったら弾は無くなる、後は飾りになるだけよ(笑)」

 「そう言う事でしたか。」

 (おいおい、弾が口紅……てか単三電池の大きさだぞ…こんなの俺に扱えれるのか?)

 「取り扱いには気を付けてね!本当に世界最強の銃なんだから!ま、この世にそれしか無いからなんだけどね(笑)」

 「まぁ、確かに「この世」では一丁しか無いので、正真正銘の世界最強の銃になりますね。(笑)」
 (てか、ビビって、普通に取り扱うのが怖いんですけど……)

 S&WM500が目の前にある事も非現実的なのだが、最近見慣れた来たM360の為、どうしても大きさにビビってしまう。しかもこのカートの大きさと来たら……

「もうそれは貴方の物よ!持ってみたらどう?」
と笑顔で奨めてくれる。

 恐る恐るそれを両手に取り持ち上げてみた。
 グリップは、以前、モデルガン等で握った事の有るパイソンよりも図太いがフィンガーチャンネルがある為にさほど気にならない。
 と言うよりも、グリップ内にマガジンが有る「オート」の方が握り慣れていた為、逆にこのМ500のグリップは小さい位であったのである。
 (絶対М9の方がダブルカイラムだからか太いわ)
 
 このМ500は重量が半端無かった。まるで二キロのダンベルを持ち上げているかの様であった。

 「重っ!」
 (こんなん苦行だわ!グアムで撃ったデザートイーグルも重かったけど、コイツもかなり重い!それに、仮に光学機器載せたら、殆どサブマシンガンと変わらん重さになるぞ!片手撃ちとか、かなり無理だろ?)

 「あははは!そりゃあんな大きい弾使うんだもの!当たり前でしょ!」

 「ま、まぁそうですよね……」

 「でもこの世界なら魔法が有るでしょ?身体強化してから使う事を薦めるわ!時に、貴方、身体強化出来るんでしょ?」

 「練習中ですが、一応は……」

 「なら問題無いわ!それを使えば連射も出来るわよ!」

 (こんな銃で連射て……撃つ方も撃たれる方もどっちも最悪だよな!)

 ポーラは自分の役目が終わったかのように、サバサバした感じで店を追い出された。
 帰りには専用のホルスターが無い為、革製の西部劇風な簡易的なガンベルトと共にオマケと称して付けてくれたのである。

 (なんて言うか、違和感ありありだな……)

 それもそうであった。西部劇に出てくる様なガンベルトに、前世の現代兵器が収まっているのだから。

 (こんな銃でファストドロウなんてしないだろwww)

 ハーヴィーを出た頃、辺りは完全に闇に包まれて夜中近くになっていたのであった。

 「あ~あ、かなり遅くなっちゃったね。」

 「まぁ、色々あったからなぁ。」
 (すまん、殆ど俺絡みだ……)

 夜道は危ないからと、ポーラさんにランタンを借りて帰路に着く最中である。

 「明日から旅なのにこんな遅くまで外出ってさ!」
 (ごもっともで……)

 「帰ったら早く飯食って寝るしか無いな!」

 「あ~……そう言えば晩御飯もまだだもんねぇ……帰ったら作るか……」
 と少々ウンザリ気味のティナである。

 「サッサと帰ろうぜ!」

  そう言ったその時、道の先に動く物がマサキの視界に入ったのだった。

 (ん?なんだあれ?)

 「マサキ!」

  咄嗟にティナは道端へランタンを投げつけたのだった。

 (おいおい、借り物のランタン投げちゃ駄目だろ……べ、弁償しないと駄目だよね……)

 そんな事をマサキは思いながら、未だ状況を把握しきれていなかったのである。

 その瞬間「ヒュッ」と腕に何かが掠った。

 「え?」

 某紅○団のジャージが二の腕の辺で裂け血が出ている。

 「痛っ!」
 (反射的に痛いとは言ったものの、痛さより衝撃しか感じない……)

 「マサキ!走って!」

 ティナがそう叫び、草原の方に走って行く姿が薄ら見えたのであった。
  (走れってどこによ!てか、置いてきぼりですか?俺は……)

 取り敢えずティナとは反射的に反対の方角に走り出す。

 生前、サバイバルゲームで慣れていた事で有るのだが、仲間と固まって逃げるのは、結果的に集中砲火を浴びると学んだのである。

 「何コレ……なんで襲われた?」

  マサキの心臓はバクバクと音を立てて、思考がまとまらないのであった。

 「おっさん!なんか良いもの借りたらしいじゃねぇ~か!」

  そう、襲った一人の男がしゃがれた声で喋ったのであった。

 (借り物?まさかギルドから借りたコレか?)

