35 / 54
後夜祭
しおりを挟む
二日間の文化祭は、とても長く感じた。
本来なら一度きりの出番のはずだった劇を、残りの三回もロミオとして出演させられたからだ。俺のクラスは、ステージ発表の人気投票で一位に輝き、主役を演じた俺と青山さんは、二人揃って表彰を受けた。
文化祭の全日程が終了し、後夜祭のキャンプファイヤーが始まった。グラウンドの中心にある火を囲むように、生徒たちが踊り出す。俺は少し離れた場所から、その様子を眺めていた。
普段出さないような大声を出し、ステージ上を動き回ったせいで、俺は平静を装う余裕も無いほど疲れていた。他の生徒も、二日間であれほど動き回っただろうに、どこにダンスをする元気があるのだか。
不意に、俺の首筋を冷たい感触が襲う。驚いて後ろを振り向くと、青山さんが立っていた。彼女は劇で見せた、イタズラが成功した子供のような笑顔で俺を見る。
「お疲れさま。喉が渇いた頃だろうと思って」
「……ありがとう」
彼女は心の声が漏れてたよと笑い、俺の横に腰を下ろした。特に会話をするでもなく、俺たちは生徒の囲む火を眺めながら、静かな時間を過ごす。
最初に口を開いたのは、青山さんだった。
「ねえ、島崎くん。私は今、あなたにすごく感謝してる。いくらありがとうって言っても足りないくらいに」
「急に?俺は何もしてないよ」
人に感謝されるような事は、何もしていないはずだ。俺のしたことといえば、青山さんの頼みを聞いて、強引に主役を代わってもらったことくらいだと思う。
「そんなことないよ。島崎くんがいなかったら、私たちは劇で一位を獲ることができなかっただろうし……。何より、私は今こんなに幸せな気持ちになれていなかったと思う」
「……そんな大袈裟な」
「大袈裟なんかじゃないよ。修学旅行では私に手を差し伸べてくれたし、私と恋人にもなってくれた。夏休みはあまり会えなかったけれど……一緒に花火も見れたし、今回だって私のわがままを聞いてロミオを演じてくれた」
「それは青山さんが困っていたからで、特に深い意味は……」
俺は困っている人のため、恋人のために出来ることをしただけで、それ自体に意味はないはずだ。だが、青山さんはそれをキッパリと否定した。
「意味がないわけないよ。恋人のためにそこまで出来るって、私は素敵だと思う」
「……そっか」
「それに、私は島崎くんがこうして隣にいてくれるだけで、充分幸せだよ」
青山さんは俺の肩に頭を乗せて、静かに目を閉じる。
「このまま寝ちゃいそう」
「……風邪引くよ」
「島崎くんが暖めてくれるでしょ?」
そう言って彼女は笑う。俺は羽織っていたブレザーを青山さんの肩に掛けた。
「……ねえ、純くん」
「……どうした?」
いつもとは違う呼び方に、少し戸惑ってしまった。青山さんは恥ずかしそうにこちらを見ている。
「キス、してもいいかな……」
「……うん」
盛んに燃える火を囲む生徒たちの死角。真っ暗な空の下で。
俺たちは、夏祭り以来二度目の、唇を重ねた。
本来なら一度きりの出番のはずだった劇を、残りの三回もロミオとして出演させられたからだ。俺のクラスは、ステージ発表の人気投票で一位に輝き、主役を演じた俺と青山さんは、二人揃って表彰を受けた。
文化祭の全日程が終了し、後夜祭のキャンプファイヤーが始まった。グラウンドの中心にある火を囲むように、生徒たちが踊り出す。俺は少し離れた場所から、その様子を眺めていた。
普段出さないような大声を出し、ステージ上を動き回ったせいで、俺は平静を装う余裕も無いほど疲れていた。他の生徒も、二日間であれほど動き回っただろうに、どこにダンスをする元気があるのだか。
不意に、俺の首筋を冷たい感触が襲う。驚いて後ろを振り向くと、青山さんが立っていた。彼女は劇で見せた、イタズラが成功した子供のような笑顔で俺を見る。
「お疲れさま。喉が渇いた頃だろうと思って」
「……ありがとう」
彼女は心の声が漏れてたよと笑い、俺の横に腰を下ろした。特に会話をするでもなく、俺たちは生徒の囲む火を眺めながら、静かな時間を過ごす。
最初に口を開いたのは、青山さんだった。
「ねえ、島崎くん。私は今、あなたにすごく感謝してる。いくらありがとうって言っても足りないくらいに」
「急に?俺は何もしてないよ」
人に感謝されるような事は、何もしていないはずだ。俺のしたことといえば、青山さんの頼みを聞いて、強引に主役を代わってもらったことくらいだと思う。
「そんなことないよ。島崎くんがいなかったら、私たちは劇で一位を獲ることができなかっただろうし……。何より、私は今こんなに幸せな気持ちになれていなかったと思う」
「……そんな大袈裟な」
「大袈裟なんかじゃないよ。修学旅行では私に手を差し伸べてくれたし、私と恋人にもなってくれた。夏休みはあまり会えなかったけれど……一緒に花火も見れたし、今回だって私のわがままを聞いてロミオを演じてくれた」
