30年越しの手紙

星の書庫

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一年

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 僕の家に来てから、ひなはずっと落ち着きがない。
それもそのはず。今日は彼女と付き合い始めて一年の記念日だ。
かく言う僕も、そわそわしているのがバレバレだろう。
「ね、ねぇ。ハルキ……」
「ど、どうした?喉乾いた?持ってこようか?」
「ううん……。そうじゃないの」
「そ、そうだよね……」
「分かってたでしょ?」
「そうだけどさ……」
「ハルキのお母さんって、パワフルだね……」
「僕の方は困りっぱなしだよ」
「あはは……」

 こんなに気まずくなったのも、一時間前。
彼女が僕の家に来た時が原因だ。
「お邪魔しまーす!」
「はいはいいらっしゃーい!今日で一年だっけ?おめでとうねぇ」
「えへへ……。ありがとうございます!」
 嬉しそうに話す母さんと、照れながら笑う彼女。僕は一歩引いた所から見ていた。
「ところで、あんたらはどこまでやったんだい?」
「ふぇ?どこまでって……?」
「エッチはしたのかいって聞いてるのよ」
「えっ!?エエエエエッチ!?そ、そんな事……!」
「母さん!もう良いから!」
母さんの爆弾発言に、僕も彼女も赤面する。
僕たちの反応を見た母さんは、ニヤニヤと笑う。
「ちょっと待ってなさい!すぐ戻るから!」
「え?あ、はい……」
まだ顔が赤い彼女を置いて、母さんは自分の部屋へと走って行く。
数分後。ドタバタと近寄ってくる母さんの手には、開けやすいようにギザギザの付いているような、四角い袋の入った箱があった。
「ちょ、母さん……」
「え?え?」
僕は全てを察し、彼女は首をひねって、母さんと僕を交互に見る。
「ひなちゃん。私は買い物に行く事になったから、二人で楽しみなさい!避妊はちゃんとするんだよ!」
「ひ、避妊!?」
母さん、明らかに反応を見て楽しんでいるな……。
母さんは豪快に笑うと、そのまま家を出て行った。
「……ハルキ」
「う、うん?」
コンドームこれ、どうしよう?」
僕は気まずくなって、彼女に声をかけた。
「とりあえず、部屋に行こうか……」
「そ、そうだね……」

 そんなことがあって、僕と彼女の間に流れているのは、今までにないくらい気まずい空気だった。
なんとなく彼女を見ると、彼女も僕を見ていたのか、目が合ってしまった。
「あっ!ご、ごめん!」
「ううん!私こそ!」
「……」
「……」
「これ、どうしようか……」
僕は避妊具の入った箱を持って、彼女に聞く。
「ど、どうって言われても……。ねぇ?」
「ねぇって言われても……」
「ちょっと開けるだけ……する?」
「……そうする?」
 緊張よりも、僕たちは好奇心の方が強かった。

 赤面しながら、僕たちはコンドームそれの箱の封を切る。
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