 「ま、武器も持たずにこんな夜中に歩いた事を後悔してくれや!」

 (何言ってんだこいつ?取り敢えず落ち着こう。状況把握だ。焦ったら負けだぞ……)

  冷や汗が「ぶわっ」と吹き出て来るのを、マサキは実感していたのであった。

 (先ず相手の人数だ。後、所有してる武器も分かれば……)

 「おっさんと子供じゃただの兎狩りだなぁ!」

 (ペラペラと良く話す奴だな………雑魚ほど鳴くってのはあながち間違いでは無いのかな?って、今は俺が追われてる状況な訳なのだけれど……)

 「痛っ!」
 
 突然、襲った連中の一人が言ったのである。

 「こん、クソガキ!石投げやがってぇ!」

 ティナがこちらから気を逸らすために、石を投げて攻撃していたのであった。
 (ティナの位置が解らないと下手に撃てない。かと言って一緒に居るとそれはそれでやばい。どうする俺?)

 「クソガキそっちに行ったぞ!」

 ガサガサと小さな影が近づいてくる。

 「ティナ!」
 と小声でマサキが呼んだ。

  敵の方を向いて、足元を見ずにティナは走っていた為に、匍匐で寝転んでいたマサキの顔面をキックする事になってしまったのである。

 「うごっ!!痛ってぇ~!!」

  目の前に星が散った。

  (顔っ!顔っ!モロに入った!)

  その拍子にティナはバランスを崩して、転んでしまったのであった。

 「きやっ!痛っ!」

 とティナは小さく悲鳴をあげたのである。

 その声に反応した「追い剥ぎ」はとんでもない事を抜かしながら二人を追い詰め始めたのだった。

 「そっちだ~!おっさんは殺しても構わねぇからサッサと捕まえろ!」

 何やら物騒な言葉が繰り出される。

 (やっぱおっさんは殺られる運命なのよね……何処かに「オッサン」の需要って無いものなのかね?)

 「ティナ、無事か?」
 
 マサキは、小声でティナの安否を確かめてから状況を確認したのであった。

 (暗闇に漸く眼が慣れた来た。相手は三人。武器は剣と弓のようだ。息を潜めてじっとしているので、こちらの位置はまだしられていない。)

 「反撃にでるか…」

 とおもむろに背中に挟んでいたM360を取り出し、右手に構えたのである。
 腰には、先程ポーラさんから譲り受けたМ500があるのだが、いきなり試射も無しに実戦投入するにはいささか躊躇するものであったのだ。

 「でも、どうやってよ?相手は三人よ……」

 「弓を持ってる奴こっちに引き寄せられないかな?」

 「私に囮になれって事?」

 「んだ!」

 その時ハッと気付いたのである。

 囮ってあの時と同じだ……この世界で初めて魔物に会った時の事をマサキは思い出したのだった。

 「草原は広いから三方から攻めるのがセオリーだ、そこで、弓を持ってる奴の後方にチャフ展開するから、ティナはそこを突破して逃げろ!援護はするから。」

 「マサキはどうするの?」

 「取り敢えず、向こうに飛び道具が無けりゃ何とかなるかも!こっちにはこいつあるし!」とカッコつけながらМ360を見せる。

 「でもそれ使ったら居場所バレちゃうじゃん!」

 「大丈夫、サバゲーだと思えば良いんだ。」

 (そう、さっきは不意を突かれたが、敵と解って居れば何とかなる。)

 「サバゲー?何それ?」

 「今は説明してる暇ないから!弓の奴がティナの五メートル圏内に入ったらチャフ展開、それで気を逸らした隙に俺が狙撃するから。立ち上がって逃げろ。おーけー?」
 (狙撃っ!狙撃っ!って、こんなちっさな拳銃で狙撃なんて出来るもんなのか?)

 「解ったけど、もし外したら?」

 「おい、ティナさんや、こう云う時にそれは言っちゃ駄目だってば!」
 (危うく死亡フラグ立てる所だったぜ…)

 「じゃ宜しく!無茶しないで!私は言われた通りにするから!(小声)」

 「アイ!マン!(小声)」

 ティナはジリジリと、なるべく音を立てないように匍匐前進で弓を持ってる奴の近くへ行く。その後を同じようについて行く。

 「ひひひ~!ひっさしぶりだぜぇ!ガキとは言え、一応女だからなぁ!ヒャッハー!」

 それを聞いてマサキは一瞬頭に血が登ったが、冷静をどうにか持ちこたえた。

 「ゴミが……」

 おもむろに装填済みの非致死性弾薬を抜き、全弾FMJ(フルメタルジャケット)に再装填する。最初は非致死性弾で片付けるつもりであったが、殺意を持つ相手に情けを掛ける必要は無い。ましてや、前世の日本では無いのならであった。

 「クソゴミは排除だ……」

 マサキはそう呟いて魔法の展開を始めた。


 (イマジナリーチャフディスペンサー……)


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