30年越しの手紙

星の書庫

文字の大きさ
上 下
17 / 50

大晦日

しおりを挟む
「年末の行事は一つに統合した方がいいと思う」
 十二月三十一日。今日は、世間では大晦日と呼ばれている日だ。そんな日に、僕たち渡邊家は大掃除をしていた。
「喋ってる暇があったら手を動かしなさいよ~」
 母さんはリビングの床を拭きながら僕に言う。
「だいたいどうして大晦日まで掃除しないんだよ!もっと早くやれば年末ゴロゴロ出来たのに!」
「あんたがひなちゃんと毎日毎日遊んでるからでしょうが!」
「僕抜きでやればいいでしょ!」
「あんた一人楽するのは不公平でしょ!あんたの部屋のエロ本、ご近所さんにばら撒くわよ!」
「エロ本なんか持ってない!」
「あらそう?じゃああんたのベッドの下でも掃除してこようかしら……」
「なんで隠し場所知ってるんだよ!やめて!もうやめて⁉︎恥ずかしいから!ちゃんと掃除するから!」
 うまく隠しても、意外と母さんには筒抜けだったりする。全国の男子高校生諸君、今すぐエロ本の隠し場所を変えるんだ!
「サボってるとひなちゃんにエロ本の場所教えるわよー」
「サボってないから!」
 母さんには一生絶対勝てない気がする。僕は観念して自分の部屋の掃除に取り掛かった。
「やっぱり、エロ本の場所変えようかな……」
これ以上母さんに筒抜けなのは困る。そう思いながらベッドの下を覗くと、エロ本の他に、二つ折りにされた一枚の紙が落ちていた。
「ん?なんだこれ?」
紙を拾って開くと、綺麗な字で「エロ本見つけちゃった♡」と書いてある。僕はその紙を母さんに投げつけた。
「母さん!イタズラにしちゃタチ悪いよ!」
「あら?私はこんな紙、書いた覚えが無いけどねぇ……」
母さんからは、意外な返事が返ってきた。
「え?じゃ、じゃあもしかしてこれって……」
「ひなちゃんだろうね。あんた、ひなちゃんにまで筒抜けだったのかい!あはははは!」
「マジかよ……」
「兄ちゃん、それは流石に……」
母さんが腹を抱えて笑う中、僕と弟は言葉を失っていた。
 丁度その時、彼女からメールが来た。
「……ひなからメールだ」
『やっほー!ベッドの下、気付いた?ハルキって百合が好きなんだね!』
「メールのタイミングが絶妙⁉︎怖いよ!」
これは監視カメラの存在を疑うレベル。正直言って相当怖い。そして、彼女に性癖を知られてしまった。
「死んでもいいかな……。ん?またメールだ」
『あ、死んでもいいかなとか思っちゃダメだよ!』
「だから怖いって!」
僕の周りの女性陣、怖すぎる……。

 その後は、特に変わったことは起きなかった。掃除が終わったのは午後四時過ぎだった。
「やっと終わった……」
「これで良い年が迎えられるわ」
「今年も、もう終わりかぁ」
「早かった」
「一番びっくりしたのは、ハルキに彼女ができたことね」
「それ、そんなに驚く事?」

こうして、僕たち渡邊家は年を越していった。
しおりを挟む

処理中です...