【本編完結】瓦解

星の書庫

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後夜祭

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 二日間の文化祭は、とても長く感じた。
本来なら一度きりの出番のはずだった劇を、残りの三回もロミオとして出演させられたからだ。俺のクラスは、ステージ発表の人気投票で一位に輝き、主役を演じた俺と青山さんは、二人揃って表彰を受けた。

 文化祭の全日程が終了し、後夜祭のキャンプファイヤーが始まった。グラウンドの中心にある火を囲むように、生徒たちが踊り出す。俺は少し離れた場所から、その様子を眺めていた。
普段出さないような大声を出し、ステージ上を動き回ったせいで、俺は平静を装う余裕も無いほど疲れていた。他の生徒も、二日間であれほど動き回っただろうに、どこにダンスをする元気があるのだか。
 不意に、俺の首筋を冷たい感触が襲う。驚いて後ろを振り向くと、青山さんが立っていた。彼女は劇で見せた、イタズラが成功した子供のような笑顔で俺を見る。
「お疲れさま。喉が渇いた頃だろうと思って」
「……ありがとう」
彼女は心の声が漏れてたよと笑い、俺の横に腰を下ろした。特に会話をするでもなく、俺たちは生徒の囲む火を眺めながら、静かな時間を過ごす。
 最初に口を開いたのは、青山さんだった。
「ねえ、島崎くん。私は今、あなたにすごく感謝してる。いくらありがとうって言っても足りないくらいに」
「急に?俺は何もしてないよ」
人に感謝されるような事は、何もしていないはずだ。俺のしたことといえば、青山さんの頼みを聞いて、強引に主役を代わってもらったことくらいだと思う。
「そんなことないよ。島崎くんがいなかったら、私たちは劇で一位を獲ることができなかっただろうし……。何より、私は今こんなに幸せな気持ちになれていなかったと思う」
「……そんな大袈裟な」
「大袈裟なんかじゃないよ。修学旅行では私に手を差し伸べてくれたし、私と恋人にもなってくれた。夏休みはあまり会えなかったけれど……一緒に花火も見れたし、今回だって私のわがままを聞いてロミオを演じてくれた」
「それは青山さんが困っていたからで、特に深い意味は……」
俺は困っている人のため、恋人のために出来ることをしただけで、それ自体に意味はないはずだ。だが、青山さんはそれをキッパリと否定した。
「意味がないわけないよ。恋人のためにそこまで出来るって、私は素敵だと思う」
「……そっか」
「それに、私は島崎くんがこうして隣にいてくれるだけで、充分幸せだよ」
青山さんは俺の肩に頭を乗せて、静かに目を閉じる。
「このまま寝ちゃいそう」
「……風邪引くよ」
「島崎くんが暖めてくれるでしょ?」
そう言って彼女は笑う。俺は羽織っていたブレザーを青山さんの肩に掛けた。
「……ねえ、純くん」
「……どうした?」
いつもとは違う呼び方に、少し戸惑ってしまった。青山さんは恥ずかしそうにこちらを見ている。
「キス、してもいいかな……」
「……うん」

 盛んに燃える火を囲む生徒たちの死角。真っ暗な空の下で。
俺たちは、夏祭り以来二度目の、唇を重ねた。
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