「それは青山さんが困っていたからで、特に深い意味は……」
俺は困っている人のため、恋人のために出来ることをしただけで、それ自体に意味はないはずだ。だが、青山さんはそれをキッパリと否定した。
「意味がないわけないよ。恋人のためにそこまで出来るって、私は素敵だと思う」
「……そっか」
「それに、私は島崎くんがこうして隣にいてくれるだけで、充分幸せだよ」
青山さんは俺の肩に頭を乗せて、静かに目を閉じる。
「このまま寝ちゃいそう」
「……風邪引くよ」
「島崎くんが暖めてくれるでしょ?」
そう言って彼女は笑う。俺は羽織っていたブレザーを青山さんの肩に掛けた。
「……ねえ、純くん」
「……どうした?」
いつもとは違う呼び方に、少し戸惑ってしまった。青山さんは恥ずかしそうにこちらを見ている。
「キス、してもいいかな……」
「……うん」
盛んに燃える火を囲む生徒たちの死角。真っ暗な空の下で。
俺たちは、夏祭り以来二度目の、唇を重ねた。
0
あなたにおすすめの小説
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています
木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。
少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが……
陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。
どちらからお読み頂いても話は通じます。
バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~
スズキアカネ
恋愛
バイト三昧の変わり者な普通科の彼女と、美形・高身長・秀才の三拍子揃った特進科の彼。
何もかもが違う、相容れないはずの彼らの学園生活をハチャメチャに描いた和風青春現代ラブコメ。
◇◆◇
作品の転載転用は禁止です。著作権は放棄しておりません。
DO NOT REPOST.
ホウセンカ
えむら若奈
恋愛
☆面倒な女×クセ強男の不器用で真っ直ぐな純愛ラブストーリー!
誰もが振り返る美しい容姿を持つ姫野 愛茉(ひめの えま)は、常に“本当の自分”を隠して生きていた。
そして“理想の自分”を“本当の自分”にするため地元を離れた大学に進学し、初めて参加した合コンで浅尾 桔平(あさお きっぺい)と出会う。
目つきが鋭くぶっきらぼうではあるものの、不思議な魅力を持つ桔平に惹かれていく愛茉。桔平も愛茉を気に入り2人は急接近するが、愛茉は常に「嫌われるのでは」と不安を抱えていた。
「明確な理由がないと、不安?」
桔平の言葉のひとつひとつに揺さぶられる愛茉が、不安を払拭するために取った行動とは――
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
※イラストは自作です。転載禁止。
27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?
藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。
結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの?
もう、みんな、うるさい!
私は私。好きに生きさせてよね。
この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。
彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。
私の人生に彩りをくれる、その人。
その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。
⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。
⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
簒奪女王と隔絶の果て
紺乃 安
恋愛
穏やかな美青年王子が、即位した途端に冷酷な王に変貌した。そしてそれが、不羈の令嬢ベアトリスの政略結婚相手。
ポストファンタジー宮廷ロマンス小説。
※拙作「山賊王女と楽園の涯」の完結編という位置づけでもありますが、知らなくとも問題ないよう書いてあります。興味があればそちらもお読みください(ただしずいぶんジャンルが違い、とても長いです)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる