30年越しの手紙

星の書庫

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そして「僕」は

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 あれから一年。色々な事があった。
 まず、翔と話をしなくなった。クラスが変わったのも、それを助長したのだろう。
 次に、ひなが転校していった。
彼女がいない日々に違和感はあったが、振られたのだと自覚すると共に、何も思わなくなった。
続ける理由も無くなったので、陸上部は退部した。
 僕は高校を卒業し、春から都内の大学で英語を勉強する。

 高校卒業と同時に、ひなが病死したと聞いた。

 大学での四年間は、あっという間に過ぎ去った。
特に面白いと思うものも、嫌いなものも無かった。
 三ヶ月だけ、交際関係まで発展した女の人がいた。
心の中のどこかでひな元カノを想っていたのかもしれない。
この状態で人と付き合っても上手く行かない。そう悟った僕は、誰とも付き合わないよう、日陰に生きる事を決めた。

 僕は大学を卒業すると、都内の中小企業に就職した。
それからは、どこにでもいる普通のサラリーマンライフを送った。
独り身でお金の使い道もないので、貯金ばかり増えていく。
金目当てで近寄ってくる女の人もいたが、皆断った。

 そうして、高校卒業から三十年。
世間では中年と呼ばれる年まで独身を拗らせていた僕に、ひなからの手紙が届いた。
「あぁ……。そうだったな」
僕は、彼女との出来事を思い出す。
彼女と行った場所。彼女とした事。
忘れていた事もあれば、一言一句覚えている言葉まで。彼女との二年間に、どれだけの幸せが詰まっていたのか、思い出した。
「あれ?一枚、取り忘れたか?」
読み終わった手紙を片付けようとして便箋を手に取ると、一枚の紙が落ちてきた。
「……読んでみるか」

『ハルキへ。
この手紙も読んでくれると嬉しいな。
私ね、ハルキに謝らなきゃいけないことがあるの。それは、ずっと君に嘘をついていた事。三十年経った今だから言える事なんだけどね
ハルキと別れる時、お遊びだったなんて言ったでしょ?私ね、言った事をすごく後悔してるの。私はずっと、ハルキに恋してた。
でもね。病気が治らなくて、入院しなきゃいけなくなるって聞いてさ。本当はもう、絶対に治らないってわかっていたの。入院なんてしても無駄だって。だから、君とはもう会えないなって思って。
あのまま君が私と付き合っていたら、私が死んだ時に君が辛いでしょ?
翔くんと付き合ってたって言ったのも、実は嘘なんだ。あの人は怒らないであげてね?
嘘だらけで、ごめんね。
私が君を忘れるには、君を傷つけなくちゃいけなかった。
もう三十年経ってるから、許してくれると嬉しいな。
三十年、君はどう過ごしてきた?
彼女は、お嫁さんは、もういるの?
もし私との事で躓いているなら、私が天国から君のお尻を蹴りに行くからね?
さっさと私を忘れて、新しい恋を始めなさい!
でも、そんな事言ったって君は「君以外を好きになるはずないよ」って笑うんでしょ?
だからね、今日は君にトドメを刺そうと思うんだ。
君が私の事を忘れられるように、ね?

 私は天国で良い人を見つけて、幸せに暮らしています。
その人は、ハルキなんて一生かなわないようなスーパースターです。
だから、ハルキが死んでも私と結婚は出来ません。残念だったね。
君は、私じゃない誰かと必ず結婚します。
その人を、君が一生かけて守り通してください。
それが私との約束。
君は、どうしたい?
じゃあ、私はそろそろ逝くね。バイバイ』

 いつの間にか、僕は泣いていた。
何十年ぶりに、涙を流した気がする。
ずっと渦巻いていた霧が晴れた。
 これからは、少しだけ前向きに生きようと思う。

 次の日。僕は髪を切った。かけていた眼鏡を外し、コンタクトにした。
次の出勤日は、僕がずっと好意を受けている女性に声をかけてみようと思う。
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